第70回日本アレルギー学会学術大会 その1

※第70回日本アレルギー学会学術大会は2021年10月8日から10月10日までパシフィコ横浜にて開催されました。
私はWEB参加し、何度も繰り返し聴講して最新の知見を学びましたのでご報告します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

◆S7 生活環境汚染とアレルギー

◆S7 生活環境汚染とアレルギー

Opening Remarks

環境中のアレルゲンは多様である。
 室内 ダニ、カビ、室外 花粉・黄砂・PM2.5
我々は空中に浮遊する多種のアレルゲンに常に暴露されている。
吸入により気道内取り込んでいる。→ 鼻・副鼻腔炎、喘息・過敏性肺炎などが発症する。
近年の大気汚染によるアレルギーの問題としたPM2.5 などの浮遊粒子物質が問題となっている。微小なために大気中に長時間停留し、吸入することで呼吸器系に障害を起こすことが報告されている。
東アジアの経済発展に関連して、黄砂が大気汚染地域を通過した際に様々な汚染物質を含んだ状態で我が国に飛散することもわかっている。

●S7−1 PM2.5 と健康被害

慶應義塾大学科学教室
井上浩義先生

PM2.5 とヘパフィルター

・ヘパフィルターは緻密かつ整然としている。
PM2.5 の生物作用として、2017年に気管支上皮細胞(培養)にPM2.5 の用量依存的な暴露によってテロメア長が短くなっていくことが報告された。(※テロメアが一定長より短くなると不可逆的に細胞増殖を止め、細胞老化と呼ばれる状態になる。)
・日本の家屋はPM2.5 が全く除去できない構造であり、日本人はなにかあると外気をいれるという習慣もあることから、除去困難である。
日本の家屋では家の中のほうが外気よりもPM2.5濃度が高い。その理由はリビングで調理したり、ペットを飼うことで高くなる。
・演者らは自宅を完全に密閉し、室内換気を循環し、すべての空気をHEPAフィルターに通過させる、という研究を行った。
5年間に渡り外気と室内気のPM2.5 濃度を測定した結果、外気に対する室内気のPM2.5累積比率は96−98%低減した。
玄関や窓を開けると一気にPM2.5 が上昇するが、演者らのシステムでは15分で測定限界以下に復帰する。
PM2.5 より大きい粒子は当然ながらほとんど除去される。スギ花粉もカビ菌もほぼ無くなる。
演者らはさらにHEPAフィルターに界面活性剤を含浸させて、フィルターに捕捉したスギ花粉を分解させるように機能を追加した。
界面活性剤1%含浸したフィルターなら、スギ花粉はほぼ分解した。
先行研究ではPM2.5 はFVCとFEV1.0 に影響すると報告されているが、演者らの設計した住居に5.7年居住後に呼吸機能は低下しなかった。今後も検討を続ける予定である。
・HEPAフィルターはいままで詰まりやすく高価であるとされたが、演者らの設計住居では5年間掃除いらずで、かつ家全体で7000円程度の出費で可能とした。

Q and A

Q 抗原量はどのように測定したか
A 分子量分布を測定、ELISAでも測定し、当該抗原の消失を確認した。
Q 居住環境のフィルターは、少しでも湿ると一部の真菌は増殖しHOT SPOTとなるが、演者のフィルター機能はどの程度か。
A 演者らのフィルターには水分がたまらないような温度と湿度管理の工夫を施しており、真菌は発生しない。

●教育講演18 時計じかけのアレルギー:概日時計によるアレルギー制御

山梨大学医学部
中尾篤人先生

概日時計はアレルギー反応を制御している。

従って、睡眠、食事、ストレス、運動、薬の服用時間など日常生活リズムを見直すことにより、症状・治療応答性の改善や新たな治療標的の発見につながる。

概日リズムは我々の遺伝子に刻まれている。

・概日時計(Circadian Clock);Circ:おおよそ、-Dian:1日
ヒトの生理活動概日リズムには、体温、血圧、メラトニン分泌、コルチゾール分泌、覚醒と睡眠などがあげられる。
メラトニンは夕方から上昇し、コルチゾールは明け方に上昇するという睡眠覚醒リズムに関与している。
特にコルチゾールの活動期直前の上昇はモーニングサージと言われる。
地球の自転による昼夜の変化が生物にとって多大な生存圧力となっており、概日リズムの原因である。
概日リズムは我々の遺伝子に刻まれている。

分子時計機構

・我々の1つの細胞には時計遺伝子と呼ばれるものが20個くらい存在する。
主たる時計遺伝子はCLOCK、 BMAL1、CRY、PERである。
CLOCK、BMAL1は転写因子であり、E-box配列(CACGTG)を持つ遺伝子に結合する。PER、CRYはこの配列をもっている。
(※転写因子とは、DNAに特異的に結合するタンパク質の一群であり、DNAプロモーター領域に転写因子とRNAポリメラーゼが結合し、転写が開始する。つまり遺伝子の発現のスイッチをONにするものである。)
PER,CRYはCLOCK、BMAL1の転写活性を抑制する働きがあり(negative feedback)、PER,CRYの発現は周期性を示すことになる。
・CLOCK、BMAL1、PER、CRYはcore clock gene であり、このnegative feedback + αの機構によりCLOCK, BMAL1の活性が24時間周期で振動するようにプログラムされている。PER,CRY以外にも多くの遺伝子がE-Box配列を持っており、それぞれの遺伝子がそれぞれの組織で振動を繰り返している。

なぜ、概日時計があるのか?

・地球の自転に合わせるのは生存に有利である。
たとえばシアノバクテリアは地球上で初めて光合成を行うようになった細菌と言われる。日中は光合成に関する種々の遺伝子や酵素を活性化する必要があるが、夜間も光合成可能状態を維持するとエネルギーの無駄遣いとなるのでそれらは休止して、解糖系の遺伝子がactiveになる。
ある研究では、シアノバクテリアの概日時計が25時間のwild typeと23時間と30時間の変異typeを混ぜて日中:夜間=15時間:15時間とすると30時間周期のものが生き残り、11時間:11時間にすると23時間周期のものが生き残ることが示された。
すなわち概日時計が環境時間にフィットしたものほど生き残るのである。

時計遺伝子は本当に振動しているのか。

・脳の視交叉上核は2万個ほどのニューロンの集団である。
CRY遺伝子のないマウスでは周期性はあまりないが、遺伝子を組み込むと24時間周期がはっきりと発現する。
・好酸球および3型自然リンパ球でもPER,CRYは振動している。
演者らはPER2-LUC knock -in miceを作成し(PER2が振動すると発光するようにしたもの)、培養マスト細胞のPER2の時計遺伝子が24時間周期で振動することを証明した。
・肝臓の概日リズム
肝臓は炭水化物、脂肪、アミノ酸、毒物などの代謝を行っているが、それぞれに属する一つ一つの遺伝子が振動している。
例えばコレステロールの原材料であるメバロン酸はHMG-CoA還元酵素により生合成されるが、その遺伝子は24時間周期で振動しており、夜間に産生亢進するので、メバロチンは夕食後投与が望ましいとされている。
ある標的遺伝子の振動のピークに併せて投薬することを「時間治療」と呼ぶ。
ただし現在は半減期24時間以上の長時間作用薬が多いのであまり時間治療を気にする必要性はなくなったが、半減期の短い薬剤では念頭に置く必要がある。
・マウス肝臓の概日リズム
近年非常に速いスピードで概日リズム分子動態の網羅的解析解析が進んでいる。
2007年は遺伝子の発現の有無しか判明しなかったが、最近の技術は「各種転写因子のDNA結合動態」「リン酸化動態」「ユビキチン化動態」等、ありとあらゆることが調べられる。
マウス肝臓の遺伝子発現パターンを6時間周期で見ると、最初の活動期の6時間は免疫系遺伝子の発現が増加しており、次の6時間は脂肪代謝に関連する遺伝子、次は細胞周期関連遺伝子の発現が増加していたという。
それぞれ脂肪代謝にはマスターレギュレーターと呼ばれる転写因子が存在することは知られていたが、その上に時計遺伝子が肝臓トランスクリプトームの全体のマスターレギュレーターとして働いていると考えられている。
・タンパク質量も振動がある
現在はプロテオミクス解析によりタンパク質量も精緻に解析できるが、タンパク質量が24時間周期で振動していることが知られている。
肝臓のKupffer cellsはマクロファージの親戚であり、肝臓は自然免疫系dominantな臓器なのでKupffer cellsの活動は重要である。
Toll like receptorなどの自然免疫系のレセプターやsignal分子に関するタンパク質の発現が24時間周期で発現している。(Nature communications 9:1553;2018)
肝臓以外の臓器でも同様の報告がされている。
・SARS-COV2ワクチンは昼よりも朝に打つ法が効果的
SARS-COV2ワクチンを朝9時に接種した群と昼3時に接種した群では、朝接種群で中和抗体産生量が多い!(Cell Research 1-3, 2021)
インフルエンザワクチンについても同様である。ただし、実際の感染防御活性には影響はないと思われる。
・肺は肝臓と同じくらいリズミックな臓器である。
喘息の日内変動と関連するであろう。

概日時計システム

・前述のように細胞の一つ一つに時計が備わっているが、人間の体は40兆個の細胞でできているためそれぞれがばらばらに活動すると、統一した生理活動ができない。よってこれらを制御する仕組みが必要である。一方で、細胞の時計周期は若干24時間より長いため、地球の自転と毎日20分程度ずれていく。この2つの仕組みを統合する必要があり、その役目が中枢時計とよばれる視交叉上核(SCN;suprachiasmatic nucleus)である。
SCNは網膜と連結しており、朝の光を感知するとSCNの時計をリセットする。SCNは視床下部に存在し、視床下部は自律神経やホルモンの中枢であり、SCNは自身の時間情報を翻訳しそれらの伝達系を利用して末梢時計に伝達し統合していると考えられている。
最近の研究では光だけでなく、朝食が末梢時計のリセットに重要とされている。
光は、ずれたリズムをリセットするが、光がなくても生きることはできる。
例えば深海生物では地下火山活動の硫化水素が振動していると、その濃度でリズムがつくられる。
→ 規則正しい生活では環境の時間と概日時計は同調し心や体に正常なリズムを生み出す。
・末梢血白血球数も概日リズムが存在し、当てる光を長くしたり短くしたりすると、その数が増減する。

現代は社会的時差ボケの状態である

・夜間の明かり、パソコンやスマホのブルーライト、夜勤、海外出張や旅行(Jet Lag)、コンビニなどで24時間いつでも食事を食べられる、などなど、現代社会は光毒性がおおい。
これらの要因は、環境時間と概日時計の時間とのズレを生じさせる。すなわち現代は社会的時差ボケの状態である。時計の振幅が低くなったり、周期が伸びたり、最悪振幅がなくなるかもしれない。
→ 心と体の正常なリズム性が消失し最適な生理活動ができなくなっている。
進化の過程で現代のような状況は想定されておらず、概日時計は現代社会では邪魔なのかもしれない。

環境時間と概日時計のズレは健康維持や病気の発生に深く関係する

・マウスの実験では、活動期に限定して食事を摂る群と1日中いつでも食事を摂れる群に分けると、同一カロリーの摂取でも明らかに1日中食事を摂るほうが太る(Hatori et al. Cell Metabo 2012)。時計遺伝子欠損マウスは太るし、しかも明らかに短命となる!
・夜勤時間が多い看護師ほど乳がんの発症率が高い!(Hansen et al. Eur J Cancer 2012)
・宇宙ステーションは最も概日リズムが狂う環境である。
宇宙ステーションに6ヶ月滞在した宇宙飛行士のサイトカインプロフィールを検討した研究では、地球上に比較して、ステーション滞在中のINFγ、IL-4、IL-5、IL-10、IL-17、TNFαなど種々のサイトカイン産生が著明に低下していた。
さらにヘルペス帯状疱疹など、潜伏ウイルスの再活性化が問題となっている。すなわち概日時計のみだれにより免疫低下するためと考えられる。
・ノーベル医学生理学賞2017では概日時計に関連する研究者が受賞した。

アレルギーと概日時計

・喘息は夜間に発作を起こしやすく、朝方のピークフローが低下する。
・アレルギー性鼻炎のモーニングアタック(起床時の鼻閉とくしゃみ)は昔から知られている。
・スギ花粉症患者の好塩基球のスギ反応性は朝方亢進している。(※スギ花粉症患者から好塩基球を採取しスギ花粉で刺激する「好塩基球活性化テストBAT」にて。)
・皮膚バリア機能の概日リズムでは、経表皮水分蒸散量(TEWL)は12時頃最小となり深夜に最大となる。
アトピー性皮膚炎では就寝時にかゆみが増悪するが、皮膚バリア機能は全体的に夜間に低下することが知られており、眠前の保湿が重要である。
・I型アレルギー反応のマウスモデルとしてPCA反応(passive cutaneous anaphylaxis)
抗原特異的IgEをマウスに皮下注すると皮下のマスト細胞と結合する。その後抗原と色素(Evans Blue)を静注すると、マスト細胞が脱顆粒してヒスタミンなど放出して血管透過性が亢進するので色素が皮下に漏出する。この色素の強さを定量するとPCA反応の強さがわかる。
この実験系を用いて演者らはI型アレルギー反応と概日リズムの関連を検討した。
野生型マウスではPCA反応が強い時間(休息期)と弱い時間(活動期)の概日リズムが認められたが、PER2変異マウスやマスト細胞選択的Clock変異マウス、SCN破壊マウス、明暗環境を10時間:10時間にセットしたマウスでは、いずれも概日リズムは認めなかった。
→ I型アレルギー反応の花粉症や蕁麻疹の時間依存性は、概日時計(特にマスト細胞の)が制御していると考えられる。
・IgEβ鎖配列のみ概日リズムがある。(振動している)
さらに演者らはマスト細胞のみ時計遺伝子を壊したマウスを作成しPCA反応を検討した。
野生型では夜間活動期のPCA反応は弱くなるが、時計破壊したマウスでは変動は認めなかった。
IgE受容体はα、β、γ、の3つのタンパク質で構成されるが、β鎖に発現リズムがあり、時計の壊れたマスト細胞ではそのリズムが消失するためと考えられる。β鎖遺伝子のプロモーター領域には”E-Box配列”と呼ばれる時計タンパク質Clockが結合する配列があり、時間とともに離合を繰り返している(時間依存性がある)。
マスト細胞の時計はIgE受容体β鎖の発現を24時間周期に制御している。
従って、同じ抗原量に暴露してもIgE受容体発現量が多い時間帯には脱顆粒の反応が強く、発現量が少ない場合には反応は弱くなる。
マスト細胞の時計が脱顆粒反応の概日リズムを生み出しているのである。
・マスト細胞はどうやって時計が制御されているのか?
マスト細胞は我々の体に1兆個存在するといわれており、もし1個1個のマスト細胞の時計が狂うと、総体として時間依存性はなくなるはずである。
マスト細胞のPer2発現レベルは24時間周期で変動するが、副腎を摘出すると変動がなくなる。
副腎由来の液性因子のコルチコステロンがマスト細胞の時計を同調させる。
すなわち、朝の光→ SCNが時計をリセット → SCNから副腎にリセット司令 → 副腎のグルココルチコイドのモーニングサージ → マスト細胞がリセット → マスト細胞がIgE受容体のβ鎖の発現を制御
・ストレス時には副腎皮質ホルモンのリズムが変動する。
演者らの報告ではマウスに拘束ストレスを与えると、マスト細胞のPer2概日リズムは消失した。そこにPCA反応をするとコントロールマウスでは活動期に反応低下するが、拘束マウスではリズムがなくなる。
→ ストレスのある花粉症患者は昼夜関係なく症状がでるのではないか。
・夜食マウス(夜食しか与えないマウス)ではマスト細胞時計のリズムが乱れる。
概日時計はI型アレルギーの日内リズムを形成している。
食事のタイミング・ストレス・(ポジティブな)感情はアレルギーに強く影響する。
最近の研究ではIgE受容体だけでなく、IL-33 の受容体であるST2など種々の受容体でE-Box配列を持っていてClockの制御下にある。
IgE依存性、非依存性のマスト細胞活性化はデフォルトで休息期に強まるようにプログラムされている。アレルギーが夜に出やすいのはマスト細胞の中にプログラムされていることであり、マスト細胞は昼と夜で違う細胞である。

臨床との関連

・アレルギー症状の時間的変化や食事・睡眠・運動・ストレスなどの生活リズム情報を知ることは、薬の投与時間変更や生活改善による治療に有用である。
・プリックテストなどのProvocation Testは夜に行うほうが良い(休息期はIgEシグナルの感受性が高い)
・ステロイドは強い概日リズム同調因子なので、不眠やうつなどの概日リズムへの影響を考えるべき
・基礎実験の際は、実験群間の時間を揃える
・臨床研究で使う多くのバイオマーカーには概日リズムがある。測定時間を気にかけること
例;CD203c、好酸球数
・日本人重症喘息患者におけるTh2マーカーは概日リズムがあり、1回だけの検査ではおそらくエンドタイプを判断できない。

●教育講演14 気管支サーモプラスティ(BT)

国立国際医療研究センター病院呼吸器内科
飯倉元保先生

気管支サーモプラスティ(BT)の原理

・喘息では平滑筋細胞の収縮が症状をおこしており、BTは平滑筋に作用する。
BTは気管支内径3mm以上10mm以下の気管支平滑筋に、高周波エネルギー65℃で10秒間通電し、肥厚した平滑筋の量を減少させる。さらに気道の収縮性が減少する。気道粘膜下神経も減少する。
また気道上皮下間葉細胞のグルココルチコイド作用を増強する報告もある。

BTの適応

・高用量の吸入ステロイド薬およびLABAでコントロールできない18歳以上の成人。
一生に1回しか実施できない。
GINAのガイドラインでも、十分な治療をしてもコントロール不良患者に適応とされている。
ただしアメリカではどんどん進んでいるわけではない。
%1秒量(%FEV1)が40%以上が望ましい。
・BT周術期にはプレドニン50mgを施術3日前から投与する。
静脈麻酔が4分の3の施設、全身麻酔が4分の1で実施されている。

BTの治療効果について

・AIR2 Trial
BT治療1年後は入院や救急受診が減少。演者の施設では年間増悪が5.8回あったが2回に減少した。
特に%FEV1<60%の患者で治療成績がよかった。
5年後まで救急受診の頻度は低下したままであった。入院も半分に減少した。経口ステロイドも減量できた。
・BT10+
患者がBT後10年以上経過の報告。
ステロイドを要する増悪なし、入院歴なし、分子標的薬投与なし を満たすレスポンダーは67%であった。
重度の増悪は1年後から10年経過しても良好な経過を維持していた。
少なくともBTは10年は有効である。
演者らの報告ではCTで気道壁の肥厚が改善し粘液も減少した(全例に認めるわけではない。)
BT後は呼気がしやすくなり、残気量は減少する。
また実臨床では咳優位型喘息患者の咳減少効果も報告されている。

BT治療効果予測因子

・BT治療前 若年、アトピー素因、末梢血好酸球増加、IgE上昇、上皮細胞でのINFγ高値、粘膜での好酸球高値などが挙げられた。・・・Th2炎症にも有効?と思える結果である。
アクチベーション回数が多いほど術後の気道周囲の浮腫が強くでるので、一過性の一秒量低下が生じる。

BTの合併症

・BT後の気管支アスペルギルス症が発生することがある。
BT後炎症性ポリープ、肺内炎症性出血
7%の患者がマイルドな気管支拡張症を発症した。
・合併症の減少対策
過度のアクチベーションは控える
無気肺が強いときはスパイロは控える
術後の長期の大量ステロイド投与は控える。
BT施行時に気道内吸引痰の培養をおこなっておく。

・治療法選択の実際 
 作用機序 併存合併症 投与方法 医療費 などが検討されるべきである。

●S13-3 アレルゲン免疫療法の長期予後-治療終了後の有効性-

日本医科大学耳鼻咽喉科
後藤 穣先生

・シダキュア第II/III総臨床試験では、投与開始1年後で実薬群の症状軽減はー32.1%であった。シダトレン舌下液よりも即効性があるといえる。
3シーズン投与した後は-45.9%。
・イネ科花粉症の報告では、3年間アレルゲン免疫療法を実施すると症状を-33%から-40%軽減した。その後治療は中止するが症状抑制効果は3年間持続した。
・ダニのアレルゲン免疫療法
3年間治療するとその後の4年間は年々効果は増強し、その後急激に効果が減弱するが、再投与により再びピーク時の効果がでる。
4年間治療するとその後の5年間は年々効果は増強し、その後急激に効果は減弱するが、再投与により再びピーク時の効果がでる。
5年間治療するとその後の5年間は年々効果は増強し、その後急激に効果は減弱するが、再投与により再びピーク時の効果がでる。
→治療期間が長いと効果の持続も長いし、症状を抑制するレスキュー薬の量も減少する。
・ダニの治療をすると、新規の抗原感作を抑制できた。

Q and A

Q 5年投与したら一旦終了でよいのか、それとも可能な限り続けるべきか
A 演者の考えでは、一旦中止でよいであろう。もし増悪すれば再投与によりしっかり効果がでるので。

●教育講演17 春季以外のアレルギー性鼻炎の実際

千葉大学耳鼻咽喉科・頭頚部腫瘍学
米倉修二先生

春季以外のアレルギー性鼻炎の原因となる抗原
春季以外のアレルギー性鼻炎の疫学
春季以外のアレルギー性鼻炎の治療

春季以外のアレルギー性鼻炎の原因となる抗原

・日本で報告された花粉アレルギー
環境省花粉症環境保険マニュアル2014によると実に61種類のアレルゲンの報告がある。
本方のアレルギー性鼻炎(AR)の原因となる主な木本花粉は、スギ・ヒノキ・ハンノキ・シラカンバである。
特にスギとヒノキのピーク時の花粉飛散量はかなり多い(50個以上/cm2/日)。スギは10-12月にも少量飛散する(0.1〜5個/cm2/日)。
草本花粉はイネ科、ブタクサ属(キク科)、ヨモギ属(キク科)、カナムグラ(アサ科)であるが、木本花粉に比してかなり飛散量は少ない。
最も多い9月のブタクサでも5.1〜個/cm2/日である。
花粉の大きさはスギが35μm、ブタクサ20μmでその他の花粉もこの間に入り、どれも大きさはあまり変わりない。
・日本列島空中花粉調査1986〜1998年
全国で花粉の飛散量はまちまちであり、全体的に花粉の飛散量は少ない。
スギ・ヒノキは年間1万個以上だが、その他の花粉は200-500個程度しかない。
・スギ花粉とブタクサ花粉の飛散距離
京葉コンビナートでヘリコプターによる測定が行われた。
スギ花粉は高度100mから3000mまで検出され、1000mくらいまでは検出数にあまり差はなかった。→ かなり遠方まで飛散する。
ブタクサは100m以内に飛散する。
草本花粉は地域性がある。田園が多い地域ではイネ科花粉症が多い。スギは市街地でもおおい。

春季以外のアレルギー性鼻炎の疫学

・アレルギー性鼻炎の有病率の推移
耳鼻咽喉科医およびその家族を対象とした疫学調査によると、アレルギー性鼻炎全体に有病率は確実に増加し1998年は29.8%、2019年は49.2%にのぼり、特にスギ花粉症は16.2%→38.8%に増加した。通年性アレルギー性鼻炎は2019年24.5%であった。
スギ以外の花粉症は10.9%→25.1%とやはり増加傾向である。
・全国の吸入抗原感作率
2002年から2011年の間に検査会社で測定されたアレルゲン特異的IgE検査結果の集計によると、
スギは最も多く感作率は50-60%、ヒノキ40%、ダニは40-50%前後、ヨモギ15-20%。
感作率の全国調査はあるが、有病率の詳細なデータはない。
Google trendsを用いた検討では、スギ花粉症に比して草本花粉症の感作率は10%前後と思われる結果であった。

春季以外のアレルギー性鼻炎の治療

・ダニの抗原量は通年を通して検出されるが、夏から増加して秋にピークとなる。
・理想的な抗ヒスタミン薬の条件
鼻アレルギーガイドラインによると、
①即効性があり、効果が持続する。②副作用が少ない(眠気、作業効率低下など)。③長期投与できる(安全性)。④投与回数が1日1-2回でアドヒアランスがよい。(演者はさらに⑤値段がやすくて購入しやすい。を加えたいと。)
・抗ヒスタミン薬の脳内H1受容体占拠率は20%以下が鎮静作用の少ない薬剤と考えられている。
ビラスチン(ビラノア®)、フェキソフェナジン、デスロラタジン、レボセチリジン、エピナスチン、エバスチン、テルフェナジン・・・の順に脳内H1受容体占拠率は低い。
・高齢者に対する配慮として特に禁忌・慎重投与に注意する
高齢者、腎機能低下患者、肝機能障害患者、緑内障患者、前立腺肥大などの下部尿路閉塞性疾患などに対して留意する必要がある。
その中でフェキソフェナジン塩酸塩はいずれにも問題なく安全に使用できる。

・抗ヒスタミン薬の構造
抗ヒスタミンには、ピペリジン・ピペラジン骨格、三環系骨格、ジアゼパン骨格がある。

ピペリジン・ピペラジン骨格・・・フェキソフェナジン、レボセチリジン、オキサトミド(セルテクト®)、エバスチン、ビラスチン(ビラノア®)、ベポタスチン(タリオン®)
三環系骨格・・・ロラタジン、デスロラタジン(デザレックス®)、ルパタジンフマル酸(ルパフィン®)、エピナスチン(アレジオン®)、オロパタジン塩酸塩
ジアゼパン骨格・・・エメダスチンフマル酸塩(アレサガ®、レミカット®)
演者らは、花粉飛散室を利用して構造が違う抗ヒスタミン薬の治療効果が異なるかどうか検討した。(Int Arch Alalergy Immunol 2019;180:274-283)
三環系、ピペラジン、プラセボで比較し、プラセボに比して実薬群は有意に症状抑制したが、実薬群の間では有意差はなかった。
どちらが有効かについて背景因子に特徴はなかったが、同じヒトでも効きやすいものと効きにくいものがある。

・アレルゲン免疫療法
前向きに治療するものとして有効であるが、皮下注射による治療はリスクがあり年々減少している。
本邦で使用できる治療用アレルゲンエキス(皮下):ダニ、ハウスダスト、スギ花粉、アカマツ花粉、ほうれん草花粉、ブタクサ花粉、そば粉、アルテルナリア、カンジダ、クラドスポリウム、ペニシリウム、アスペルギルス、キヌ、綿
舌下免疫療法は患者負担が少なく現在行われている。
スギ花粉症に比較してヒノキ花粉症の症状は弱いので、スギからヒノキに変わるときにどちらの症状がでているのかわかりにくいことがある。
スギの舌下免疫療法を実施するとヒノキ花粉症状も抑制する。
口腔アレルギー症候群の合併に留意する必要がある。

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