第70回日本アレルギー学会学術大会 その3

※第70回日本アレルギー学会学術大会は2021年10月8日から10月10日までパシフィコ横浜にて開催されました。
私はWEB参加し、何度も繰り返し聴講して最新の知見を学びましたのでご報告します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

◆S15 好酸球の最前線 〜重症好酸球性疾患の制御に向けて〜

◆S15 好酸球の最前線 〜重症好酸球性疾患の制御に向けて〜

●S15-1 Keynote Lecture

帝京大学呼吸器・アレルギー学
長瀬洋之先生

喘息では好酸球を中心として気道炎症→気道リモデリング・あるいは気道過敏性亢進 → 気道狭窄・知覚神経過敏 →変動性をもった症状 を生じる。
好酸球は血管内から組織に遊走し、局所で脱顆粒して組織障害を生じさせる。
遊走にはケモカインが重要である。
ケモカインではCCR3リガンドが好酸球性遊走を惹起する上でもっとも重要である。(RANTES、MCP-3、Eotaxin、Eotaxin-2など。)
一方IL-8で刺激した好中球の存在下では好酸球の遊走能が強まることが示された。
好酸球はCXCR4という受容体も発現しており、CXCR4リガンドSDF-1αはEotaxinに匹敵する好酸球遊走を惹起することが判明した。
・CCR3/Eotaxinは好酸球性炎症形成、CXCR4/SDF-1は非炎症組織への好酸球の繋留に作用する(Nagase et al. JACI 2000)
CXCR4はステロイド投与すると発現増強される。SDF-1は骨髄に存在しており好酸球を骨髄内に糊付けしているイメージである。その結果末梢血管内の好酸球数が減少するものと考えられる。
好酸球はCCR3とCXCR4の精密なバランスの上で制御されている。

・MENSA試験 N=576 (NEJM 2014)
過去1年間に血中好酸球数が300/μL以上、または組入時に150/μL以上の患者を対象に抗IL-5抗体メポリズマブを投与すると、増悪抑制が証明された。
好酸球性気道炎症を有する症例に限定することで有意な結果が得られた。
・抗IL-5抗体
BenraLizumab(ベンラリズマブ)とMepoLizumab(メポリズマブ)の2種類ある。
ベンラリズマブはNK細胞によるADCC活性があり好酸球はほぼ0になることから、少し好酸球の残存するメポリズマブよりも効果が強いのではないかと考えられていたが、臨床的には効果に差はないことが判明した。
・メポリズマブ投与後に残存する好酸球は何をしているのか?
マウスでは2種類の好酸球サブセットがある。
 resident Eosinophils (rEOS) ・・・免疫調整作用を有する好酸球
 inflammatory Eosihophils(iEOS)・・・炎症を惹起する好酸球
ヒトにおいて存在するのかどうか研究中である。
・好酸球は一体何をしているのか
多すぎる好酸球は様々な疾患で組織障害を起こし、全死亡率が上昇する。
一方少なすぎても全死亡率が上昇する。
好酸球は感染防御や消化管恒常性維持、抗腫瘍効果、脂肪細胞由来の全身炎症制御などの機能が知られている。
Toll-like 受容体は様々な菌体成分を認識する受容体であるが、好酸球はTLR7、8(ウイルスの単鎖RNAを認識する)の発現があり活性化される。
喘息患者が風邪を引くとこのTLR7,8を介して好酸球が活性しているかもしれない。
・好酸球は健常組織に定常的に存在している。
骨髄、腸管、脂肪細胞などには恒常的に存在し、特に腸管には多数の好酸球が認められる。
子宮、卵巣、発育中の肺などには発達過程や周期的に存在する。
→ ホメオスターシスに関与する機能をもっていることが示唆される。
・がん組織に浸潤する好酸球
メラノーマ、乳癌、大腸癌、軟部組織腫瘍、胃癌などはがん組織に好酸球が多数浸潤していると予後が良い。
一方、血液癌、肺癌、卵巣癌ではその逆である。膀胱癌、脳腫瘍では予後には無関係。
→ 今のところ理由は不明。がん細胞と好酸球のinteractionがあるのかもしれない。
・喘息における粘液栓の増加
画像診断の進歩にともない、重症喘息では粘液栓に関心が高まっている。
粘液栓の生成機序は少なくとも2つある。
EPOがムチンのポリマー化を起こして粘稠痰が生成される。
もう一つはEETosisである。好酸球の粘性内容物による粘液栓の生成である。
・M2受容体は何をしているか
気道平滑筋を支配する副交感神経の神経末端からアセチルコリンが放出されるが、M2受容体はnegative feedbackをかける役割がある。
喘息患者の気道の神経周囲には好酸球が非常に集積している。
M2受容体に好酸球が接着すると好酸球由来のMBP(major basic protein)が陰電荷のM2Rを占拠して機能不全に陥る。
IgE、ウイルス感染でもM2R機能不全となる。→ アセチルコリン過剰分泌 → 気道収縮 となる。
演者らの報告では、アセチルコリンで好酸球を刺激すると生存が延長しアポトーシスやネクローシスが減少するという。
・好酸球は局所環境に反応しうる多くの受容体を発現している。

●S15-2 個と集団から見た好酸球のエフェクター機能

秋田大学大学院総合診療・検査診断学講座
植木重治先生

好酸球は種を超えて保存されてきた。
少なくとも何億年つづいている重要な細胞である。
・好酸球性 という用語を使い分ける
好酸球が悪玉の場合 Eosinophil-mediated or induced or driven、と表現されることが多い。←好酸球が治療ターゲット
好酸球が善玉あるいは傍観者の場合 Eosinophil-associated or related 、と表現される。←好酸球以外が治療ターゲット
・好酸球は骨髄でつくられ→末梢血液に放出され→組織に移行し→場合によっては気道のような管腔に移動する。
好酸球性炎症 という場合、好酸球がどこにどれだけの密度で存在するか(集積)、何をどれだけ放出するか(活性化)を考えることが重要である。

個として見たときの好酸球

・好酸球は多彩な受容体で調節され、多くの生理活性物質を放出する。
・好酸球の脱顆粒様式
好酸球を特徴づけるのは好酸球に特異的に認められる「細胞傷害性の強い顆粒蛋白」であり、それを放出することである。
少なくとも4つの脱顆粒様式が知られている。
 Classical exocytosis::顆粒そのものが好酸球細胞膜に融合して内容物が分泌される。(生きた細胞)
 Compound exocytosis:顆粒がいくつか細胞質内で融合してから細胞膜に融合して分泌される。(生きた細胞)
 Piecemeal degranulation:顆粒の中の複数のタンパク質の一部を取り分けて分泌する。(生きた細胞)
 Cytolysis, Necrosis, ETosis:好酸球の崩壊により細胞内蛋白を放出する。(細胞死)
・様々な好酸球性炎症において細胞死を伴う脱顆粒が認められる。
好酸球は終末分化しているのでそれ以上分裂しない、ゆえに生体内でどのように死んでいくかが重要な問題である。
細胞死を伴う脱顆粒の殆どはETosisで説明可能である。
炎症部位で好酸球が活性化するとNADPHオキシダーゼやPAD4の酵素反応を介してETosisが発生する。
生存延長因子の欠乏や老化によりcaspasesを介してApotosisが誘導され、食細胞により除去される。
機械的な刺激や熱で細胞障害を起こすNecrosisはまれと考えられる。

集団として見たときの好酸球

・アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
中枢気道内に非常に粘稠な粘液栓が閉塞して中枢性気管支拡張を起こす。
この粘液栓を観察すると、細胞死した好酸球とシャルコライデン結晶、おびただしい数の好酸球が集族、EETosisが観察される。
・好酸球がETosisを起こすとシャルコライデン結晶ができる
シャルコライデン結晶の成分はGalectin-10という蛋白だが、細胞内分布が変わったり、集積し濃度が上昇すると生成される。
・好酸球は管腔内好酸球増多を特徴とする難治病態を形成する。
呼吸器疾患では、好酸球性喘息、ABPA/ABPM、鋳型気管支炎
耳鼻科疾患では、好酸球性副鼻腔炎、好酸球性中耳炎、アレルギー性副鼻腔真菌症、繊維素性唾液管炎
・局所で好酸球が増えているとはどの程度の密度か
400倍1視野でみたときの好酸球は1000/μLではまばらである。10万/μLなら好酸球が多数存在するようにみえる。
好酸球性副鼻腔炎の診断基準の好酸球数は70/HPFであるがおよそ50000/μLに匹敵する。

好酸球増多のある組織や粘液は血中の10〜1000倍以上の濃度で集族しており、通常の実験設定よりもかなり高い濃度で存在している。
ABPAの粘液栓の切片をみると、もはやETosis細胞ペレットといってもよい状態である。

Q and A

Q EETosisはどのような治療がよいのか
A 私達が好酸球性疾患を診るときは病態がすでに出来上がっている状態(effector cellsが暴れている状態)である。
まずは出来上がった好酸球性炎症を止めることが大事と思う。
ステロイドはアポトーシスを誘導し炎症局所への遊走を減らす。
抗IL-5抗体は好酸球を減らすことができる。
ABPAではBALや気管支鏡による粘液栓除去で寛解することもある。
まずはクリアランスを一回改善するのが大事かと思う。

●S15-3 好酸球の多様性で紐解く難治性好酸球性炎症の機序

防衛医科大学内科学講座感染症・呼吸器内科
宮田 純先生

好酸球増多を認める疾患は多岐に渡る。

・血中好酸球増多を見た場合どう考えるか
日常診療において好酸球増多をみた場合、アレルギー疾患、あるいは薬剤アレルギーなどを思い浮かべるかもしれない。
しかしその原因は多岐に渡る。腎臓透析中、結核感染症、悪性腫瘍、などにも認められるが、すべてのものが好酸球性炎症を起こしているわけではない。
好酸球増多の背景因子を調査した研究では、若年、喘息、喫煙歴、感作抗原あり、COPD、メタボ、男性、肥満の順にオッズ比が高い。すなわち単純に好酸球増多があるからと言って炎症があるかどうかはわからない。

・発症年齢による喘息フェノタイプの分類
小児発症 喘息はアレルギーマーチの疾患の一つであり、炎症の主体はIgEを介した免疫反応である。
成人発症 喘息、好酸球性副鼻腔炎、AERD/NERD(アスピリン喘息)、ABPM、EGPAのいずれも好酸球の集族による高度の好酸球性炎症が主体である。
重症喘息、慢性副鼻腔炎・鼻茸、AERD/NERDの3者は合併しやすい。これらの共通な特徴は成人発症、難治性・治療抵抗性、好酸球性炎症、である。→好酸球をターゲットとした治療が必要である。
・好酸球性気道炎症の免疫学的特徴はアレルゲンによる獲得免疫、気道上皮障害に起因する自然免疫を介した好酸球性炎症、いずれも好酸球性炎症を惹起するがどちらが原因かは炎症だけをみてもわからない。
・あらゆる脊椎動物において好酸球は存在する。シーラカンスにも好酸球は存在する!
しかしヒトとその他の動物たちの好酸球の形態は違う。すなわちそれぞれの個体で好酸球の機能や役割は違うのではないかと推察される。
・ヒトの気道における好酸球の形態学的特徴の変化
血液中の好酸球に比較して、肺や気道に遊走した好酸球の胞体がやや明るい、喀痰中では核が多核になり核辺縁がギザギザしている。鼻茸に浸潤した好酸球は核が円状になり細胞も大きい。→好酸球は周囲環境に応じて形態を変化させている。

好酸球の多様性

・気道への好酸球浸潤と活性化
好酸球は様々な細胞と相互作用している。
血管内皮細胞(接着因子)、線維芽細胞(エオタキシン)、マスト細胞(CysLT)、ILC2・TH2(IL-4、IL-5)
・好酸球は細胞内にIL-4を貯蔵している。
骨髄で成熟したときにさまざまなサイトカインをPre-formedで蓄えている。どちらかというとIL-4はリンパ球から分泌されるものであるが、好酸球はリンパ球様の性質がある。

・好酸球は抗原提示能を有する
典型的な抗原提示細胞(APC)は樹状細胞・マクロファージであるが、恒常的なMHC-class II分子発現と抗原処理能を発揮する。
好酸球は誘導性のMHC-class II分子を発現し、主に2型免疫応答においてのみ抗原提示を一部行う。

・血小板付着好酸球
好酸球は単独では十分な機能を発揮できない場合がある。
好酸球は血小板と細胞間相互作用を発揮する。
AERDの鼻茸好酸球において、鼻茸中の血小板付着好酸球が増加している。
またAERDの血中好酸球は血小板付着に伴ってLTC4産生が増加する。
・多彩なアラキドン酸由来の脂質メディエーター
核膜あるいは細胞膜は脂質2重層でできているが、刺激で膜からアラキドン酸が遊離し種々の脂肪酸代謝酵素が働いてメディエータが産生される。
好酸球の産生するCys-LTs(LTC4,D4,E4)や、マスト細胞や好塩基球が産生するPGD2も重要である。
CysLTsとPDG2代謝物は尿中で測定可能である。
これらの尿中濃度が高い症例は、一秒量が低く、FeNOが高く、血中好酸球数や喀痰好酸球割合が高値、血清ペリオスチン濃度とIL13濃度は高値である。
・演者らは鼻茸好酸球を単離して解析した。
鼻茸の好酸球はLTD4を選択的に大量に産生していた。上流因子の検討から2型サイトカイン(IL-5,GM-CSF)や黄色ブドウ球菌(TLR2,NOD2)の応答が非常に重要であることが判明した。
→好酸球は炎症局所によってその顔つきを変えるのである。

組織常在性好酸球(rEOS)の恒常性維持機構

・血中の好酸球は好酸球の一部であり、多くの好酸球は組織内に常在し(肺、消化管、脂肪組織)、種々の役割を担っている。
その役割は、以下のとおり多岐にわたる。
 肥満の抑制・糖代謝の活性化、
 筋肉再生の促進、
 骨髄形質細胞の維持、
 腸管細菌叢と免疫細胞の維持、腸炎の抑制、
 関節炎の抑制、
 アレルギー性気道炎症の抑制、
 急性肺損傷での気道炎症の抑制

肺組織常在性好酸球の気道炎症の制御機構

・肺組織常在性好酸球は好酸球性炎症を抑制する!
ハウスダストダニ(HDM)で感作したマウスにHDMで刺激すると、肺組織に好酸球浸潤(iEOS)が誘導される。
この好酸球は組織に常在する好酸球(rEOS)とは違うものである。
この両者の形態は全く違う。(iEOS:CD62L low,CD101high) (rEOS:CD62L high , CD101 low)
iEOSは多核過分葉、炎症反応亢進させ、免疫調整や恒常性維持機能はない。
rEOSは円型核で炎症反応亢進しない、免疫調整、恒常性維持機能がある。IL-5非依存的。
好酸球性炎症を抑制する目的で抗IL-5抗体を投与すると、iEOSは減少するが、rEOSは減少しない(Mesnil C et al. J Clin Invest 2016)。
rEOSはダニor LPS刺激に対する樹状細胞の免疫応答を抑制する。したがってその下流のリンパ球からの2型サイトカイン産生も抑制する。
・肺組織常在性好酸球は好中球性炎症を抑制する!
黄色ブドウ球菌or LPS刺激により炎症が誘発され好中球集積が誘導されるが、rEOSを輸注すると好中球性炎症は抑制される。
rEOSは12/15リポキシゲナーゼの発現が高いことが判明した。
ヒトでは15リポキシゲナーゼ(15-LOX)であるが、これは抗炎症性脂質メディエーターを産生するために必要である。
アラキドン酸→15-LOXが作用して→・・・→リポキシン(LXA4,LXB4)
ドコサヘキサエン酸→15-LOXが作用して→・・・→PD1、PDX、RvD1〜RvD6
これらは多核白血球浸潤を抑制したり、アポトーシス細胞貪食を促進して、炎症を収束に向かわせるよう働く。

・重症喘息において抗炎症脂質メディエーターの産生障害が認められる。
リポキシンA4は、気管支肺胞洗浄液や喀痰、呼気凝縮液、末梢血白血球や好酸球などで産生量が減少している。
プロテクチンD1は、末梢血好酸球にて産生量の減少が確認されている。
いずれも軽症から中等症喘息ではなく、重症喘息において減少が認められる。
・脂肪酸代謝による気道炎症の制御機構
鼻茸ではLTD4の産生が亢進しているが喘息では認めない。
共通しているのはリポキシンA4(LXA4)の産生が低下していることである。
私達は炎症性疾患を見たときに炎症を抑制することを考えるが、もしかしたら炎症を抑制する機構の破綻かもしれない。
・好酸球が産生する抗炎症性脂質メディエーターを介した好酸球性炎症の抑制
日本から現在3本の報告がある。
エイコサペンタエン酸(EPA)から15-LOXの作用で15-HEPEが産生される。15-HEPEはアレルギー性鼻炎モデルの炎症を抑制する。機序:マスト細胞の脱顆粒の抑制である。
同様にEPA→15-LOX作用→RvE3産生。 RvE3はHDM喘息モデルの炎症収束を促進する。機序:樹状細胞のサイトカイン産生抑制、BLT1の阻害活性。
同様に12-OH-17,18-EpETE産生。OVA喘息モデルにおける炎症収束を促進する。機序:上皮細胞のケモカイン(CCL11)産生の抑制作用。
※ このように好酸球はメディエータの産生を介して様々な免疫応答細胞の活性化を制御している。
・抗炎症性脂質メディエーターはILC2の活性化を抑制する。
演者らの検討では、抗炎症性脂質メディエーターの産生細胞はrEOSやマスト細胞と思われる。

まとめ

好酸球は多様性がある。(恒常性と炎症性)
inflammatory Eosinophils (iEOS)はIL-5、微生物との応答、IL-4やIL-33が重要であり炎症病態に関与する。
一方恒常性維持するrEOSは、どのように恒常性を維持しているのか、その機序は十分わかっていない。
現在2型サイトカインに対する抗体製剤が使用されているが、重症喘息を治癒はさせられない。
rEOSの作用機序の解明は、重症喘息の重症化を予防していく新しい切り口になるのではないかと期待される。

Q and A

Q 組織に常在性好酸球はどのような機序で常在しうるのか
A 常在性好酸球のターンオーバーや入れ替わりがあるのかは、十分わかっていない。
好酸球は血中でエイジングがかかるとケモカインの作用で骨髄にもどっていく。
一部の好酸球が組織に常在して長く維持されるのは非常に不思議な現象である。
組織にしかない接着因子や構成細胞がつくる成分の作用により常在性が維持されているのではないかと推察する。

●S15-4 好酸球性炎症の調節機構

埼玉医科大学呼吸器内科
小林威仁先生

・ペリオスチンはIL-13などの作用で組織に発現する。
ペリオスチンは好酸球の接着反応をVCAM-1と同程度に誘導し、IL-5の最大反応と同等に活性化(O2-産生)を誘導する。
経口ステロイドを必要とする成人重症持続型喘息では、誘発喀痰好中球比率増加に伴い、好酸球比率も正の相関で増加する。
IL-8刺激好中球は好酸球の基底膜通過遊走を著明に誘導する。
Type2サイトカインの影響が乏しい環境(例えば重症喘息)において、IL-8が過剰産生されている環境下では活性化好中球が好酸球の組織集積を増強する機序が想定される。
・逆に好酸球は好中球の遊走を増強させるのか?
エオタキシンは好酸球を強力に遊走させ、これは好中球に影響を受けない。
エオタキシン遊走好酸球は好中球の遊走を誘導できない。すなわち活性化好酸球が好中球を遊走する機序に乏しい。
・Non-Type2の好酸球性炎症は環境因子の関与が重要な要因と考えられる。
生活空間中の室内ペット、カーペット、喫煙者などの存在により、日本人重症喘息患者喀痰中にエンドトキシンが増加していることが認められた。
重症喘息患者の下気道で増加が証明されているLPSに暴露した好中球は、好酸球の基底膜通過遊走反応を誘導する。
重症喘息患者好中球は無刺激でも、好酸球の基底膜通過遊走反応を誘導することが観察された。
重症喘息患者の好中球はLPSを含む何らかの刺激に暴露していて、すでに機能的亢進状態にあり好酸球性炎症増強していると示唆された。
すなわち、Type 2サイトカインが十分に存在しない環境下でもエンドトキシンを含む各種の環境因子が好中球の遊走/活性化を介して好酸球性炎症形成に寄与している。
・各種の環境因子が直接的に好酸球性炎症を増強する
カーペットなどにより生活環境中のヒョウヒダニのアレルゲン濃度が増加する。
近年ダニアレルゲンはアレルギー反応の他に、免疫担当細胞を直接活性化することが報告されている。
演者らはダニに感作されていない健常人の末梢血好酸球をコナヒョウヒダニアレルゲンDf (Crude:成分アレルゲンの集合体)ならびにDer f 1に暴露させたところ、濃度依存的に活性酸素が産生されることを報告した。この反応はPER2阻害薬で抑制されることも確認した。→自然免疫応答による反応と考えられる。
スギ花粉についても同様の検討をし、スギCrude、Cry j 1ともに好酸球を直接活性化した。
→ 我が国の春季の喘息増悪の原因の一部は、スギ花粉の直接的好酸球活性化が関与していると考えられる。
以上をまとめると、ダニ、スギ花粉は感作状況によらず好酸球のエフェクター機能を直接的に誘導していると考えられる。
臨床的に不安定な症状を有するアレルギー患者においては、感作状況によらず環境要因の暴露状態を把握し、環境改善指導が重要である。

ウイルス感染は好酸球性炎症を誘導する

・好酸球と好中球が混在する混合顆粒型炎症の病態として、ウイルス感染が知られている。
ウイルス感染細胞や活性化された免疫担当細胞から各種のINF群が産生/放出される。
INF群は単独で好酸球の血管内皮細胞への接着を誘導しないが、TNFα刺激後の血管内皮細胞においてINF群で刺激した好酸球接着能力が有意に増強した。
→INF群は炎症病態下の血管内皮細胞の好酸球接着能を増強させる。
・INF群産生下において産生が誘導されるCXCL10(IP10)は、好酸球に直接的に作用し接着能やエフェクター機能発現を誘導することが判明している。
すなわちType1免疫反応分子は一定の条件で産生亢進した場合、おのおの違う作用点で好酸球性炎症を誘導すると考えられる。
・RV感染関連分子Cadherin-related family member3(CDHR3)は好酸球の接着ならびに好酸球特異的顆粒蛋白放出を誘導する。
・Danger signalである尿酸とその代謝産物MSU(Monosodium urate)は好酸球の化学遊走反応、および脱顆粒を誘導する。
好酸球性肺炎のBALFで尿酸およびATPは増加しており両者は好酸球数と相関する。→好酸球性肺炎ではATPと尿酸というDanger signalが関与していることを示している。

好酸球性炎症はアレルギー以外の各種疾患でも認められる。
・腹膜透析では透析液PHが酸性に傾くほど好酸球の腹膜浸潤が観察され、臓側腹膜肥厚が強く認められた。
・近年加齢に伴う炎症(inflammaging)が加齢関連疾患の発症や進展に寄与していることが提唱されている。
演者らの報告では、誘発喀痰中の好中球エラスターゼ濃度と好酸球特異顆粒蛋白(EDN)の濃度は高齢者喘息患者でのみ相関することが示された。
過去に類をみない高齢化の日本において考慮されるべき病態であろう。

まとめ

・Type2免疫における好酸球性炎症の新規調節因子としてペリオスチンの関与が推定されている。
・混合顆粒型炎症の病態ではIL-8、LPSなどに暴露した好中球が好酸球の組織集積を増強しうる。
・ダニ・スギ花粉への暴露は感作とは無関係に直接的に好酸球接着反応やエフェクター機能を増強しうる。
・尿酸やATPなどのdanger signalは好酸球の遊走あるいはエフェクター機能を誘導しうる。
・pH変化による好酸球性炎症の増強機序が存在する。
・高齢者では混合顆粒型炎症が発現しやすいと推定される。

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