脂質異常症臨床医学WEBセミナー

2021年2月21日に脂質異常症臨床医学WEBセミナーが開催され、最新の知見を学びました。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

●超高齢化社会における残存リスク低減を目指した脂質異常症治療の展望

ー 動脈硬化性疾患予防管理ガイドライン改訂に向けて ー

国立長寿医療研究センター理事長
荒井秀典先生

・動脈硬化危険因子

喫煙、高血糖、脂質異常症、高血圧 ・・・軽症でも複数合併するとリスクが高まる。
動脈硬化性疾患予防には、「脳心血管病予防に対する包括的管理」が発刊された。
・脂質異常症については臨床検査(血清脂質の測定)が重要である。
脂質異常症の診断基準
LDLコレステロール: 高コレステロール血症140mg/dL以上、境界域LDLーC血症120-139mg/dL
HDL-C: 低HDL血症40mg/dL未満
トリグリセライド: 高TG血症150mg/dL以上
Non-HDLコレステロール: 高Non-HDLコレステロール血症170mg/dL以上、境界域高Non-HDLーC血症150−169mg/dL

※境界域の場合は高リスク病態がないか検討し治療の必要性を考慮する。
※診断基準は動脈硬化発症リスクを判断するためのスクリーニング値であり、治療開始の基準値ではない。

・冠動脈疾およびアテローム血栓性脳梗塞予防からみたLDLコレステロール管理目標設定(診療ガイドライン2018を参照)
1.異常値スクリーニング →2.冠動脈疾患あるいはアテローム血栓性脳梗塞の既往があるか あり→2次予防へ。
2.なしならば、一次予防。糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患があるか。これらの危険因子のカウントにより簡易のリスク評価を行う(簡易版はLDL-C 120以上の場合に適用できる。)
・一次予防
管理区分:低リスク LDL-C<160、Non-HDL-C<190、TG<150、HDL-C>=40
管理区分:中リスク LDL-C<140、Non-HDL-C<170、TG<150、HDL-C>=40
管理区分:高リスク LDL-C<120、Non-HDL-C<150、TG<150、HDL-C>=40
・二次予防
管理区分:冠動脈疾患・アテローム血栓症の既往や糖尿病あり LDL-C<100、Non-HDL-C<130、TG<150、HDL-C>=40
複数の疾患既往合併 LDL-C<70、Non-HDL-C<100、TG<150、HDL-C>=40

・食事療法

できるだけ過食をさけ適正体重を維持する
日本食パターンの食事(The Japan Diet)は動脈効果性疾患の予防に有効である。
魚・大豆を食する。肉の脂身、動物脂(牛脂、ラード、バター)、乳製品の摂取を抑制する。
野菜、海藻、きのこの摂取を増やし、果物を適度に摂取する。
精白された穀類を減らし、未精製穀類や麦などを増やす。
食塩を控える。
アルコール過剰摂取しない。
食品と薬物の相互作用に注意する。
 薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)3A4で代謝される薬剤服用中は、大量のグレープフルーツジュースの摂取を控える。
 グレープフルーツジュースが小腸のCYP3A4を阻害する。・・・以下の薬物の血中濃度が上昇する。
 例;睡眠薬(ゾルピデム、トリアゾラム)、免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス)、Ca拮抗薬(ニフェジピン)、抗不整脈薬(キニジン、リドカイン)、ジアゼパム

・運動療法

速歩き相当の有酸素運動を少なくとも週3回の運動を行う。毎日推奨。30分/日以上。
・レジスタンス運動の慢性疾患への効果が最近注目されている。
レジスタンス運動とはいわゆる筋トレである。
筋トレの
慢性疾患への効果は、脂質や免疫能によい影響を与える、肥満、高血圧、高血糖にも有効。
・高齢者に対しては主にフレイル予防を考慮して運動療法を行うが同時に動脈硬化性疾患の予防にも有効である。
レジスタンス運動週2-3回、1セット8-12回繰り返す、8-10種の主要筋群を鍛える。
有酸素運動(速歩きなど)を週3-7回、1回20分以上
バランストレーニング(太極拳やヨガなど)を週に1-7回

・薬物療法の適応(診療ガイドライン2018を参照)

生活習慣の改善で脂質管理が不十分な場合には、絶対リスクに応じて薬物療法を考慮する。
家族性高コレステロール血症や冠動脈疾患の既往がある場合には、基本的に薬物療法が必要。
一次予防の高リスク患者では、薬物療法による早期のLDL-C 管理を考慮する。
LDL-Cが180mg/dL以上の場合には、家族性高コレステロール血症の可能性を念頭において対応する。
若年者や閉経前女性で絶対リスクが低い場合には、薬物療法は控えるべきである。
脂質管理目標値は、あくまで目標値であり、薬物療法開始基準値ではない。
高脂血症および脂質異常症、高 LDL-C 血症、高 TG 血症の診断名がついた患者に対してのみ、薬物療法の保険適用が認められている。
LDLアフェレーシスは、体外循環装置を用いて血頭からLDL 粒子を直接除去する治療法である。家族性高コレステロール血症(FH) ホモ接合体や重症ヘテロ 接合体が適応。薬物治療に反応しない末梢動脈疾患、巣状糸球体硬化症なども適応となる。
・スタチンの効果(LANCET2010 メタ解析)
1次予防、2次予防ともに心血管イベントに対していずれにおいても有効であり、LDLが低いほどイベント抑制効果が高い。よってできるだけLDL−Cは低いほうがよいというのは現在のコンセンサスである。しかし、スタチンによる効果は30%のリスク減であり、残り70%は抑制できない。
・残されたリスクへの介入
まずはLDL-Cを徹底的に下げる。つぎに高TG血症、低HDL血症、レムナントsmall dense LDL(レムナント-sd-LDL)を下げるのが重要。さらに食後高脂血症、インスリン抵抗性、脂肪肝、酸化コレステロール等の改善が望まれる。
・EMPATHY試験(日本人)
日本人の約5000人の2型糖尿病かつスタチン治療中の患者において心血管イベントを調査したコホート研究では、TGが高いほど心血管イベント発生率が高いことが示されている。
特にTG135以上の患者はイベント発症リスクが高い。TG>135で1.5倍以上、TG>185で1.9倍以上高い。

・CHART2試験(日本人データ)
スタチン治療中の陳旧性心筋梗塞患者においてLDL-C・TGと急性心筋梗塞再発リスクの関係を研究した報告では、TGが150mg/dL以上の場合はLDL-Cの高低に関わらず急性心筋梗塞発症リスクは高く、LDL-Cが100以上の場合、TG84mg/dL以上でも再発リスクが高くなることが示された。
欧米のデータも同様であり、TG>=150で動脈プラークが有意に増加、LDL-Cが高値の場合はTG100 以上で増加する。
FDG-PETを用いた血管炎症の検出では、TGが高値なほど炎症が増加しTG150以上で有意(ORオッズ比2)であることが示された。
・NAFLD(非アルコール性脂肪肝炎)では、TGが上昇するほどNAFLDの合併が増える(日本人データ)。TG140 以上で男性の約5割、女性の約3割、TG200以上で男性6割以上、女性5割以上である。
しかもメタ解析からNAFLDは心血管イベント発症と有意に相関することが示され、最新のガイドラインではNAFLDは動脈硬化性疾患の新たなリスク因子に加えられた。

・高TG血症と動脈硬化と密接な関係にある

TGそのものが動脈硬化を引き起こすわけではない!
TG高値の患者は肝臓でTG合成が亢進しており、TGを多く含む大型のVLDLが合成され血中に放出→血管内でTG部分がLPL(リポ蛋白リパーゼ)により加水分解されてレムナントになり、さらにsmall dense LDLが作られる。
このsd-LDLが動脈硬化を引き起こす。通常のLDLに比べてsd-LDLは血管内に侵入しやすく酸化しやすいことから動脈硬化を起こしやすい。またレムナントの増加も動脈硬化を促進する。

・動脈硬化惹起性リポ蛋白と各薬剤のアプローチ

動脈硬化惹起性リポ蛋白とはレムナントとsd-LDLのことであるが、スタチンはLDL受容体発現を増やすことにより血液中のLDLが肝臓のLDL受容体に結合して血中LDLを減らす。一方でPPARαアゴニスト(ベザフィブラート/ベザトール®、フェノフィブラート/トライコア®)・SPPARMα(パルモディア®)は肝臓での脂肪酸からTG合成を抑制し、血中へのTG分泌抑制する。TGリッチな大型VLDLの産生が抑制される→レムナントの代謝が促進される→small dense LDLも産生されにくくなる→sd-LDLが誘引の血管内炎症が起こりにくくなる→動脈硬化を起こしにくくなる。

・PPARαアゴニスト大規模研究のメタ解析(LANCET 2010)

PPARαアゴニストと心血管イベントの関係→様々な疾患のイベント抑制効果が認められる。
この論文では、複合心血管イベント、冠動脈イベント、非致死性冠動脈イベント、アルブミン尿進展(腎症の進展)、網膜症などが有意であった。
・TGの低下が大きいほど疾患イベント発生率は低下していく。(LANCET2014)
とくにベースラインがTG177mg/dL以上の群ではきれいに相関する。

・韓国の観察研究の報告(BMJ 2019)では、メタボリックシンドロームにスタチン・PPARαアゴニスト(フィブラート)を併用すると、スタチン単独投与よりも心血管イベントが有意に抑制され、特にTG204以上あるいはHDL-C34未満では併用効果がより明確に示された。

・ペマフィブラート(パルモディア®)は日本で開発された薬剤であるが、スタチン併用下にペマフィブラートを併用した場合、TGはベースラインから約50%減少、HDL-Cは約17%と有意に上昇させた。現在スタチンと併用して有効性をみるPROMINENT試験が進行中である。
・TGは食後4時間くらいで空腹時レベルまで低下するが、、朝食6時、昼食12時夕食19時とすると一日の殆どが非空腹時の状態となり、夜間のみが空腹時となる。血中TGの高値な患者は食後6時間から8時間くらいで低下するらしく、動脈硬化性疾患のリスクが高いと考えられる。
・日本人の2型糖尿病患者で脂肪負荷後のTG、RLP-Cの推移の報告
脂肪負荷後健常人ではどちらも負荷後2時間がピークとなり4時間後には空腹時と同程度になったが、
2型糖尿病患者では、高インスリン血症のありなしに関わらず、食後4時間後も血中TGとRLP-Cは上昇した。
・高脂肪食負荷後のTG推移と血管内皮機能の関係(日本人データ)を検討した報告では、血管内皮反応性とTG高値は逆相関するようである。

・CIRCS試験(日本人データ)(Atherosclerosis 2014)

空腹時および非空腹時の血中TG濃度と冠動脈疾患発症の関係について報告である。
40歳-69歳の約1万人の日本人を対象に検討。
空腹時TG116-165mg/dLの群およびTG166以上群の両者ともに冠動脈発症の相対危険度は1.7倍以上であった。
非空腹時TG116-165の群は1.3倍、166以上群では1.6倍の相対危険度であった。
欧米のデータでも同様であり、非空腹時TG89以上になるとTGが高いほど心・脳血管病変が増加した(LANCET 2014)。

・欧米のデータではTG177を超えると冠動脈疾患発症リスクが増加する。
一方心筋梗塞と飲酒量は初期は比例するが途中で頭打ちとなる。
・非空腹時TGと冠動脈プラークとの関係ではこれもTGが多いほどプラークが多かった。
・スタチン服用中の2型糖尿病患者においては、sdLDL-C 40mg/dL以上になると有意に心血管イベントや糖尿病網膜症レーザー治療歴が増加することが示された(ENPATHY試験サブ解析)。すわなち大血管障害と小血管障害のどちらにも悪影響である。
・各疾患別のLDL-C管理状況(日本人)(Athrosclerosis 2016)
現在のガイドライン以前の研究であるが、
心血管イベントハイリスク日本人患者約33325例を急性冠症候群、冠動脈性心疾患、虚血性脳卒中、末梢動脈疾患、糖尿病の既往・併存で層別化し、それぞれがLDLーC<70mg/dL、<100mg/dL、<130mg/dLに到達した割合を検討した。
その結果、<70到達は27-10%、<100到達は65-43%、<130到達は92-80%であった。

・スタチンにエゼチミブを追加して更に厳格なコントロールをした場合はどうか
IMPROVE-IT試験では、リスク因子が3点以上重積する場合は心血管イベントが有意に増加することが判明した。
厳格な治療が求められる。
※リスク因子各1点; CHF、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳卒中の既往、CABGの既往、末梢動脈疾患PAD、eGFR40以下、喫煙
・スタチンにEvolocumab(レパーサ®)を追加するとLDL-C 90mg/dL→60mg/dLくらいに低下し、15%のリスク低下が見込める。
※Evolocumab;PCSK9阻害薬;家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症 に適応あり。ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る。

家族性高コレステロール血症(FH)(以下の記事はガイドラインをみてかなり補足しました。)
・最も頻度の高い常染色体遺伝疾患であり、早発性冠動脈疾患発症のリスクが極めて高い。
早期診断、早期治療が極めて重要である。
・1人の診断は家族の多くのヘテロ接合体の診断につながる。
ヘテロ接合体は一般人口約200-500人に1人、極めて重症のホモ接合体は約16万から100万人に1人の頻度で認められる。
・診断にはLDL-Cに加え、腱黄色腫の診察と家族歴聴取の双方が重要である。
・治療はストロングスタチンを中心に併用療法も考慮し、一次予防ではLDL-Cの管理目標値を100mg/dL未満もしくは治療前の50%未満とする。
二次予防においてはLDL-Cを70mg/dL未満とする。
・FH患者はなぜ冠動脈疾患の発症頻度が高いのか
累積LDL-Cという考え方がある。
FH患者では生涯累積LDL-C値が一定値を超えると冠動脈疾患を発症すると考えられ、治療開始が遷延した患者や他の危険因子を有する患者では、より強力な脂質低下が求められる。
冠動脈疾患発症の閾値はNordestgaard BGら(Eur Heart J 2013)によるとおよそ6000mg/dL・年である。
FH以外の患者はおよそ55年で閾値に達するが、FHホモ接合体では12.5年、FHヘテロ接合体は35年で達してしまう。さらに、閾値を低下させる因子として喫煙、高血圧、糖尿病、高TG血症、低HDL-C血症、Lp(a)高値などがあり、これらが合併する場合はより強力な脂質低下が求められる。
FH患者は冠動脈疾患(CHD)発症リスクが一般人のおよそ12倍であるが、スタチン投与により無治療群と比し明らかに累積無病生存率は改善することも知られている。

・LDLは重要であるが、レムナントLDLがより心血管イベントに重要であることが示唆される。
・small dense LDL -cが高いほどIMTは厚くなっていく
・久山町研究では、糖尿病ありなしに関わらずsmall dense LDL-C 35以上で心血管イベントが増加することが示されている。
・現在のガイドライン発刊前のデータであるが、LDLーCを低く抑えるほど各疾患の発生率は低下している。

家族性高コレステロール血症(FH)
・FJHは極めて冠動脈疾患のリスクが高いが特に男性は高い。
・なぜFH患者はリスクが高いのか
累積LDLーCがFHでは高く早期に閾値に達するからである。
・FHはできるだけ早く見つけて早期治療することが重要である。

・FHヘテロ接合体の診断基準
①高LDL-C血症・・・未治療時のLDL-C値 180mg/dL以上
②腱黄色腫・・・
 手背、肘、膝などの腱黄色腫、
 あるいはアキレス腱肥厚、
 あるいは皮膚結節性黄色腫
③FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)
続発性高脂血症除外した上で、①から③のうち2項目該当すればFHと診断する。
診断に関連するその他の注意点として、
 FH疑いの場合には遺伝子検査がのぞましい。
 皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない。
 LDL-C 250mg/dL以上はFHを強く疑う。
 LDL-C 160mg/dL以上かつ②または③を満たす場合にはFHを強く疑う。
 すでに治療中の場合は治療前の脂質値を参考にする。
 早発性冠動脈疾患とは男性55歳未満、女性65歳未満と定義する。
 FHと診断した場合、家族についても調べることが望ましい。

・FHの新しい診断フローチャートは2022年6月ごろ発刊される予定である。
・成人FHヘテロ接合対治療
生活習慣病・適正体重の指導し、同時に脂質低下薬を開始する。
LDL管理目標値は1次予防でLDL-C 100未満、2時予防なら70mg/dL未満。
スタチン最大耐量 かつ/または エゼチミブ併用。
効果不十分の場合はPCSK9阻害薬、 かつ/または レジン、かつ/または プロブコール。※PCSK9阻害薬投与は専門医にコンサルトする。
以上がすべて効果不十分の場合はLDLアフェレーシス。

高齢者の脂質管理
2017年のガイドラインでは後期高齢者の1次予防のエビデンスが不十分であり主治医判断であったが、時期ガイドラインではスタチンを中心とした脂質低下治療が推奨されることになった。
・EWEWTOPIA75試験
高LDL-C(140以上)のハイリスク高齢患者(75歳以上)に対するエゼチミブの脳血管疾患イベント発症抑制効果に関する多施設共同無作為化比較試験である。
食事療法単独群とエゼチミブ投与群に分けて5年間経過をみたところ、LDL-Cは11mg/dL程度低下した。
イベント発生率は35%低下した。なぜ高齢者でエゼチミブが著効したかの理由についてはまだ解明されていない。
すなわち、およそ85歳までの元気な高齢者の高LDL-C血症には特にエゼチミブ投与がのぞましい。

高齢者においてはエゼチミブが非常に有効であった。

・元気で通院中の85歳以下の患者で、合併症などある場合は治療適応であろう。
寝たきり患者には治療適応はないであろう。
・まとめ

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