第119回日本内科学会総会・講演会その1

第119回日本内科学会総会・講演会 が2022年4月15日から17日まで開催されました。
WEB参加でしたので、何度も聴講いたしました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

●教育講演7 GERDの病態と治療の進歩

愛知医科大学消化管内科
春日井邦夫先生

GERDは、胃内容の逆流が煩わしい症状や合併症を起こした状態をさす。
病理学的には、扁平上皮基底層の過形成、上皮内粘膜固有層乳頭の延長もしくは上昇、胸焼け症状のある患者の細胞間隙は有意に拡大していた。
したがって当初は胃酸が食道上皮を障害して上皮側から障害されて食道炎を生じると考えられていた。
しかし演者らの報告では食道粘膜下にpH2からpH7.5までの生食を注入したが食道炎の症状は誘発されずカプサイシンでのみ誘発されたという。
すなわち胃酸により食道炎の症状が誘発されているのではない可能性が示唆された。
PPIを中止した逆流性食道炎の患者を経時的に観察すると炎症が惹起されるが、粘膜上皮からではなく粘膜下層→粘膜固有層その後粘膜上皮へと炎症細胞が浸潤していった。
胸焼け症状と食道粘膜内PGE2濃度に正の相関が認められ、ジクロフェナク服用によりPGE2濃度は抑制された。

胃酸逆流の機序

胃酸ポケット:流動食摂取30分後に仰臥位でMRI撮影すると、胃内は下から順に食物層、胃酸層、空気層となっていた。この胃酸の層がたまに食道内へ逆流し食道炎を発症する。
特に食道裂孔ヘルニアを有する患者は食後にAcidPocketがヘルニア腔にできる。PPIを投与するとAcid pocketの大きさが有意に小さくなり活動を下げる。

GERDは胃内容物逆流、解剖学的機序、免疫学的機序、食道知覚過敏、胃酸ポケット、食道クリアランス機構など様々な要因が複合的に関与して発症する。

逆流性食道炎の分類

・GERD診療ガイドライン2021によると、
 1.GERD症状を臨床評価 → 内視鏡未施行、あるいは内視鏡検査、 と選択があり、
内視鏡未施行では、PPI2-4週間投与 →改善あり、ならば一過性な症状として無投薬にて経過観察 →再発したら内視鏡検査
  →改善なし → 内視鏡検査
内視鏡検査実施により、改変Los Angeles 分類を用いて、NERD、軽症逆流性食道炎、重症逆流性食道炎、他疾患 に分類される。
Mucosal break (MB)(粘膜障害):より正常に見える周囲粘膜と明確に区別される白苔ないし発赤を有する領域
非びらん性GERD(non-erosive GERD:NERD) ・・・Grade N:No change、Grade M:minimal change
軽症逆流性食道炎・・・Grade A :MB < 5mm、Grade B: MB >= 5mm
重症逆流性食道炎・・・Grade C: MBの癒合、Grade D MB >= 75%

GERDの治療

・重症逆流性食道炎では、初期治療はボノプラザン(VPZ:P-CAB タケキャブ®)20mg 1日1回 4週間投与。
アルギン酸塩(アルロイドG®)併用可。+生活習慣改善。
※ P-CAB :カリウムイオン競合型アシッドブロッカーのこと。つまりタケキャブ®のこと。プロトンポンプが胃酸を分泌するために必要なシグナルである「カリウムイオン」が結合するのを阻害することによって胃酸の分泌をおさえる。
4週間後臨床評価し”有効”ならば維持療法として、VPZ10mgまたは20mg (+他剤 消化管運動改善薬や漢方薬)、VPZ10mgで維持良好ならPPIに変更も可能。
4週間後評価が”改善なしか不十分”ならば、VPZ 20mg 8週間まで延長。→改善なし なら専門医紹介、あるいは外科的治療。
・軽症逆流性食道炎では、初期治療はPPI常用量8週間 or VPZ 20mg4週間、その後臨床評価して維持療法へ。
 → 改善あり ならば維持療法としてまたはPPI継続 または VPZ により良好維持される最低用量を投与。
 → 改善なしか不十分 ならば、PPI倍用量、またはVPZ 20mg → 再評価し無効なら外科的治療
・NERDでは、初期治療はPPI4週間である。
NERDはPPI抵抗性となる患者は約5割もいる。
演者らはPPI抵抗性NERD111例を検討し、食道運動機能障害30%であった(アカラシア、Hypertensive LES、Nutcracker、IEM、NEMD)。
残り70%は食道運動機能正常であり、酸の逆流が関与するもの20%、非酸逆流によるもの30%、機能性胸焼け(逆流に無関係)20%であった。
(補足)食道アカラシアは、下部食道括約部(lower esophageal sphincter、LES)の弛緩不全と、食道体部の正常蠕動波の消失を特徴とする一次性食道運動障害である。

・外科的治療
適応:PPI抵抗性GERD、長期的なPPI継続投与を要するGERD
食道外症状を有するGERD(つまり、GERを起因とした喘息、嗄声、咳嗽、胸痛、誤嚥などがあるのも)
術式1: Laparoscopic Nissen Fundoplication [læ̀pərəskɔ́pɪk、fʌ̀ndoʊplaɪkéɪʃən]
有効率:88-100%、再手術率0.8-6.4%、治療効果は開腹術と同等、医療費が安い、術後の回復が早い。
症状コントロールに関するPPIとの治療効果比較では、同等以下である。

術式2:内視鏡的逆流防止粘膜切除術ARMS(anti -reflux mucosectomy)
噴門周囲の胃粘膜を内視鏡で切除、あるいは胃粘膜を焼灼することにより瘢痕収縮にてEC-Junctionが閉まる。
R4年の診療報酬改訂により12000点(K653-6)の保険適用となった。
内視鏡医にとっては簡単な手技であり、今後普及が期待される。

●教育講演13 肥満症治療の最前線
 -減量・代謝改善手術と肥満2型糖尿病-

千葉県立保健医療大学
龍野一郎先生

・肥満はコロナ感染症を悪化させる
イタリアからの報告では肥満(BMI30-34.9)の患者は呼吸不全が2.32倍高く、ICU入室率が4.96倍、さらに高度肥満(BMI35以上)の死亡率は12.1倍高いとされる。
内蔵脂肪が多いとサイトカインストームが起きやすいとか、肺が圧迫されやすいなどの理由が挙げられている。
・肥満パンデミック
BMI25以上の人口に占める比率は1990年以降各国で上昇し続けており、2016年現在メキシコは70%、アメリカ68%、イギリス57%と大変なことになっている。
一方日本では令和元年の国民健康栄養調査の結果から、男性33%、女性22%で、最近10年間横ばいから若干の増加であるが、1980年は男性17%だったので40年で倍増している。
・肥満で亢進する食中枢
食行動の制御には2つの経路が存在するという。
Homeostatic pathway :日常生活に必要なエネルギーを摂取する生命維持のために必要な行動 = 一定量で抑制がかかり上限がある。
Hedonic pathway:快楽をうるための行動=脳の報酬系と関連した行動で抑制がかかりにくく上限がない。肥満の人はHedonic pathwayが亢進していると考えられている。
・症例提示 虐待経験があり幼少期から肥満をきたした症例
父親短気で幼少時に虐待をうけ、両親は離婚、小学生の時から孤食となり、中学校でいじめにあう。この間に体重は70kgから106kgまで増加した。結婚後一旦85kgまで減量したが、派遣の仕事を転々とし、うつを発症して再度体重増加し、糖尿病を発症したので演者を受診した。
こうした症例の特徴として、幼少期の家庭崩壊、学校でのいじめ、職場でのストレス、うつ病の発症などがある。
・肥満を起こしやすくする社会構造の変化
欧米化・自動車の普及・情報革命など  →運動量の減少
核家族化に伴う伝統的日本人食文化の喪失
孤食による嗜好に依存する食習慣の形成  ←誰も異常な食事を指摘しない
過食に頼る不適切なストレス対応
幼少期の家族形態の破綻(離婚·家庭内暴力·いじめ):成長過程における食行動の習慣化プ ロセスの障害

特有のパーソナリティー

これらの要因が、個人に個別化される複雑な病態が肥満症を増加させ、難治療化してきた。
すなわち、「単純な食べすぎ」では説明できない複雑な背景が存在する。
・統合的肥満治療の必要性
肥満治療の難しさ:体重減少の困難性、リバウンド、治療継続困難、急激な減量に伴う健康障害
→したがって、統合的肥満症治療が必要である。
栄養療法、運動療法、認知行動療法、薬物療法、そして外科療法

薬物療法

・欧米には長期使用が可能な多数の抗肥満薬が存在する
Orlistat(リパーゼ阻害剤)、Lorcaserin(セロトニン2c受容体アゴニスト)でエーザイが開発したもので効果が高い。
リラグルチドはGLP1受容体アゴニストであり、高用量を服用する。
新たな抗肥満薬としてGLP1受容体アゴニストのセマグルチドは日本の投与量の約2倍2.4mg/週を投与すると、5年で15.3kgの減量を達成した(NEJM2021)。現在でも日本で申請中。
ビマグルマブはサルコペニアフレイルの治療として開発されたものであるが、肥満者が服用すると内蔵脂肪が減少し(2週間で-10%)、筋肉量が増加(+4.5%)した(Diab Obes Metab 2018)。
一方で日本国内では十分な減量効果を持つ抗肥満薬はまだ保険適応されたものはない。
・肥満外科手術
脂肪吸引ではない!
胃を細くする、胃と腸をつなぎ替える、ものが主体である。
日本では胃のスリーブ手術(袖状胃切除)が保険適応であり、スリーブバイパスは2型糖尿病に顕著に効果があることから、先進医療として日本の4箇所で実施されている。
胃バイパスは欧米で多数の症例があるが、ヘリコバクター・ピロリの感染の問題があり、内視鏡で観察できないため日本では実施されない。

・日本での肥満外科治療の手術適応基準
保険適応(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術、2020 年改訂)
6ヶ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られない下記の肥満患者
 BMl=35以上、糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群のうち1つ以上の合併
 BMI32.5~34.9で糖尿病のコントロールが不良(HbA1C 8.4%以上)で、高血圧症、脂質異常症、または睡眠時無呼吸症候群の治療が不十分なもの1つ以上の合併。
・手術件数は2011年以後急激に増加しており、2021年は890例が実施された。
腹腔鏡下胃スリーブ手術を実施した322例の検討では、術前体重平均119kg→2年後体重は平均約36kg減少した。
ただし6.5%の患者は体重が減らなかったので、薬物療法が必要である。
術後死亡率は0%、術後合併症は7.7%で安全な手術である。

・肥満2型糖尿病患者の減量・代謝改善手術として肥満外科手術が期待されている
紹介された症例では、胃バイパス術直後からインスリン注射が不要となり、その後体重が減少した。
つまり体重減少に依存しない糖代謝改善作用がある。
そのメカニズムについて種々検討されているが、最も注目されているのが
 胆汁酸の血中濃度上昇 と 腸内細菌の変化
である。
J-SMART研究において日本人の2型糖尿病に対する術後寛解基準をHbA1C 6.0%未満かつ糖尿病治療薬(-)とすると、手術全体の75.6%が寛解した。

・2022年4月診療報酬改定での減量・代謝改善手術の適応
(1) 次の患者に対して、腹腔鏡下にスリーブ状胃切除術を実施した場合に限り算定する。
ア 6か月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないBMIが35 以上の肥満症の患者であって、糖尿病、高血圧症、脂質異常症又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群のう ち1つ以上を合併しているもの。
イ 6か月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないBMIが32~34.9の肥満症の患者であって、ヘモグロビンA1c (HbA1c) が8.0%以上(NGSP 値)の糖尿病、高血圧症(6か月以上、降圧剤による薬物治療を行っても管理が困難(収縮期血圧 160mmHg 以上)なものに限る。)、脂質異常症(6か月以上、スタチン製剤等による薬 物治療を行っても管理が困難(LDLコレステロール140mg/dL以上又はnon-HDLコ レステロール170m/dL以上)なものに限る。)又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI ≥30の重症のものに限る。)のうち2つ以上を合併しているもの。
(2) 実施するに当たっては、高血圧症、脂質異常症又は糖尿病の治療について5 年以上の経験を有する常勤の医師(当該保険医療機関に配置されている医師に限る。)が治療の必要性を認めていること。

スティグマとは、差別・偏見と訳されるが、特定の事象や属性を持った個人や集団に対する、間違った認識や根拠のない認識のことを言う。
・肥満スティグマ
太った人に対する「意思が弱く怠惰で愚かだ」という偏見があらゆる場面で起きうる。
肥満スティグマのもたらすもの
①差別を避けるために疾患を隠すよう人々を駆り立てる。②人々がすぐに医療を受けることを阻害する。③人々が健康的な行動をとる意欲を損なわせる。
アドボカシー(支援)活動
我々は常に肥満者の傍らに立って、これらのスティグマを 打ち消し、ともに進むアドボカシー(支援)活動が必要である。

・減量・代謝改善手術の光と影
光:有意な体重減少、代謝障害(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)の早期改善、リバウンドが少ない
影:予後はコントロール群には及ばない
完全には食欲・認知・食行動異常は是正されない。
術後一過性に減った食欲は時間とともにもどり、食べたくても食べれず吐いて苦しむケースがある。
術後数年でリバウンドするケースがある。
術後長期合併症としての栄養障害:骨粗鬆症・骨折の増加、自殺率の増加
→長期にわたるフォローアップ体制が必要である。

●教育講演16 心不全と利尿ペプチド

奈良県立病院機構 奈良県立西和医療センター
斎藤能彦先生

心不全の4年生存率は全がん生存率よりも悪い。それゆえ心不全の治療法は重要である。
1990年代以後ACE-I、βブロッカー、MRAにより心不全の予後改善が示された。そして2014年以後ACE−IからARNI(エンレスト®)へ置き換えが推奨されている。

(著者補足)※ANPとは:心房性ナトリウム利尿ペプチド・・・ANPは心房で生合成される。血中に分泌されると末梢血管を拡張させて血管抵抗を下げ、心臓の負荷を軽減する。また腎臓でANPは水利尿作用を持ち、体液量を減らして心臓の負荷を下げる。これらの作用によって、ANPは血圧降下作用物質として働く。BNPは脳性ナトリウム利尿ペプチドであり心室から分泌される。
・ネプリライシンはANP,BNPを分解するが、サクビトリルはこれをブロックしてANP,BNPの分解を阻害する。
・ANPとBNPの分泌刺激は心室・心房への伸展刺激(EDPや心房圧)、頻脈、レニン・アンギオテンシン系の刺激、交感神経系の刺激などである。
BNPは心臓の形が変わる病態(心肥大や心室拡張など)には有効だが、形の変わらない病態(不整脈や安定狭心症など)では変化が少ない。
ANPとBNPは分泌されてホルモンとしての作用(血管拡張作用や腎臓に働き利尿作用、アルドステロン分泌抑制作用)と、局所ではアンギオテンシン系と機能的に拮抗し、アルドステロン系とも機能的に拮抗して、心筋肥大や線維化を抑制する。
・心不全におけるホルモンバランスの破綻とARNIの効果
これまでの心不全の考え方は、心機能正常ではNP系(ANP,BNP)とSA系(交感神経系)とRAS系(レニンアンギオテンシン系)のバランスが保たれ、代償期心不全ではNP系もSA系・RAS系もともに活性が上昇しつつバランスを保ち、非代償性心不全ではSA系・RAS系が大きく活性化してバランスが破綻するというものであった。したがって、RAS系・SA系を抑制する治療薬、すなわちβ遮断薬、ACE阻害薬/ARB、MRA、が予後を改善した。(ビソプロロール、エナラプリル、スピロノラクトン)
今回ARNI(サクビトリル/バルサルタン:エンレスト®)が加わり、ARNIはバルサルタンの作用でRAS系を抑制し、サクビトリルの作用でNP系を増強する。

ANPの血中濃度は10pM程度、急性効果の期待される濃度は100pMである。サクビトリル投与時はANP、BNPは2-4倍に血中濃度は上昇し、更に心房や心室での濃度は血中の1000倍に達するという。心筋局所での効果が期待できる。
またARNIは腎保護効果がある。
・ARNI使用時にBNPははマーカーとして有効か?
ARNIを投与するとNT−proBNPは低下するが、BNPはむしろ上昇する。しかしながら、演者らの開発した換算式を用いると確かに低下していることが判明した。換算式についてアプリを提供されるとのこと。
・ARNIはすでにβ遮断薬、ACE阻害薬/ARB、MRAを投与されているHFrEF(収縮力低下した心不全)において症状を有する場合、ACE阻害薬からの切り替えで投与することが推奨クラスIとされている。

●教育講演18 NAFLDの病態と治療

三重大学名誉教授
竹井謙之先生

NAFLDは我が国でもっとも有病率の高い肝疾患で、非アルコール性脂肪性肝(NAFL)と非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が含まれる。
肝細胞癌は2015年でNAFLDによる肝硬変によるものが3割を占めるに至っており、将来はNAFLDが主体となるであろう。
全世界での有病率は20-40%、アジアでは13-30%、NASHは3-5%と報告されている。
我が国では健診受診者においてNAFLDは29.7%、うち10%がNASHとされる。
男性の有病率が高く、女性は閉経によるエストロゲンの低下が影響して高齢者に多くなる。
アジアを中心に非肥満者におけるNAFLD有病率が高く、最近のメタ解析では我が国は有病率20.7%と推定される。
特に脳心血管系イベントや慢性腎臓病、大腸がんや女性の乳がんなどの肝疾患以外の発がんリスクとして重要である。
NAFLDはメタボリックシンドロームの肝病態と考えられ、内蔵脂肪型肥満、インスリン抵抗性の重要な因子である。
肥大した脂肪組織から遊離脂肪酸FFAが過剰産生され、内臓脂肪由来アディポサイトカインの分泌不均衡は肝内炎症や肝線維化を惹起する。
・NAFLDへの腸内細菌叢の関与
腸内細菌由来のエンドトキシンLPSの門脈血中への流入に伴う肝マクロファージの活性化が起こり、肝自然免疫系の賦活が病態惹起に寄与しているという。

・Multiple Parallel Hits
かつてNASHはNAFLからのなにか2ndHitがあってNASHに至ると考えられていた。
現在は、遺伝的素因と環境因子によるエピゲノム修飾を基盤に、多彩な因子群がクロストークにより病態形成に至ると考えられている。例えば、アディポサイトカイン、FFA,栄養素、エンドトキシン、遺伝子多型等々….

NAFLDの診断:除外診断が重要
肝脂肪化を伴う他の肝疾患の除外・・・アルコール性肝障害(男性エタノール換算で30g/日、女性20g/日以上)、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、薬剤性肝障害、Wilson病、ヘモクロマトーシス
NAFLD危険因子の評価・・・手術歴(膵頭十二指腸切除術、空腸回腸バイパス術)、種々のホルモン異常として、下垂体機能低下症、性機能不全症、成長ホルモン分泌低下症、甲状腺機能低下症、多嚢胞卵巣症候群
検査:腹部エコーBモード。ただし診断精度は高くない。
肝脂肪量の評価はFibroScanのCAP法が有用。
NAFLDのスクリーニング↓↓ (今日の臨床サポートから引用)

・NAFLやNASHに関係なく、肝線維化のみが長期予後を規定することが2013年に判明した。
肝線維化の評価は可能な限り肝生検が望まれるが、侵襲的であり繰り返しのフォローも難しく、サンプリングエラーもある。
そこで、非侵襲的診断法が提唱されている。
・非侵襲的診断法
肝線維化マーカー:血小板、ヒアルロン酸、IV型コラーゲン7S、M2BPGi、オートタキシン
スコアリングシステム:FIB-4、NFS
弾性波の伝達速度測定(FibroScan)
MRエラストログラフィ:(MRE)
FIB-4 index = (AST × 年齢)/ (血小板 × √ALT)  ※血小板の単位は10の9乗/μL = 0.1万/μL
※日本肝臓学会のHPの計算式 https://medical.eisai.jp/ea/disease/hepatopathy/fib-4/calculator.html

・NAFLDの消化器専門医への紹介のための手順(当院の場合)
1.エコーで脂肪肝あり → FIB-4 indexを計算し1.3以上 or 血小板数20万/μL未満
2.肥満、高脂血症、糖尿病、高血圧などの危険因子あり かつAST異常あり → FIB-4 indexを計算し1.3以上 or 血小板数20万/μL未満
1か2なら消化器専門医へ紹介する。満たさない場合は経過観察。
・NAFLDを認めた場合の脳・循環器専門医へのコンサルテーション
NAFLDと診断し、かつ脳・心血管病を合併あるいは心電図異常あり → コンサルテーション(運動負荷心電図、頸動脈エコーの実施)
NAFLDと診断し、かつ脳・心血管病を合併あるいは心電図異常なし → 血小板数20万以上 or FIB-4 indexを計算し2.67以上 → コンサルテーション(運動負荷心電図、頸動脈エコーの実施)
※たとえ心血管病変なくても、2-3年に一回は同様にコンサルテーションの必要性を評価する
(演者はぜひお願いしたいとおっしゃっていました。)

・肝がんのスクリーニング
NAFLDからの発がんは年率約0.04%、肝硬変を伴うNASHからの発がんは年率2.3%。
NASH肝硬変の最も重要な予後因子は肝がんである。
糖尿病患者は、肝がん発がんリスクが健常者の2.5倍であり、スクリーニングのために画像診断を年に2-3回程度を推奨。
特にNAFLDかつFIB-4 index 1.3以上は肝生検やエラストグラフィの実施が考慮され、FiB-4 index 2.67以上では肝生検やエラストグラフィは推奨される。

NAFLDに対する治療法

・基本は生活習慣の改善である
7%以上の体重減少により肝組織像が改善する(肝脂肪化、小葉炎症、細胞膨化、NAS改善が認められる)
運動療法は減量とは独立して、肝脂肪化を改善し肝機能を改善する
栄養療法: 鉄制限食に関する適切な栄養指導を行う
    エネルギー30kcal/kg/day、タンパク質1.1〜1.2g/kg/day、脂肪エネルギー比率20%、鉄量6mg/日以下
・NAFLDに対する保険適用となった薬物療法はない
現在のところ危険因子である合併症の治療が優先される。
ビタミンE、ピオグリタゾン、ACE阻害薬、GLP−1アナログなどは有効性が示唆されている。
現在NAFLDに対する新規治療薬が開発途上である。

NAFLDのフォローアップ

我が国では成人2000万人以上に存在する疾患であり、広い疾患スペクトラムを持つため、
 肝線維化の進展度、併存する代謝性疾患の治療、冠血管疾患の合併の有無
などに注意しながらフォローする。

●教育講演8 高齢者糖尿病の診療

東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科
荒木厚先生

75歳以上の21.5%が糖尿病である。
高齢者糖尿病は均一ではなく個人差が大きい。
個人差の要因は、
 老年症候群・・・認知機能障害、認知症、フレイル、ADL低下 ←医療・介護を要する状態である。
 合併症/併存症・・・脳卒中、心不全
 年齢・・・長期罹病期間、糖尿病病型1型、重症低血糖の既往
これらは、平均余命の減少、低血糖の高リスク という共通点がある。
・糖尿病と認知機能障害
144本の前向き研究のメタ解析から、種々の疾患の発症率が高いことが判明した。
アルツハイマー病は1.5倍、血管性認知症は2倍、遂行機能(実行機能)や記憶は1.5倍障害されやすい。→糖尿病におけるセルフケアの障害につながる。
特にHbA1c8%以上になると、MCI(軽度認知障害)認知症発症のリスクは約2倍である。
重症低血糖とは人の手を借りないと回復しない低血糖のことであるが、重症低血糖は認知症発症が1.5倍である。
・もし以下のようなことが日常で観察されたら、認知機能検査を推奨する(長谷川式、DASC-8、時計描画テストなど)。

  1. 記憶障害:財布などの置忘れが多い、 外来受診日を間違える、
  2. 手段的 ADL 障害:買物、金銭管理、服薬管理の障害
    3.セルフケアの障害:残薬が多い、血糖悪化
  3. 心理状態の悪化:無気力、無関心、うつ、家に閉じこもる
  4. サルコペニア・フレイル
    ・フレイルは身体的フレイル、精神的フレイル(認知機能低下、抑うつ状態)、社会的フレイル(孤立、閉じこもり)がある。
    フレイルは健康と要介護の中間に位置する概念であり、糖尿病はフレイルをきたしやすい疾患であり、発症リスクは1.5倍。
    糖尿病は高血糖、低血糖、大血管症がフレイルの危険因子であり、認知症発症の危険因子と同じである。
    ・海外の報告では、高齢者においてはHbA1c7.6%をリスク1として、HbA1cが8.2%でフレイル発症1.3倍、6.9%でも1.41倍であり、HbA1cは高くても低くてもフレイルの危険因子であった。
    ・高齢者糖尿病においては筋力とくに握力の低下が著しいので、握力測定が重要である。
    ・対策としては 糖尿病治療とフレイル対策はほぼ共通しており、
    レジスタンス運動を含む運動、栄養サポート、適切な血糖コントロール、動脈硬化危険因子の治療、社会参加などである。

・フレイル・サルコペニアを考慮した食事療法
糖尿病診療ガイドラインに目標体重によるエネルギー摂取量を基本とする。
少なくとも1.0g/kg体重のタンパク質を摂取する。
<総エネルギー摂取量の目安》
総エネルギー摂取量(kcal/日)=目標体重(kg)×エネルギー係数(kcal/kg)
《目標体重(kg) の目安》
65 歳未满:身長(m)の2乗 ×22
前期高齢者(65 歳 674 歳):身長(m)の2乗 ×22~25
後期高齢者(75 歳以上):身長 (m)の2乗 ×22~29
く身体活動レベルと病態によるエネルギー係数(kcal/kg)>
①軽い労作(大部分座位の静的活動):25~30
②普通の労作(座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む):30~35
③重い労作(カ仕事、活発な運動習慣がある):35~目標体重を下回っているとき。
※肥満で減量をはかる場合には、エネルギー係数を小さく設定できる。

・目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡リスク
高齢糖尿病患者756人の6年間の前向きコホート研究によると、エネルギー摂取量が最も少ない群と最も多い群のいずれも予後不良であった! エネルギー摂取量 25〜35kcal/kgが適切である。

タンパク質摂取が1.15g/kg体重以上で死亡リスクが小さい。
75歳以上ではタンパク質摂取量が少ないほど死亡リスクが増加する。
・フレイル・サルコペニアを考慮した運動療法
レジスタンス運動‥インスリン抵抗性、血糖、筋力を改善する。週2回以上
多要素の運動‥柔軟運動→軽度の筋トレ→有酸素運動(早歩き)→筋トレ、レジスタンス運動の強度を強める
これらは下肢機能低下の糖尿病患者の身体機能と認知機能を改善させる。

・高齢者糖尿病の藥物療法
有害事象のリスクを少なくする治療:重症低血糖、転倒・骨折、体重减少、体重增加を改善する治療が望まれる
病態による薬剤選択と用量調節:特に腎機能障害に注意してメトホルミン、SGLT2阻害薬、SU薬などを調整する。
服薬アドヒアランス低下:特に認知機能障害の場合には、
→治療の単純化 →減量・減薬などを考慮する。
・なぜ高齢者は低血糖を起こしやすいか
腎機能障害による薬剤の蓄積 → 腎機能評価による用量調節
低血糖でも無自覚・あるいは微妙な症状・・・頭がくらくらする、フラフラする、脱力感、言語不明瞭、物事の段取りがうまく行かない、動作がぎこちない、意欲低下やせん妄 → いつもと違った様子ではブドウ糖を摂取する。
突然に食事摂取が低下し低血糖の対処が困難 → 介護者への低血糖やシックデイの教育、SU薬の減量・中止、インスリン減量
・高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)
認知機能正常か、ADL自立しているか の2点でまず振り分けられる。
両者ともに正常ならカテゴリーI、どちらかに障害があればカテゴリーII、中程度以上の障害あればカテゴリーIIIである。
さらに重症低血糖を起こしやすい薬剤の投与(インスリン、SU剤、グリニド薬)の有無でHbA1cの目標値が変わる。
重症低血糖を起こすのが何よりも良くないからである。

カテゴリー分類と死亡リスクの検討では、6年間の追跡でカテゴリーIに比しIIは1.83倍、IIIは3.05倍の死亡リスクがある。
カテゴリー分類するための認知機能評価としてDASC-8が開発された。DASC-21と高い相関がある。
(日本老年医学会 HP:https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/dasc8.html)
DASC-8(8-32点で低いほどよい) 10点以下・・・カテゴリーI、11-16点はカテゴリーII、17点以上でカテゴリーIIIである。
カテゴリーIIの段階から治療の単純化=薬物処方の複雑性を減らす
カテゴリーIIIなら減薬・減量を考慮する。

  1. 服薬数や回数を減らす:効果がない薬を中止
  2. 服薬タイミングの統一
  3. 一包化にて処方する (SU 薬は除外)
  4. 合剤の活用
  5. 週 1 回製剤の利用
    2 型糖尿病患者のインスリン治療では、
     強化インスリン療法から 持効型インスリン1 日 1 回に変更
     または 週 1 回 GLP-1 受容体作動薬の導入変更

・DASC-8の質問内容
認知機能
 1.財布や鍵など、物を置いた場所が分からなくなることがあるか(記憶)
 2.今日が何月何日かわからなくなることはあるか(時間見当識)
手段的 ADL
 3.一人で買い物はできるか(買い物)
 4.バスや電車、自家用車などを使って一人で外出できるか(交通機関利用)
 5.貯金の出し入れや家賃や公共料金の支払いは一人でできるか(金銭管理)
基本的 ADL
 6.トイレは一人でできるか(トイレ使用)
 7.食事は一人でできるか(食事)
 8.家の中での移動は一人でできるか(移動)

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