第62回日本呼吸器学会学術講演会 聴講録その1

2022年4月22日-24日に京都国際会議場において
第62回日本呼吸器学会学術講演会が開催されました。
私は学会発表をおこなったのは先にお知らせしたとおりです。
さらに最新の知見を学んでまいりました。
その後WEBにて繰り返し講演を聴講しましたので、報告します。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

●Year Review in Assembly 1 腫瘍学術部会

京都府立医大呼吸器内科
高山浩一先生

ADAURA試験:EGFR(+)NSCLC StageII/III に対して完全切除されたあとの術後補助化学療法としてオシメルチニブを投与すると再発が有意に低下させた。術後34週でオシメルチニブ群の無再発率80%、プラセボ群28%であった。ただし再発と診断されれば速やかにオシメルチニブを投与開始位するので、OSは今のところ差はない。
IMPACT試験:同様の日本の試験。術後シスプラチン+ビノレルビン VS 術後ゲフィチニブ投与症例では有意差はなかった。
→今後はEGFR(+)NSCLC患者の術後補助療法としてオシメルチニブが主体となるかもしれない。
IMPOWER-010試験: NSCLC Stage II-IIIA に対する術後補助化学療法として、PD-L1>=1%の症例にアテゾリズマブを投与したところ、36ヶ月の時点で無再発率は60%、BSC群48.2%と有意に有効であった。サブグループ解析では、PD-L1の発現が高いほうが有効性があり、EGFR遺伝子変異があると効きにくい。
Checkmate 9LA 進行期NSCLCに対するIpilimumab/Nivoluumab/Chemo併用療法で2サイクル投与後にOS中央値15.8ヶ月 VSChemoのみ10.9ヶ月 であった。
RET融合遺伝子陽性肺がんに対して、セルペルカチニブ(レットヴィモ®)の単剤療法を推奨する。
KRAS遺伝子G12C変異陽性肺がんに、2次治療以降でソトラシニブ(ルマケラス®)単剤療法を推奨する。(薬価1日3万円くらい)
NTRK+融合遺伝子陽性がんにTRK-TKI単剤療法を推奨する。エヌトレクチニブ、ラトトレクチニブのいずれか。response rate 76.9%ある。
ALK融合遺伝子陽性の一次治療には、ブリガチニブ(Brigatinib)とクリゾチニブは奏効率は同程度であるが、脳転移を有する症例ではブリガチニブが有意に有効である。
とにかく希少ガンを見落とさないのが重要であり、マルチプレックス遺伝子検査がデフォルトとなるであろう。オンコオマイン®、AmoyDx肺がんマルチ遺伝子PCRパネル®など。
細胞診検査で使用できるコンパクトパネル、も近い将来登場する。

●Year Review in Assembly 2 びまん性肺疾患学術部会

自治医科大学内科学講座呼吸器内科部門
坂東政司先生

ERS 2021 Clinical Year in Review (ILD)
1.Am J Respir Crit Care Med. 2021; 203: 211-220. Envisia Genomic Classifier (EGC) と画像検査の組み合わせによるUIPパターンの検出精度について: EGCはMDDを行う上で、有用な検査である。

  1. Respir Res. 2021; 22: 162.
    フランスにおけるヘルスケアデータシステムを用いたP-ILDの観察研究では、全生存期間中央値は進行開始から3.7 年、PF-ILDは患者自身と医療サービスの両者にとって負担大。
  2. Eur Respir J. 2021; 2100917. DOI: 10.1183/13993003.00917-2021.
    IPF 患者に対する健康関連 QOL 評価のための新たな数値評価尺度(R- Scale-PF)は既存のK-BILDお よびEQ-5D-5Lとの比較検討、従来の評価法とよく相関している。
  3. Respiration. 2021; 100: 780-785.
    IPF 患者の1 年死亡率に対するサプライズ質問の予測能評価は、適切な緩和ケアへの移行に有用である。
  4. The CleanUP-IPF Randomized Clinical Trial. JAMA.2021;325 (18):1841-1851.
    IPF 安定期において通常治療に抗菌薬(コトリモキサゾールまたはドキシサイク リン)を追加しても、予定外入院・死亡までの期間に改善なし。

IPFの診断フローチャートの改訂がなされた

胸部HRCTパターンとして、UIP、probable UIP、indeterminate alternative Dxに分類し、後者2つについては気管支鏡や外科的肺生検検体を採取してMDD(臨床医、放射線科医、病理医による集学的検討)を実施して確定診断する。
一旦IPF、not IPFと診断しても、しばらくして再評価することが重要とした。
・IPFの病理所見は、胸膜直下や小葉辺縁性の線維化や構造の歪み、Patchy fibrosis , Fibroblast foci, 他の診断を考える所見がない、の4つが重要であるが、Cryobiopsyにおいて検体を多く採取して後者3つを満たせばUIPと診断可能である。つまり胸膜直下や小葉辺縁性線維化は必須ではない。(Wndy A Cooperら、AJRCCM 2021)。
・EGC(Envisia Genomic Classifier:経気管支生検でUIPを同定する臨床的に検証された分子診断検査法)
経気管支生検TBBの検体を用いてRNA解析しUIPと診断する検査法である。
IPFの診断と管理における医師の臨床的意思決定に対するEGCの影響を前向きランダム化により検討された。
HRCT 所見では典型的なUIPパターンではなく、Envisia 検査ではUIP 陽性で、集学的検討(MDD) により 最終的にIPFと診断された患者
3つの異なる設定で検討された。
①最初は Envisiaの結果なしで、のちに Envisiaの結果ありで行う前後コホート ② Envisiaの結果なしの独立コホート ③ Envisiaの結果ありの独立コホート
米国呼吸器科医 103 名が本研究に組み入れられ、11 名の患者の605ケースレビューを実施した。
その結果、IPF診断数が39%増加し、IPF診断確信度レベルは上昇(>90%)し、治療介入(抗線維化薬投与開始)が36%も増加した。
・光干渉断層撮影法(Optical Coherence Tomography)
CTスキャンや超音波エコーグラフィーと同様の原理である。
光の干渉性を利用して試料内部の構造を高分解能・高速で撮影する技術である。
近赤外線を照射して非接触・非侵襲で撮像し、人体の様々な器官の断層像に利用される。

X線CTや超音波エコーに比較して侵入長は浅い(数mm以下)だが、顕微鏡に匹敵する分解能で非破壊分析が可能である。
気管支鏡を用いる低リスクのモダリティで胸膜下領域を含む体内の大きな肺容積を顕微鏡レベルの分解能で撮影でき、ILD診断の精度を高めることができると期待されている。

EB-OCT(Endbronchial OCT)は病理学的なUIPパターンとIPFの臨床診断のいずれにもいても、感度特異度は100%であった。HRCTを補完し将来は外科的肺生検の代替え法となりうるかもしれない。(AJRCCM 2021)
・人工知能を利用した画像解析ソフト(HandaらAnn Am Thorac Soc. 2021)
胸部HRCT画像上の肺実質や気道の異常を検出し、IPF患者におけるこれらの予後予測能を探索的に検討した。
結果:胸部HRCTでの気管支容積と正常肺容積はIPFのGAPステージに追加となる予後情報を提供する可能性がある。
・IPFにおけるシステム生物学的アプローチをmolecular patterns & pathwayの統合的解析が行われている。(ERJ 2022;59:2101181)
実際に利用可能な進行性IPFのバイオマーカーとして、オステオポンチン、MMP-7、ICAM-1、ペリオスチンが重要であり、この4つのバイオマーカーの組み合わせを用いたProgression index(PI)モデルにより、進行リスク、死亡率、PFS(progression free survival )を予測可能であると報告された。
・単球数とIPFの予後が関連する(AJRCCM 2021)(LANCET med 2019)
ピルフェニドンとINFγ-1bの臨床試験の統合データを用いてIPF患者の単球数と予後の関連を調査した研究では(N=2067)、ベースライン時の単球数に基づいて層別化した。
その結果、単球数増加がIPFの進行、入院、死亡リスク増加と関連しており、単球数は簡便かつ安価なIIPF 予後予測バイオマーカーとなりうる。
INBULD試験に基づくデータにおいて、ベースライン時の単球数が第3四分位数(Q3)以下のグループとQ3超のグループを比較した報告では、IPF以外のPF-ILDにおいて単球数高値は死亡リスクおよびILD診断急性増悪または死亡リスク増加と関連していた。
・分類不能型ILDの治療について (ERJ 2021; 58: 2100276)
分類不能型ILDはまず高用量ステロイドによる早期治療開始の必要性を検討する。つづいて免疫調整薬や抗線維化薬の投与の必要性を検討する。治療開始後も再評価が必要である。

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)

・PF-ILDの概念
IPF 以外のIIPsあるいは その他のILDs(膠原病を含む) のなかにもIPFと類似の進行性線維化性の臨床経過を呈し,ステロイド,免疫抑制薬を用いても,線維化が進行し,肺機能が低下し,症状が悪化,予後不良のフェノタイプが存在する。

PF-ILDは一般的にIPFと予後は変わらないとされるが、背景疾患により予後に差がある。(ERJ 2021)
特に膠原病関連ILDは予後良好である。
PF-ILDに対する抗線維化薬開始のタイミングは現時点で確立していない。
予後はILDサブタイプにより影響をうけるので、サブタイプを考慮したトライアルをデザインしなければならない。(ERJ 2021)
膠原病関連ILD(CTD-ILD)、IIP、慢性過敏性肺炎の順に予後不良であり、CTD-ILDの中でも予後が分かれる。

PF-ILDの治療、新規治療候補薬・評価指標

・抗線維化薬はIPFの全死亡率(RR=0.63)と急性増悪(RR=0.55)による死亡率を有意に低下させる(CHEST 2021)。
びまん性肺疾患に関する調査研究班の報告では、ピルフェニドンとニンテダニブの併用はある程度PSが保たれていれば忍容性があることが報告された(Respir Investig 2021)。
現在Phase IIIの臨床試験が実施中の治療薬は、Autotaxin inhibitorとAnti-CTGFである。PhaseIIの段階は5種類ある。
間質性肺疾患の予後を予測するマーカーとして、3ヶ月で2.5%のrelative FVC declineを示した場合15%の死亡増加が認められる(AJRCCM2022)。
・COVID-19世界的流行下におけるILDの家庭用スパイロメトリーの有用性を検討した報告では、対面トレーニングにより測定技術は向上し、軽症から中等症の患者は適切に実行可能であった。一方で重症度が高い患者は対面トレーニングとの測定バイアスが大きかった。
K-BILDなどの患者報告アウトカムを利用した臨床研究が行われるようになっている。
・IPFの呼吸リハビリテーションはCOPDと同様に実施継続できればシャトルウォーキングテストによる運動耐容能評価やCRQによる健康関連QOLの評価は有意に改善した(CHEST 2022)。
・IPFの急性増悪に対するサイクロホスファマイドとステロイド併用による治療は効果なかった(むしろサイクロホスファマイド投与群が予後不良傾向だった。)(Lancet Respir Med 2022)。
・近藤らの報告では、JRS所属の134医療機関に2020年1月から4月までのオンライン質問表によるサーベイが実際され、AE-ILD患者854例のうちCOVID-AE ILD12名を検討した。発症90日目の死亡率は、非COVID関連AEは16%であったのに対し、COVID-AEは75%が死亡した。COVID-AEは非常に予後不良であることが判明した。
しかし1. AE-ILD triggered by COVID-19?なのか、COVID-19 pneumonia or ARDS in pts with ILD? なのか、2. Post COVID-19 ILD:はpost ARDS (DAD/OP) or pre-existent ILDかは、不明であり今後の検討が必要である。
・2021年1月12月の期間にIPFの急性増悪が10名入院し、うちCOVID-19ワクチンを接種した直後(平均3.5日後)にAEを起こした症例は4例あった。ワクチン接種がトリガーとなった可能性がある。

●Year Review in Assembly 3 細胞・分子生物学学術部会
-肺の恒常性破綻と疾患病態-

京都大学呼吸器内科学
佐藤篤靖先生

トランスレーショナルリサーチにより明らかになったBiology
1.小児肺発達障害
2.禁煙後の体重増加

生まれて直後に障害を受けると、DPBとか呼吸機能が低下することが判明した。
・生涯肺機能は3段階様式で低下する
1st stressor  新生児期障害因子 早産、酸素長期投与、感染症
2nd stressor 小児期障害因子 重症喘息、両親の喫煙、感染症
3rd stressor 成人期障害因子 重度の喫煙、感染症

●Year Review in Assembly 4 呼吸管理学術部会

奈良県立医科大学呼吸器内科学講座
山内基雄先生

COVID-19以外の呼吸管理

・在宅NIV療法における鼻マスクと鼻口マスクとの有効性を比較した研究(Thorax 2021)
8つのRCTをメタ解析し、対象はNPPV施行したCOPDおよびOHS症例(N=290)。
PCO2およびアドヒアランス、有効性において両者間に有意差なし。
・Portable NIVの有効性の検討(Respir Res 2021)
中等症から重症COPDでNIV導入歴のない症例(N=38)と長期NIV使用中の患者(N=23)に対して、portable NIVの呼吸困難感と運動耐容能への効果を比較検討した。

プロトコール:portable NIVを装着して6MWTを実施し、その後装着せずに6MWTを行う群、あるいはその逆で実施(クロスオーバー試験)。
NIV導入歴のない患者において6MWTは14.6m延長(311.7→326.3m)しボルグスケールは平均5.5→4.8に低下傾向であったが、長期NIV使用患者ではむしろ6MWTは-33.1m短縮し、ボルグは上昇傾向であった。

睡眠関連呼吸障害の呼吸管理

・OSAの新規治療法
植込み型舌下神経刺激療法(Hypoglossal Nerve Stimulation;HNS) : 呼吸同期片側舌下神経刺激療法
2021年4月現在欧米ではすでに12500人を超える患者に植え込まれている。
日本では2018年6月にPMDAで承認、2021年4月に健康保険収載された。

・舌下神経刺激療法(HNS)とCPAPの比較検証研究(JAMA Otolaryngol Head Neck Surg 2022)
HNS(N=85)とCPAP(N=217)において患者の自覚的症状を比較した。
Outcome:AHI, ESS, Functional Outcomes of Sleep Questionnaire (FOSQ), Insomnia Severity Index (ISI), Patient Health Questionnaire-9 (PHQ-9; depression) scores
結果:治療3ヶ月時点では、PHQ-9 score の改善がCPAPよりもHNSで有意に大きかった。さらにESS、FQSQ、ISIについても臨床的に有意な改善はHNSのほうが多かった。
ただし、アドヒアランス良好の患者同士を比較すると、HNSとCPAPで有意差はなかった。
HNSは1年後も改善を維持していた。
・HNSの降圧効果についてCPAPと比較した研究(CHEST2020)
HNS群(N=278)とCPAP群(N=517)の比較。4ヶ月後のESSおよび収縮期・拡張期血圧の変化を測定した。
全患者対象の解析ではHNS群に血圧の有意な変化は認めず、CPAP群において拡張期血圧のみ-2.4mmHgであった。
一方高血圧患者(SBP130以上、DPB80以上)のみを対象として解析したところ、HNS群ではSBPの有意な低下(-4.2mmHg)、CPAP群ではSBP(-6.2)、DPB(-5.1)で有意に低下した。両治療群でESSは有意に低下したが、その改善はHNSで大きかった。
結論 降圧効果は CPAP>HNS、ESSの改善は CPAP<HNS

●Year Review in Assembly 5 アレルギー・免疫・炎症学術部会

近畿大学病院総合医学教育研究センター
岩永賢司先生

・COVID-19患者における呼吸器疾患併存率とその予後(JRS調査:Respir Invest 2021)
1444名のCOVID-19患者について呼吸器疾患の合併率を調査した。
喘息の合併率3.4%、COVID-19罹患による喘息急性増悪は12.2%、死亡は4.1%であった。
同様にCOPDは4.8%、18.8%、31.8%、ILDは1.5%、36.4%、31.8%であった。
COVID-19患者における喘息併存率は一般人口のそれよりも低く、喘息患者がCOVID-19に罹患しても他の呼吸器疾患より増悪・死亡率は低い。
・一方で、スコットランドからの報告では(Lancet Respir Med 2022)
過去2年間に2コース以上のOCS(経口ステロイド薬)使用歴がある、または2020年3月1日以前に喘息増悪で入院した症例は、COVID-19による入院、ICU入室や死亡のリスクが高いと報告された。2コースのOCSで入院1.37倍、ICU入室あるいは死亡1.27倍、3コース以上の症例ではそれぞれ1.54倍と1.44倍。さらに過去に入院歴がある場合は3倍と2.24倍であった。
重症喘息においてはCOVID-19の予後が不良である。

重症喘息に対する新規生物学的製剤

・抗TSLP抗体:Tezepelumab
Phase III studyの結果では、末梢血好酸球数、FeNO値のいずれも高値ほど急性増悪を抑制する効果は高いが、低値であっても十分に急性増悪を抑制している。
つまりTezepelumabは2型バイオマーカーの多寡に関わらず喘息抑制効果がある。

・重症喘息に対する生物学的治療のレビューが報告された(NEJM 2022 Jan 13; 386: 157-171)
生物学的製剤の使い分けが示されている。
生物学的製剤選択で確認する項目
 ・OCS 連用しているか否か
 ・血中好酸球数:<150、150~1500、>1500
 ・FeNO: <25、≥25
 ・アレルギー性・通年性抗原陽性か否か
治療後の有効性評価指標
 ・4~6か月間使用後に判定
 ・増悪頻度 50%减少
   (OCS 連用者は用量 50%減少したか)
  症状改善したか
  喘息コントロール改善したか
有効例は生物学的製剤継続
無効例は診断・アドヒアランス・併存症・フェノタイプ・ バイオマーカー再評価、生物学的製剤中止、他の生物学的製剤へ変更

・メポリズマブ長期投与後中止した場合
中止後12週くらいで継続群と中止群に差がでてくる。
 急性増悪が増加する。
 血中好酸球数は急速に増加し8週で4倍、20週で8倍となる。
 1秒量は-90mL
・経口ステロイド使用にも関わらず重症喘息で上昇し、2型炎症とは無関係の血漿蛋白質が同定された。(Mikus MSら ERJ 2022)
タンパク質プロファイルに基づき被検者を喘息コントロール、QOL、血中好中球、高感度CRP、BMI関連の6つのクラスターに分類した。
2型炎症バイオマーカーは関連無し。カルボキシペプチダーゼA3(マスト細胞特異的酵素)がクラスター分化の主要要因と報告している。

血管炎

EGPAの分類基準2022が米国および欧州リウマチ学会議で発表された。
これは診断基準ではなく、小中血管炎の患者をEGPAかそれ以外かに分類するためのものである。
Clinical Criteria : 閉塞性気道疾患3点、鼻ポリープ3点、多発単神経炎1点
Laboratory and Biopsy Criteria:血中好酸球数1000/μL以上5点、血管外好酸球性炎症が生検で見つかる2点、cANCA陽性 -3点、血尿-1点
→7つの項目、合計スコア6点以上でEGPAと診断する。
なぜcANCAと血尿はマイナス点なのか: cANCAはEGPAではわずかに3.1%しか陽性ではなく、糸球体腎炎陽性率は4.9%しかない。いずれも頻度が低いからである。

同様の理由から、
多発血管炎性肉芽腫症では、pANCA陽性なら-1点、血中好酸球数1000/μL以上なら-4点である。

Microscopic Polyangitis(MPA)の場合は、鼻病変があると-3点、cANCA/anti-PR3陽性で-1点、血中好酸球数1000/μL以上で-4点である。

●Year Review in Assembly 6 肺循環・肺損傷学術部会

NHO東京病院呼吸器内科
守尾嘉晃先生

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)

・ARDSでは呼吸器系エラスタンスが1.5cm H2O / [ml / kg]以上ある場合は、low tidal volume換気の死亡率が低い
一般的にARDSの患者において、Low tidal volume管理(4〜8 ml / kg×予測体重[PBW])は人工呼吸器誘導肺損傷(VILI)を予防し、これにより死亡率も低下するとされる。
Goligherらは、呼吸器系エラスタンス(肺・胸郭の弾性抵抗:肺と胸郭が縮もうとする力)と高換気や低換気が死亡に及ぼす影響について検討した(N=1096、60日間死亡患者416例)。(Am J Respir Crit Care Med 2021)
結果:呼吸器系エラスタンスが1.5cm H2O / [ml / kg]以下の場合は、Low tidal volume管理でもhigh tidal volume管理でも、死亡率は同等であったが、1.5を超えると明らかにhigh tidal volume管理のほうが死亡リスクが上昇した。
driving pressure(駆動圧:吸気プラトー圧−PEEP)もエラスタンスが上昇するほど増加し、high tidal volume管理のほうがLow tidal volume管理よりも高値である。
また、PF比は予後と関連がなく、driving pressureは15 cmH2Oで予後の改善がみられた。
→以上から、low tidal volume管理でのARDSの死亡率は呼吸器系エラスタンスによって変化し、肺保護換気戦略は主にdriving pressureを目標とする必要がある。特にdriving pressureが15を超える場合は1回換気量を減量することを考慮すべきである。
・ARDSのネットワークメタ解析結果(AJRCCM 2021)
無作為化34試験から抽出した中等度から重症のARDS患者9085例のネットワークメタ解析が実施された。
その結果、人工呼吸管理は低換気、腹臥位が死亡減少に高い確信性をもって有益であった。
VV-ECMOは有益性は指示されるも、エビデンスが少ないため確信性は低いとされた。
・ARDS死亡に対する予測バイオマーカーの検討(Sci Rep 2021)
ARDS(N=568例、28日死亡率27%)において、マルチオミック解析を実施し、9遺伝子(TNPO1他)が同定された。
また、生存者においてはHDAC class I signal ing eventを示す遺伝子発現や、TGFβ、IL−6など6つの発現が7日目でピークとなり、その後低下したが、死亡者においてはピークはなく横ばいだった。
さらに血清中のアンギオポイエチン2+IL1R2の濃度が高値であれば、ARDS死亡率が高いことを示した。

・COVID-19退院患者に抗凝固療法が有効である
静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高いCOVID-19で入院した患者の退院時にリバーロキサバンを投与した群では、35日間の観察期間中に、コントロール群に比較して66%のリスク減少(Risk Ratio:RR=0.33)を認めた。副次評価項目の出血イベントはコントロール群も投与群も認めなかった。
患者背景では、60歳以上、BMI30以下、腎機能は中等度以上、VTEスコア3以下、抗血小板剤の投与されていない、などが有効とされた。
※VTE 高リスク:VTE 予防国際登録 IMPROVEのVTEスコア≥4または2~3でD-ダイマー>500ng/mL

肺高血圧症(PAH)

・肺高血圧のリスク評価と初期治療による肺血管抵抗の関連性を調査した報告(AJRCCM 2021)
肺動脈性肺高血圧症(PAH)では,初期経口併用療法が推奨されているが,リスク軽減や肺血管抵抗(PVR)に対する効果は不明である。
PAH 患者における初期経口薬(ERA+PDE5I:ambrisentan and tadalafil)併用療法の後ろ向き評価
2013年1月-2018年12月までPAH患者181例でESC/ERSリスクアセスメント、REVEAL2.0リスクアセスメト、PVRを検証、フォーアップ期間中央値:180 日 とした。
結果、ERS/ESCスコアでは78人(43.1%)、REVEAL 2.0スコアでは63人(34.8%)で低リスクの状態になった。診断時低リスクの患者は低リスクを維持する傾向が強かったが、中リスクでは改善されていない、さらに高リスク患者では低リスクまで改善した症例はなく、ほぼ半数が高リスクのままであった。
→ 今回の結果は、経口薬の初期併用療法では、少なくとも半数のPAH患者のリスクを十分に改善できないこと、また、このことは現在利用可能なスコアを使ってベースラインである程度予測できる
・治療薬の併用効果について(J Am Coll Cardiol 2021)
新たにPAHと診断した未治療の患者(N=291)を2群に分け、初回3剤(マシテンタン・タダラフィル・セレキシパグ)対初回2剤(マシテンタン・タダラフィル・プラセボ)内服を26週目の肺血管抵抗(PVR)の変化で評価した。
患者背景:PVR 12WU、mPAP52mmHg、心係数2.2、
→ どちらの治療法もベースラインと比較してPVRを54%および52%減少させたが、群間に有意差はなかった。経過中の臨床増悪率は3剤併用群で減少しており長期予後が改善される可能性が示唆された。
・PDE-5阻害薬をリオシグアトに変更した報告(REPLACE試験)
リオシグアトとホスホジエステラーゼ5阻害剤(PDE5i)は、異なるメカニズムで同じ経路に作用する。リオシグアトは、PDE5iによる治療で十分な効果が得られないPAH患者に対する代替選択肢となり得る。
REPLACE試験では中リスクPAH患者において治療経過中にPDE-5阻害薬(シルデナフィルまたはタダラフィル)をリオシグアトに変更した。
主要評価項目は、24週目までの臨床的改善。臨床的悪化がなく、3つの変数(6MWD、WHO機能分類、BNP)のうち少なくとも2つが事前に定義された改善を示すかどうか。
結果:リオシグアトの41%、PDE5iの20%で改善を認めた。リオシグアトは経過中の臨床増悪率をHR=0.1で90%の減少を認めた。65歳未満、女性、6MWD 320m以上で有効性が高かった。
・COPDにおけるPH
特発性肺動脈高血圧症よりも重症肺高血圧合併COPDのほうが予後は不良である。中等症の肺高血圧合併COPDに対してPDE-5阻害薬を投与して反応群、非反応群ともに予後に有意差はなかった。一方で重症肺高血圧合併COPDにおいて治療反応群では生存率が改善していた。→一部のCOPDにおいて治療は有効と考えられる。
・セレキシパグ(Ogoら、ERJ 2021
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)にセレキシパグを投与した報告では、PVR、CI、SvO2%、Borg Scale:改善し、6MWD、NT- proBNP、WHO-FC:改善なし。
肺血管拡張薬ナイーブな患者にセレキシパグを投与すると、有意に肺血管抵抗を低下させた。
意義;CETPHで治療ナイーブな患者で、非手術症例や術後残存症例においてはセレキシパグの優位性が示唆される。

●Year Review in Assembly 7 閉塞性肺疾患学術部会

奈良県立医科大学呼吸器内科
室 繁郎先生

COPD患者にSITT(single inhaler triple therapy)は頻回なCOPD増悪を低下させ呼吸機能を改善する。
Triple therapy(トリプル:ICS+LABA+LAMA)はLABA+LAMAに比較して肺炎には不利だが予後を有意に改善するという、グローバルデータが存在するが、日本人に限っていうと肺炎リスクがかなり増加して、生命予後改善効果ははっきりしない。
肺がんIV期の患者でCOPD合併した患者は予後不良だが、COPD治療することによりCOPD増悪非合併群と同等の予後になる。
増悪リスクの低いCOPDではLABA+LAMAでもトリプルでも死亡率に差はなかった。
→ 増悪リスクの低いCOPDではICSは併用する必要はないのではないか。今後の課題。
肺炎を発症したCOPDでは予後が有意に不良となる。
KRONOS試験(演者らの実施した試験)では、気道可逆性試験陽性や末梢血好酸球数が多い患者を除いたCOPD患者の解析においても、トリプル群はLABA+LAMA群よりも若干予後が改善した。
ICS併用群は非併用群に比較して気道のマイクロバイオームの多様性が少なくなる。(AJRCCM2021)
COPDにICSを併用して治療すると、気道内に緑膿菌が増加する。
COPD510例の患者から回収したN=1706 の喀痰マイクロバイオームを検討した報告では、好中球優位、ヘモフィルス優位、炎症メディエーター、などのサブタイプに分かれる。
ネクローシスとアポトーシスの中間的なネクロトーシス(細胞が死んでいきながら炎症を起こす)が重症COPDでは観察された。

Early COPD

・コペンハーゲンー般人口調査の20~100 歳の14,870 人を対象とし、10 年の間隔でスパイロメトリーを実施したコホート研究。
Early COPD=50歳未満かつ、ベースラインのFEV1/FVC< 正常下限LLNの人(N=5497)をピックアップした。
結果
3%が正常下限LLNを下回る1秒率であった。LLNを下回っていない群は10年後も正常だが、LNNを下回った群は24%がCOPDの診断となった。
喫煙とearly COPDが、10 年後のCOPDと増悪入院を予測しうる。喫煙濃度(pack year) は10 packyear 以上 であろうと、それより少なかろうと大差なし。
マウスの研究であるが、胎生期の肺の発生時期にNFκBの刺激で好中球炎症を惹起すると2ヶ月後にCOPDとなる。胎生後期ならならない。
→ 人において妊娠早期の喫煙が胎児のCOPDを発生させてしまう可能性がある。

PRISm (=Preserved Ratio Impaired Spirometry )
定義:FEV/FVC>LLN and FEV1 of less than 80% predicted normal value
ずっとPRISm、あるいはNormal からPRISmに変化した人の予後が不良(虚血性心疾患、心不全、肺炎、COPDの入院が多い)である。

COVID-19

喫煙者とCOPDは気道のACE2レセプター発現が増加している。重症化の要因の一つであろう。
COPDに胸部CTを実施すると1.85%に肺がんが発見されるので、注意深くフォローする必要がある。

●Year Review in Assembly 8 形態・機能学術部会

埼玉医科大学呼吸器内科
仲村秀俊先生

早産・低出生体重関連COPD・インターネットサーベイ

新生児慢性肺疾患(chronic lung desease :CLD)は、低出生体重児で生じる先天奇形を除く肺の異常により酸素投与を必要とするような呼吸窮迫症状が新生児期に始まり日齢28日を超えて続くものと定義される。出生体重が1500g未満の極低出生体重児VLBWではCLD発症率12.2%、1000g未満の超低出生体重児ELBWでは57.7%であった。(2005年国内230施設での集計)
欧米では同様の概念として気管支肺異形成症(bronchopulmonary dysplasia:BPD)がある。BPDに罹患した患者が24-25歳に達したときの呼吸機能を報告では、非早産のものに比較して%1秒量は約2割少なく、%FVCは1割少ない。さらに喘鳴、咳を有する頻度は1.5倍多く、気管支喘息と診断されたものは約3倍多かった。
・幼少期下気道感染症の危険因子(Allison JPら、AJRCCM 2017)として、父親の職業、室内での石炭の使用、家の狭さ、幼少期感染症の既往などが挙げられた。
・中高年のFEV1とその経年低下に関与する因子は幼少期の生活環境の悪さに加えて喫煙が関連する。

呼吸機能評価における画像解析の応用

・Parametoric response map(PRM)による吸気・呼気CTでの気腫病変とエアトラッピングの評価では、GOLD2-3の呼吸機能の患者で末梢気道病変の検出が可能となり、GOLD3-4では気腫病変が検出される。(Bhatt SPら、AJRCCM2016)
・間質性肺炎の病変をAIで評価し体積に換算し予後を比較したHaradaらの検討では(Annals ATS 2022)、たとえGAP stage Iの軽症症例であっても気管支容積が多い(high bronchial volume)ほど予後不良であった。
※GAP score とは;肺線維症や間質性肺疾患の患者の性別(gender)、年齢(age) 、呼吸機能(%FVC又は%VC、及び%DLco)から算出するスコアであり、IPF患者及びその他のILD患者において、生命予後と相関することが報告されている。

・気流閉塞のある気管支喘息とない喘息をCT画像で比較した報告では、固定した気流閉塞(FAO)を呈する喘息患者では肺実質の破壊がみられ、その程度は喘息の重症度や喫煙と関連しなかった。(Shimizu Kら、JACI 2022)
換言すると、軽症と思われる喘息でも肺実質の破壊が進行する症例がある。
・コニカミノルタが開発したDynamic Chest Radiographyでは肺高血圧の鑑別が比較的容易であり、血流分布が明瞭に描出される。肺血流シンチグラフィーとの整合性が保たれている。(Yamasaki Yら、AJRCCM 2021)

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