第62回日本呼吸器学会学術講演会 聴講録その2

2022年4月22日-24日に京都国際会議場において
第62回日本呼吸器学会学術講演会が開催されました。
私は学会発表をおこなったのは先にお知らせしたとおりです。
さらに最新の知見を学んでまいりました。
その後WEBにて繰り返し講演を聴講しましたので、報告します。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

◆ミニシンポジウム4 PPFE(Pleuroparenchymal fibroelastosis)

◆ランチョンセミナー10 呼吸器科医が知っておきたい最新の話題

◆コーヒーブレイクセミナー4
閉塞性肺疾患における呼吸機能管理の重要性

◆シンポジウム5 COPD:疾患多様性を踏まえた診療アプローチ

◆特別プログラム COVID-19診療における現場の疑問点を考える

◆ミニシンポジウム4 PPFE(Pleuroparenchymal fibroelastosis)

●MS13 PPFE肺組織のマイクロアレイ解析

京都大学呼吸器内科
谷澤公伸先生

CT画像でPPFEと考えられても病理学的に診断できる基準である肺胞内線維化とエラスチン沈着中等症以上 をみたさないものがある。
iPPFEとIPFにおいてマイクロアレイ解析にて遺伝子発現を比較した。発現亢進、発現低下した遺伝子がそれぞれに複数認められ、異なる遺伝子の発現異常が関与している可能性がある。
一方でiPPFEとIPFともに肺移植の治療成績は同等である。

●MS14  肺がん術後の晩期合併症としての片側PPFE様について

神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科
関根朗雅先生 他

近年術後にPPFE様病変が認められることがわかっており、生命予後49.3ヶ月と予後不良である。
2008年から2016年に外科的肺生検を実施した全症例587人を対象に片側PPFE発生、および術後合併症の胸水も検討した。
3年でPPFE発生率2.3%、5年3.3%、10年5.3%である。
術後にPPFE様病変が発生するリスク因子は、 高齢、男性、肺切除、術前で術側のapicalCAPあり、低体重などがリスク因子として挙げられる。とくにapicalCAPありは3年後に10%、低肺機能は14%で発生した。
術後半年で胸水を認めると、その後も98%が慢性胸膜炎に移行する。
結核性胸膜炎やアスベスト肺でも同様のPPFE様病変を呈することが報告されている。
Q and A 
Q アスペルギルス感染症として治療するとよくなることを経験するがどうか
A 確かに合併していることがおおく、アスペルギルスを診断されるとそれ以後の経過はすべてアスペルギルスとして考えらている事が多いので、PPFEを見逃している可能性がある。
Q 上葉下葉などの差はあるか
A 術後胸水がたまりやすい大きな葉を切除する場合は発生しやすい
胸郭の可動性が関与しているかもしれない。痩せた人は肺が伸び切っているので切除後それ以上伸びないが、肥満の人は発生しにくい。

●MS15 PPFEにおける扁平胸郭は肺線維化病変とともに進行する

福岡大学筑紫病院呼吸器内科
池田貴登先生 他

上葉限局型PPFE29例について、扁平胸郭比FCIと線維化スコアFSを評価した。
経年的にFSは全例増加していたが、FCIついては低下傾向だが横ばいの症例もあった。
%FCIと%FSは逆相関した。
→PPFEにおいては線維化の進行速度と扁平化率の進行が関連している。
Q and A
Q あまりうまく呼吸ができないと線維化が進行してしまうということでしょうか
A そういう結果になっています。

●MS16 進行性フェノタイプを示す特発性PPFEの臨床的特徴

聖隷浜松病院呼吸器内科
河野雅人先生

進行性iPPFEと診断された症例の特徴を検討した。
診断24ヶ月に10%以上の%FVC低下を進行性と定義した。
進行性23例 非進行性25例の比較では、前者は経年的に増悪した。
進行性iPPFEでは有意に高齢でBMIが低値であった。HRCT所見で下葉にUIPパターンを認めた。経過観察期間は約50ヶ月であり、約3割は在宅酸素療法をしていた。
診断後2年以内の進行性群で有意に体重減少し早期死亡が多かった。
%FVCの低下率が高いほど予後不良、RV/TLC高値も予後不良。
臨床像は、診断時すでに進行した症例がおおかったことを示している。
iPPFE症例はコラーゲンの増加ではなく弾性繊維の増加が有意であると言われており今後の治療が待たれる。
Q and A
Q %FVCの低下は肺そのものの他に呼吸筋低下も関与すると考えられる。呼吸リハビリなどはしたか?
死亡半年前くらいから、肺病変の悪化はあまりないがどんどん呼吸不全が進行しやせていくので、呼吸筋も関与していると思われる。
A あくまで臨床診断しかしていない、呼吸リハビリは実施していない。
Q 予後のよい症例と悪い症例の差は?
A 網谷病の原著は10−20年で増悪していくとあるので、予後良好群は同じ疾患ではないかもしれない。

●MS17 PPFE患者の3年後の予後予測因子の検討

千葉大学附属病院呼吸器内科
北原慎介先生

診断から3年以内に死亡したPPFEとそれ以上のPPFEに分けて検討した。
3年以上の長期予後の死亡原因は慢性呼吸不全である。
脊柱起立筋横断面積(ESM-CSA)はCOPDの死亡率と関連することが報告されてる。
3年後の死亡と生存との間にESM-CSAは計学的有意差を認めた。
ESM-CSAが小さい症例はPPFE患者の3年後の死亡予測に有用な可能性がある。

◆ランチョンセミナー10 呼吸器科医が知っておきたい最新の話題

●LS10−1 続発性難治性気胸に対する治療戦略

聖マリアンナ医科大学呼吸器内科
木田博隆先生

難治性気胸では、手術、Talc、EWSが保険適応となった。
EWSは責任気管支の同定とEWSを扱う技術の2つが両輪で必須である。
IPの気胸はEWS2個程度、COPDでは4−7個、CPFEは10個以上必要。
pneumothorax volume およびRDSによるエアリークスコアで評価した。
演者らの報告ではEWSのドレーン抜去率は85%であった。
EWS単独でのエアリーク停止は40−50%程度との報告もあり、胸膜癒着術の追加が治療戦略として望ましい。
エアリークが多い場合、EWSでまずリークをとめて肺を拡張させ、不十分なら胸膜癒着術talcを追加。talcでcollateral Ventilationの影響をのぞく。
Q and A 
Q EWSの留置期間について。長期は閉塞性無気肺を生じませんか。
A 演者らの施設では大概高齢で肺機能が悪い症例があるので、抜去していない。若い人であれば抜去も考慮。
Q Talcは複数回使用してよいのか
A 間質性肺炎が原疾患でなければ、治験でも2回は実施しているし、複数回は問題ないと考える。

●LS10-2 呼吸器疾患における亜鉛の意義〜COVID-19を含めて〜

日本赤十字社医療センター呼吸器内科
出雲雄大先生

そもそもなぜ亜鉛の話なのか。
COVID-19罹患時の亜鉛値 Zn正常80−130μg/dL
COVID-19 およそ200人の中央値59μg/dL
重症になるほど亜鉛値は低下していくことが判明している。
・肺腺癌にオシメルチニブ投与後2−3ヶ月で味覚障害発生 →亜鉛補充で改善
もし放置すると→食事摂取量減少→PS低下→死亡とつながる
・亜鉛は300種類以上の酵素に不可欠であり、恒常性維持に重要である。
亜鉛不足をきたす要因
 摂取不足 ・・・・等々
・亜鉛欠乏をきたす疾患
肝疾患
ネフローゼ症候群 腎不全
褥瘡
慢性炎症性腸疾患
肺癌患者は明らかに亜鉛濃度は低い
急性ウイルス感染症で亜鉛が低下することも示されている。
・亜鉛は年齢とともに摂取不足になりやすい
十二指腸・空腸から吸収されて肝臓へ
・亜鉛は微量元素
・亜鉛欠乏症の診断基準 日本臨床栄養学会誌2018を参照
・亜鉛製剤
ノベルジン、硫酸亜鉛等。
・ノベルジン®
酢酸亜鉛水和物:効能は低亜鉛血症とウィルソン病。
1回50mgを1日3回。体重30kg以上の成人。
1回100mg1日1回の人も多い。
副作用 リパーゼ、アミラーゼ増加、血清鉄減少、消化器症状

・Long COVIDとは
発症から通常3ヶ月の時点で2ヶ月以上持続する症状で他の診断ができないもの。
COVID-19 罹患後症状のマネージメント の冊子が出版されている。
Long COVIDのメカニズムは、全身の様々な臓器に発現しているAC2受容体を介してCOVID-19が感染することで生じるとされている。
燃えるような喉の痛みと熱で、翌日おさまったという症状が多い。
・COVID-19の後遺症;治療は
呼吸機能や胸部画像検査に異常がある →ステロイド治療0.5mg/kg/day・・・器質化肺炎に準じて投与する。
またはニンテダニブ
異常なし→ 清肺排毒湯
Q and A
Q 亜鉛が重要なのは理解しているが、VitDも日本人には不足している。検討しているか。
A 演者らはしていないが、測定意義はあると考えられる。
Q 抗がん剤投与の患者の低亜鉛は理解できるが、COVID-19患者の亜鉛低下はなぜか?
A ウイルス感染により吸収障害が生じるのが原因である。
まずは食事で摂取、特に肉製品を摂取するのが重要である。燃えるような咽頭炎で食べれない患者は補充療法を検討する。

◆コーヒーブレイクセミナー4
閉塞性肺疾患における呼吸機能管理の重要性

●CB4-1 気管支喘息診療の目標設定

北海道大学呼吸器内科
今野哲先生

演者の務める人間ドックではCOVID-19を契機に肺機能はなくなった。
アレルギー性鼻炎は鼻水ダラダラを放置すると将来どうなるのか→リモデリングはおきないとのこと
喘息は現在の症状も対処が必要かつ将来もリモデリングが起きる
肺がんはICIが登場してTail plateauを考える必要がでてきた。

・演者らの研究
増悪の定義 3日以上全身性ステロイドの使用、or 喘息による入院
3年間コホート研究した。
IgEとペリオスチンは増悪マーカーにはならない。
増悪頻度を3群に分けて検討すると、呼吸機能と増悪頻度は関連しない!
・難治性喘息患者の6年間のコホート研究(HiCARAT)
入院後2日目の肺機能は非常によいので、1年後以後の肺機能は外来で実施したので2年目から5年後を検討した。
重症喘息の増悪頻度が少ない、中程度、増悪頻度が多い、のいずれも肺機能は同程度に低下した!
→ 症状、増悪、呼吸機能、の3つが重ならないということが重要。つまり普段は元気でも増悪が起きることがあるし、対処すべきである。
症状なし、増悪なしとしても、肺機能検査をすると低下する人がいる。低下するなら何かしらの治療追加が必要である。
Q and A
Q 重症喘息HiCARAT研究では、増悪群と非増悪群では肺機能低下に差がなかった。もしかして経口ステロイドが入っているからではないか?
A 超重症喘息だから経口ステロイドが入っている群では差がない、という結果である。N数が少ないので、経口ステロイドの患者を除外すると解析そのものができない可能性がある。が、その観点で検討はしてみる。
Q 喘息患者は年間に何回肺機能フォロー頻度はどれくらいが必要か
A COVID-19で肺機能はやりづらいが、とくに気管支拡張後の肺機能がほしい。少なくとも重症喘息では年1回、特にコントロール不良では年2回実施している。

●CB4-2 重症喘息と末梢気道病変〜生物学的製剤の可能性を含めて〜

静岡県立総合病院呼吸器内科
白井敏博先生

・デュピルマブの長期治療と安全性
Pavord IDら JACI2022 をもとに説明された。
・ERJ2020のガイドラインより
デュピルマブは増悪を46−70%減少。末梢血好酸球数150以上、または呼気NO25以上で効果が大きかった。
・EAACIガイドラインでは
呼吸機能改善が強いエビデンスとして推奨された。ただし末梢血好酸球数300/μL以上、呼気NO50ppb以上が条件の患者。
QUEST試験では、プラセボが−40ML1秒量低下、デュピルマブは±0だった。
・TRAVERSE試験では、96週目に安全性と肺機能を確認したが、安全性は良好(最長148週まで観察)、年間増悪率は試験前2回/年→0.23/年に低下
1秒量はは0.35L増加後経年低下がない!
血中好酸球は24週でピークとなりその後低下する。
経口ステロイドも減量され96週までその効果は持続した。
デュピルマブはIL-13を抑制するので分泌物を抑制しリモデリングも改善する。
→経年低下を抑制する可能性がある。
・デュピルマブに切り替えた重症喘息の報告 (Mummler CらJACI2021)
ACT、一秒量、MEF25−75、RVを有意に改善した。
FVCは末梢気道も加味した指標である。
・ATLANTIS試験 Postma DSら、LANCET Respir Med 2019
9カ国29施設 喘息患者773例健常者99例
重症化するに従って、IOSの指標が増悪している。→重症喘息は末梢気道異常があるとした。
そこではR5-R20(周波数依存性)を用いて議論されていたが、演者らによるとR5-R20は必ずしも末梢気道の異常だけを示すものではない。
ATLANTIS試験ではX5,AX、R5-R20の%予測値を1年間のフォローアップ した報告をしている。
・演者らの報告では、FVCとFresは喘息、ACO、粘液栓の指標であることを報告した。
Q and A
Q V50やV25など測定間のばらつきがあるのが、普及しにくいのではないか。
A ATLANTIS試験ではメサコリンによるを使用している。
他の論文でもFVCで末梢気道病変を表すものとされている。MMFも実際に臨床でつかっている。
Q デュピルマブを他剤と比較して、どのような症例に使用すべきか
A 現時点では、ガイドラインを基準として使用している。今後リアルワールドデータが集積されたら、解析してほしいと思っている。
Q 呼吸機能低下した患者にはデュピルマブは使いやすいか。
A 重症喘息の増悪回数などは1年見ないとわからないのであるが、呼吸機能の改善は重要な要素である。

◆シンポジウム5 COPD:疾患多様性を踏まえた診療アプローチ

●S5-1 COPD病態の多様性

北海道大学呼吸器内科
鈴木 雅先生

COPDの多様性
1秒量低下、気腫性病変、喘息・気道炎症、増悪、肺合併症・併存症
なぜ多様性が重要なのか→ 臨床経過や予後が異なる→治療戦略が変わる可能性があるからである。
・気腫性病変と呼吸機能の関係
CTの肺気腫の程度と呼吸機能で分類したGOLDのStage 分類は相関しないことが報告されている。
一方で演者らの報告(北海道COPDコホート)では、1秒量の経年変化は正規分布(slow declinersが最も多く、Rapid declinersとSustainersは少ない)を示しており、他の報告でも同様であった。
肺気腫スコアが高く、肺拡散能が低い群がRapid declinersに属する。
1秒量の10年におよぶ経年変化が観察できた症例では、Rapid declinersの低下量は6年以降鈍り、Slow declinersと同程度となった。時期によって減少率が違う可能性がある。
前半5年と後半5年に分けて検討すると、1秒量の変化量は様々であり一定していなかった。
Rapid declinersの時期にしっかりと治療することが重要である。

・気腫性病変は肺がん発症の明らかなリスクである。
気腫性病変の程度が強いほど生命予後は不良である。北海道COPDコホートの結果では、CT肺気腫スコア<1の10年生存率は70%以上であるが、<2は約60%、<3は50%、3以上は35%であった。
・末梢血好酸球増多とICS反応性について
末梢血好酸球2%以上ではICS反応性がよく予後がよい。
末梢血好酸球数が高いほど急性増悪の頻度が高いが、ICS/LABAの投与により増悪頻度は抑制された。
COPD単独とACOを比較すると、ACOのほうが急性増悪率が高い。COPD Gene studyによると、COPDは年間18%が急性増悪するが、ACOは42.7%増悪をおこし、重症の急性増悪は32.8%に及ぶ。
FeNOが高値ほどICSの治療効果は高い。
FeNOは症状および気流制限の観点から、症候性COPD患者のうちステロイド療法に反応する個人を特定するために有用である。
・COPD患者における肺炎
慢性気道感染と血中好酸球100/μLを満たす患者ではICSが肺炎リスクを増加させた(HR 2.925)。(AJRCCM 2021)

レドックスに着目した新規の抗炎症治療の開発

●S5-3 増悪病態の多様性をふまえた診療アプローチ

秋田大学呼吸器内科
中山勝敏先生

COPD呼吸器増悪には種々の要因がある。
 気道や肺炎症、呼吸器併存症の増悪(肺炎、気管支喘息、気管支拡張症、気胸、等)、非呼吸器併存症の増悪(肺高血圧症、心不全、虚血性心疾患、不整脈、肺血栓塞栓症、貧血等)
もともとCOPDは気流閉塞や過膨張があるが、増悪時はこれらの所見が増悪する。
増悪後は肺機能および呼吸困難は2週間程度で悪化の8割程度回復するが完全回復には数週間を要する。

増悪頻度が年3回以上の場合生命予後は3-5倍不良となる。医療コストも増大する。

増悪時の治療要求性に対する多様性
・ステロイド全身治療を要する増悪
INSPIRE試験はフルチカゾン/サルメテロール合剤吸入(FP/SAL)とチオトロピウム吸入(TIO)の2群を年間の増悪回数で比較した試験であるが、コントロール群(年間増悪回数1.3回)に比較してFP/SAL群は年間の増悪回数を0.7回、TIO群は0.8回に減少させた。抗生剤の必要な増悪はFP/SALは1回/年、TIO0.8回/年に減少させた。
SUMMIT試験でも、ICSを含む治療で全身性ステロイド投与を要する増悪を有意に減少させた。
・好酸球高値性COPD(ACO)と好酸球正常COPDの比較では、1年間に入院した割合は好酸球高値性で約3割、好酸球正常で約2割だった。一方生命予後はBODEコホートにおいて2年間で好酸球高値性3割死亡、好酸球正常で5割以上死亡であり、他の報告でもACOの予後が良好だった。つまり好酸球性炎症をもつCOPDは増悪リスクは高いが生命予後はよい。
Hokkaido COPDコホートでは、喘息様所見をもつCOPDのコントロールは比較的良好で、増悪free率は4年間で60%であり、生命予後が良好であり、海外の報告とは若干異なる(SuzukiらAJRCCM2016)。

・安定期および増悪期のCOPDにおける気道細菌叢と炎症エンドタイプの関連
複数コホートから得られたCOPD510人の安定期/増悪期の喀痰1706検体を採取し、喀痰中の炎症細胞、およびマイクロバイオーム分析により判明した細菌叢、および喀痰中メディエーターを分析した。喀痰中の炎症細胞により好中球優位型、好酸球優位型、MIX型、Pauci型に分類された。好中球性炎症が優位かつ細菌としてヘモフィルスが優位な群はIL-16やTNFαが有意に増加しており、増悪によるTypeの変化(細菌叢の変化)は少ない。好酸球型はEotaxin3,IL-5が優位で増悪による細菌叢の変化は中等度。好酸球型と好中球型の相互の異動は見られなかった。つまり好中球性増悪と好酸球性増悪は相互独立性が高い(Wang Z AJRCCM 2021)。換言すると好中球性炎症優位な急性増悪を起こす群は次も好中球性を起こす可能性が高い。

増悪の頻度に関する多様性
・COPD増悪に関与する因子
COPD病期が進行するほど増悪頻度は増加する。
COPD増悪に関与する因子は、増悪の既往、FEV1低下、SGRQ不良(健康関連QOL不良)、GERDの既往、白血球数(全身性炎症)、などがある。女性では喘息の既往が高いリスクとなる。
慢性咳嗽/喀痰がある群はない群にくらべて、増悪頻度が有意に高い。
・治療による増悪抑制効果について
IMPACT試験後解析(ERJ2020)によると、前年増悪回数が複数の中等度あるいは重度の場合はLABA+LAMAよりもICSを含むTriple therapyのほうが増悪抑制効果が高い。すなわちICS反応性がある。
ICS反応性は血中好酸球数高値で強く、血中好酸球数<100/μLの場合はTriple therapyの増悪抑制効果は弱い。

GERD 咳嗽の機序として, 逆流を受けた下部食道からの迷走神経反射と,咽喉頭や下気道へ 到達した逆流物による直接刺激 、またカプサイシン咳感受性亢進などが関与しているとされる。

●S5-4 治療すべき合併症とEBMの陥穽

東京医科大学八王子医療センター呼吸器内科
寺本信嗣先生

COPDの全身併存症
・全身性炎症、フレイル、サルコペニア、栄養障害、骨格筋機能障害、心・血管疾患、胃食道逆流症、骨粗鬆症、不安・抑うつ、糖尿病、貧血など。
併存症は急性増悪の頻度、生活の質の低下、予後に影響を及ぼすので、治療をして当たり前である。
NICEのガイドラインよると、COPDと診断したら、禁煙、PPSV23,インフルエンザワクチン、呼吸リハビリテーション、セルフマネージメントプラン、併存症の適切な治療、はまず取り組むべき基本である。

基本的ケアをした上で、吸入療法を検討する。喘息がなければLABA+LAMA、喘息の特徴があればLABA+ICSを考慮してもよい。
LABA+ICSを投与しても症状残存のときにTriple therapyである。
・COPDは禁煙しても炎症は続く(Fabbri LMらERJ2008)
持続する炎症は、筋疲労・筋力低下、メタボや2型糖尿病、骨粗鬆症、心血管イベント増加、CRP上昇などを引き起こす。TNF、IL-6、CRPが増加しているとされる。
しかしCOPDはこれらに対する抗体治療は確率していない。

ならば、日本人COPDに即した対策が必要である。
→ 高齢COPDに患者の早期発見、早期治療によるフレイル治療による抗炎症療法
フレイルサイクルという考え方があるが、低栄養→筋肉・筋力低下→基礎代謝の低下→エネルギー消費の低下→食欲低下・摂取量低下→低栄養、である。COPDはまさにこのフレイルサイクルを回している。
呼吸困難とそれに起因する活動性低下を治療介入することでその後のフレイルサイクルを予防できる。すなわちCOPD早期発見早期治療がインスリン抵抗性改善、抗炎症の増強、筋力、骨塩量改善を促しフレイル予防となる。

・COPDは生活習慣病のリスクである。
COPD自体が喫煙という社会習慣による社会的生活習慣病であるが、同時に心臓病・心不全・糖尿病・貧血のリスクであり、実際に併存している。
COPD≒心臓病である。
高血圧、CKD、糖尿病、心房細動、心不全などの疾病併存が多いほどCOPDの可能性が高い。(AJRCCM2012)
生活習慣病患者はCOPDの可能性が高いことを啓蒙し、他科の医師にも日常的に治療してもらうことが必須である。
COPD患者で気流閉塞が大きいほど虚血性心電図異常の頻度が多くなり、さらにCRPが高いと虚血性変化が増加する(Circulation2003)。
COPDの気流制限が増加するほどFMD(Flow-mediated vasodilation)血管内皮機能は低下する。軽症COPDの段階でもFMDは約50%低下しているという。同様に動脈硬化の指標であるPWVは加齢とともに速くなるが、COPD患者では更に速くなっている(=動脈硬化が進んでいる)。
アテローム性血栓症の危険因子は加齢を除くとメタボリックシンドローム(肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症)であるが、COPDは痩せていくけど危険因子である。
COPD≒血管病である。
COPDを合併している心房細動や急性心筋梗塞はいずれも予後不良である。
COPD合併なしAfと合併ありAfの20ヶ月後の生存率は96%VS90%、COPD合併なし心筋梗塞と合併ありの7年後の生存率は50%VS35%である。
・COPDの治療
スタチン、ACE-I、ARBの併用は、COPDの入院、心筋梗塞発症、心筋梗塞の死亡の予後を改善する可能性が示された報告がある(JACC 2006)。
COPDの全身併存症は多岐に渡るので他科との病診連携が重要である。
胃食道逆流症 消化器内科
骨粗鬆症 整形外科
不安抑うつ 神経内科、精神科
貧血 血液内科、腎臓内科

治療すべき合併症とEBMの陥穽とはなにかについて後半はご講演された。
論文を批判的に読み、医学的に正しい判断をするべきである。
(詳細は省略します。)

◆特別プログラム COVID-19診療における現場の疑問点を考える

●SARS-CoV-2ワクチンの現状と考え方

山本和子先生

2022年1-2月にワクチン3回目接種した2000人は発症予防効果68.7%であった。一方2回接種では42.8%であった。
その後オミクロン発症予防効果はブースター接種後5ヶ月で20-50%の発症予防効果である。
BA.2株の3回目接種後の発症予防効果は15週時点で40-50%である。
入院に対する予防効果は4ヶ月後でも高齢者で80%以上を保つ。
死亡する患者の多くはワクチン未接種者である。3回目ワクチン接種者は未接種者に比較して21倍の死亡抑制効果がある。

ワクチン3回目接種した群では2回接種群と比較して、感染性をもつウイルス量が有意に低いことが示されている。
家族内感染を抑制する。片親がワクチン接種すると家庭内感染は26%減少し、両親がワクチン接種すると71%減少する。
COVID-19既感染者に対するワクチン接種効果は、再感染を64歳以下で82%減、65歳以上で60%減少させる。
ワクチン2回接種群は未接種群と比較して、28日以上つづく後遺症が有意に減少した。Long COVIDに有効である。
・重篤な有害事象はどれくらいあるのか
副反応疑い報告は0.0165%以下であり、重篤報告は0.004%以下、さらに死亡報告は0.0009%以下である。
死因は虚血性心疾患、心不全、出血性脳卒中、心筋炎が主である。
心筋炎の頻度は100万回で2-3件、3回目は100万回で0.5-0.6件と非常に少ない。(モデルナは2回目が12.5件/100万回だが、3回目は0.6件/100万回である)

コメント 大阪公立大学臨床感染制御学 掛屋弘先生

自然感染やワクチン誘導免疫ではどの部分に抗体ができるのか?
抗原決定基解析では、自然免疫で作られる抗体よりもワクチン接種で作られる抗体の種類が遥かに多い。

●検査をどのように使用して日常診療を維持するか

長崎大学病院検査部
太田賢治先生

PCR検査は感度が高い検査がゆえに、感染性がないにも関わらず陽性となってしまうことがある。
PCR検査の結果から感染性を推定するにはCt値が重要である。Ct値>30であれば感染性を有するウイルス検出はされなかった。
抗原定性検査は有症状者で72%、無症状者では58.1%の陽性率である。症状出現から1週間以内では78.3%の陽性率、1-2週間以内で51%である。ウイルス量はCt値25以下なら94.5%、25を超えるときは40%の陽性率である。
抗原定性検査は分離培養検査との相関性が高い。

今後唾液による抗原検査キットが登場するが、きちんと薬理承認されたキットを使用してほしい。

●第7波にどのように対応するか

名古屋大学呼吸器内科
進藤有一郎先生

第6波は第5波よりも死亡率は低いが、感染者数が多いため累計死亡数は第6波のほうが多い。
重点・協力医療機関以外における(高齢者等のCOVID-19 患者受け入れ体制の整備。
重点・協力医療機関以外の医療施設でのクラスター発生時は、その施設内で対応できるようにする。
専門家チーム(医師+ICN)の派遣による応援体制の整備。
高齢者施設における往診等による医療体制の整備。
抗ウイルス療法を発症早期に行う。
重症化リスクを理解する。
重症化リスク因子が複数ある場合は特に積極的に抗ウイルス薬を投与する。
医療機関、医師会、保健所、対応薬局間のコミュニケーションをよくとることが重要である。

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