第62回日本呼吸器学会学術講演会 聴講録その3

2022年4月22日-24日に京都国際会議場において
第62回日本呼吸器学会学術講演会が開催されました。
私は学会発表をおこなったのは先にお知らせしたとおりです。
さらに最新の知見を学んでまいりました。
その後WEBにて繰り返し講演を聴講しましたので、報告します。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

◆JP2 共同企画2 呼吸器診療における核医学の可能性

●プレナリーセッション
急性膿胸における歯性疾患(重症歯周炎)との関連の検討

近森病院呼吸器内科
馬場咲歩先生

膿胸の発症にはう歯や歯周病などの口腔内不衛生の関与が示唆されているが、膿胸と歯性疾患の関連に関する国内でのまとまった報告は少ない。
目的: それらの関連を明らかにする
方法: 急性膿胸症例を重症歯周炎合併群(A群)、非合併群(B群)に分けて、臨床的・微生物学的な背景因子を後方視的に解析した。
菌の同定はVITEK IIまたは質量分析で行い、Socransky分類で解析した。
重症歯周炎とは歯間部の最も大きなクリニカルアタッチメントロス(CAL)が5mm以上、X線による骨吸収が歯根長の1/3以上、歯周炎により歯の喪失ありである。
Socransky分類は歯周プラークを菌種の病原性の高さに応じて6つに大別した分類法である。上位2グループの菌種は強い病原性を持つ。
RAPID score は、胸腔内感染症の3ヶ月後死亡リスクを予測する評価方法である。R腎性;BUN、A年齢、P :胸水の膿性か否か、I :市中感染症か院内感染症か、D : 食事栄養 ALB値
により点数化する。
結果: 急性膿胸診断例 43例中重症歯周炎合併例は20例、47%であった。A群とB群で患者特性に有意差なし。
 検出菌について、A群20例中5例にS.anginosus gorup(病原性が強い)、嫌気性菌2例、その他5例、複数菌感染2例を認めた。同様にB群23例中、8例、3例、5例、3例であった。
Socransky分類によると、A群でRED(最強病原性)1例P.gingivalis、Orenge3例C.rectus,S.Constellatus,Fucobacteriumnucleatum、B群Orenge4例であった。
まとめと考察: 重症歯周炎の有無に関わらず、起炎菌は口腔内常在菌・嫌気性菌が膿胸原因の56%を占めた。
重症歯周病合併の有無や歯周病菌の病原性と疾患の重症度や予後に差異はなく、重症度や予後には他の要因が寄与すると考えられた。
膿胸発症予防に日頃からの口腔内衛生環境の管理、歯周病治療が重要である。

◆JP2 共同企画2 呼吸器診療における核医学の可能性

●JP2-1 核医学の被ばくに関する正しい知識

京都医療科学大学医療科学部
大野和子先生

放射線に関する復習
・Sv Bq Gy
Svシーベルト
 放射線防護の指標値の単位である。
 私達がどれくらい被爆したかという指標であるが、実際に被爆した値に少なからずestimation(仮定や推定)が含まれる。例えば発がんリスクを検討するときにも使用する。
 法令など規制値の単位である。
Gyグレイ
 人などに照射された放射線量の単位
Bqベクレル
 放射能の単位
・発がんリスクの高低  A→Dにいくほど影響が小さい
A. 乳腺、肺、骨髄、大腸、胃
B. 生殖腺
C.  甲状腺、膀胱、食道、肝臓
D. 皮膚、骨表面、脳、唾液腺
・放射線被ばくと発がん
原爆被爆者の被ばく線量とがん死の危険性の関係が現在でも基準となっている。
大量の放射線を浴びた被爆者からは、がんにかかる人々が増加した。少しの放射線しか浴びなかった被爆者からは、がんにかかる人は増加しなかった。= 100mSv以下 放射線検査ではこの範囲の量を使用する。
・しきい線量
ある生体反応を起こす放射線量の最小量
被ばくした集団の1%に影響が現れる線量を放射線防護上の「しきい値」と定義する。
しきい値のある放射性物質では、線量に応じて影響の重篤度が増す。

患者の放射線安全
・診療用放射線の院内安全管理の対象には単純X線撮影から放射線治療までのすべてを含む
放射線診療前の患者説明として依頼医も必要性を説明する。依頼先で実施時に再度説明が必要。
(インフォームド・コンセントではない)
・医療被ばくの基本的な考え方
医療上の情報を得るために放射線を用いる。人を被爆させる決定権は医師のみの権限である。
患者の治療方針の決定、健康回復に寄与する目的で実施する。
・核医学診療の特殊性
当たり前であるが、放射性医薬品は造影剤ではない。内部被ばくする。
投与する放射線医薬品は半日以内にほぼ排泄される。

●JP2-2 胸部腫瘍におけるPET検査の臨床応用
-肺の恒常性破綻と疾患病態-

京都大学放射線医学講座
中本裕士先生

最近のPET検査では5mm未満の微小病変も検出可能となっている。更に同期をかけることでぶれない画像を作成できる。
PET画像の再構成におけるTime – of – flightの原理を利用して、検出器に入ってくる放射線の僅かな時間差を利用して部位を特定できるようになってきたからである。

これまでの治験のreview
・PET-CT検査の診断精度
肺がんのリンパ節転移の感度は、縦隔、胸腔内、遠隔転移の全てにおいて70-80%あり、特異度は90%を超え、ROC解析によるAUCは85%以上の報告が多い(Int J Cancer 2013)。
日本の他施設共同研究によると、PET-CT検査結果は肺がんの治療方針の7割に影響を与えた。
肺がんの原発巣のSUVは高値ほど予後は不良である。すなわち糖代謝の亢進と悪性度には関連があると考えてよいであろう。

・治療判定への応用として、治療前のSUVと治療後のSUVを比較した報告では治療後のSUVが低下して例では予後が良好な傾向である。
・ニボルマブの治療効果判定についての報告では、CTを用いた腫瘍サイズによる予後の推定はできなかったが、PETのSUV、MTV、TLGといった定量化指標の変化で層別化すると予後を予測することが可能であった。集積が高くなるものほど予後が不良(Eur J Nucl Med Mol Imaging 2018)。
・治療効果判定について Restaging Criteria-Hopkins Criteria (J Nucl Med 2016)
18F-FDGの集積が血液プールより低い、血液プールより高く肝臓より低い、→ Negativeと判定
肝臓より高いfocalな集積、Focal で強い集積 → Positive
Positive 群はNegative群よりも予後が不良である。
・腸管にFDGが生理的集積をする機序はまだ不明であるが、
免疫チェックポイント阻害薬を投与した症例において、治療前の腸管への生理的集積が高い症例は予後が不良という報告がある。

画像の解釈や解析上の留意点
・FDGは活動性の炎症にも集積するので、常に腫瘍と炎症の鑑別が問題となる。
演者は例として胃がんの多発骨転移、悪性リンパ腫、播種性非結核性抗酸菌症の症例を提示されたが、いずれもそっくりな画像であり鑑別は困難であった。

胸腺癌術後の肝臓にFocalな集積を認めた例では、バイオプシーにて限局性の脂肪肝であった。Sappey’s vein 還流域に限局性脂肪肝を認めやすいことは有名であるが、転移病変との鑑別は困難である。
・サルコイド反応は悪性との鑑別困難である
症例:肺がんとリンパ節転移のある症例にinduction therapyを実施後にPET再検すると多数のリンパ節に集積が認められた。術後の病理検査から原発巣のがんは腫瘍残存するが、その他の集積部位はサルコイド反応であった。
サルコイド反応群の特徴は、若年、1cm以上のリンパ節腫大の数が多い、リンパ節腫大の総容積は小さい、SUVmax:2.5-23.3(中央値7.5)、という傾向にあったが決め手に欠ける。
※サルコイド様反応とはある種の疾患に対し,その主な罹患臓器の局所リンパ節に,サルコイドーシスと同様の非乾酪性の 類上皮細胞肉芽腫形成をきたす組織学的所見のことをいう(筆者追記)。

・縦隔腫瘍で、胸腺過形成+骨格筋への集積が認められる場合は、甲状腺機能亢進症も考慮すべきである。

・PETの全身像により、その集積パターンをみて疾患を疑うことができる
例1:顎下腺、両側肺門リンパ節、脾臓、腎臓皮質部分、前立腺などに集積が目立つ → IgG4関連疾患
例2:リンパ節腫脹と不明熱、腹膜への集積 → 結核性腹膜炎
例3:関節炎、血管への集積(血管炎)→ リウマチ性多発筋痛症PMR
マクロの視点で有効な生検部位の提案、病変分布や特徴的所見から突破口が開かれることもある。
例4:心房中隔に一致してFocalな集積 → LHAS(Lipomatous hypertrophy of atrial septum:心房中隔脂肪性肥大)

・CTの肺野条件で対応する病変がない場合
呼吸性変動による位置ずれした肝転移
血栓にFDGが高濃度に付着したあと肺野で捕捉された場合

・FDGがあまり強く集積しない腫瘍
胸腺カルチノイドはサイズの割にあまり集積しない。欧米ではソマトスタチン受容体発現をみるため68Ga-DOTATOCを用いて集積をみており(日本ではまだ臨床試験)、大きな腫瘍の局所に強く集積する。→生検でここを採取すれば診断精度が上昇するであろう。
すなわち腫瘍内不均一性や腫瘍間不均一性のある病変を評価したい場合にも有用である。

・PETにおける一般的な定量指標
SUV;Standardized Uptake Value
 SUVmax: 病変における1ピクセルあたりの最大SUV
 SUVlbm(SUL) : 体重の代わりに除脂肪体重で補正したSUV・・・肥満者の多いアメリカでよく用いられる
Volume – based PET parameters
 MTV(metabolic tumor volume): 設定した関心領域の閾値以上の容積
 TLG(Total lesion glycolysis): MTVないのSUVの総和
定量値の再現性は概ね良好で、血糖値により10%程度は差がでる。
体重、投与時刻、投与量により集積量も変わってくるのでチェックすること。

●JR2-3 PET/MRIの呼吸器診療への応用

藤田医科大学放射線医学教室
大野良治先生

MRIは基本的にプロトン濃度Proton Densityの多いか少ないかを見ている。
MRI画像のSignal Intensity(SI)は多数の生体情報で決定される。
すなわち、血流/flow、Proton density(H1の濃度)、体温、T1緩和時間、T2緩和時間、プロトンの拡散(Diffusion)。
MRIの画像は同時に多数の情報が得られるので、必要な情報を選択して利用することができる。
拡散強調像で白く光やすい結節は悪性の可能性がたかい。
胸壁浸潤の診断は造影CTよりもMRI(脂肪抑制撮像法STIR)のほうがわかりやすい。
STIR(脂肪抑制画像)拡散強調画像、PET/CT。N因子の診断は拡散強調画像とPETはほぼ互角である。
ただし拡散強調画像のときは呼吸同期ができないので、STIRのほうが小病変が見つけやすい。
現状ではN因子の診断はMRIのほうがよい。
最近は全身のMRIも可能となっている。拡散強調画像は検出は得意だが診断能は低い。
PET/CTとMRIの同時実施により診断能を向上させることができるが、保険的には一方の費用しか算定できない。
PET/CTで診断しにくい胸壁浸潤やfalse netativeとなりやすいリンパ節浸潤をMRIが検出する。
RIは1.5テスラでも3テスラでも診断能は変わらない。
・Ultrashort TE MRIは結節影の検出はCTと同等である。
限局性すりガラスの検出も可能となった。

●JP2-4 呼吸器診療を含めたTheranosticsの現状と将来展望

量子科学技術研究開発機構QST
東達也先生

がんの治療は原発巣を基にした治療から今後は遺伝子・ゲノムを基にした治療に変わっていくであろう。
しかしながら分子標的治療や免疫チェックポイント治療は、効果の予測や副作用の発生予測が難しいという欠点がある。→効果と副作用を予測しつつ治療したい。
そこで注目されるのが、Theranosticsの概念である。
核医学診断(diagnosis)とTRT/核医学治療(Therapy)の融合:副作用の少ないQOLの高い「次世代がん治療」の実現。
核医学は診断と治療が同時にできるという利点がある。
・がんの分子イメージングとは

  1. 特定の分子を狙ってがんを見つける:分子標的
  2. その分子をターゲットにしてがんに薬をとどける:薬剤送達・ドラッグデリバリー
  3. 薬に標識したRIでがんを検出する:分子イメージング

・標的アイソトープ治療TRTとは
がんの分子イメージングと全く原理は同じで、がんを殺滅する効果のあるRIで標識する。
以前はβ核種しかなく特に呼吸器系がんにはあまり効果はなかったが、最近α核種が登場し俄然注目をあびるようになった。
分子標的薬との違いは、分子標的薬は説明不能な副作用が起きうるが、TRTは薬剤送達に分子標的薬を使用するが非常に微量の投与しか行わず、治療効果はあくまで放射線効果を用いるのであり、安全に分子標的の治療ができる。

・64CU-ATSM が国産放射性治療薬として国内初の治験、かつ日本で初めてのGMP準拠製造であり、現在PhaseIIが開始されている。
・新たなTRT治療薬 
ルテチウムオキソドトレオチド (177Lu)を用いた前立腺がんの治療が最近米国で承認された。非常に臨床効果が高く注目されているが、たとえ導入されても現状では5日間も入院して治療が必要とされており、問題である。
・次世代TRTとしてα線核種を用いたTRTが登場している
α線はHe原子核そのものであり、通常の外照射(β線)の7200倍重く、飛程が短い。
がん細胞のDNAを強力に切断(DNA二本鎖切断)し、修復されにくい。
α線の飛程はがん細胞数個分であり、周囲の正常臓器への放射線障害が最小限である。
炭素イオン12Cを用いた重粒子線治療と類似する効果と考えられる。
α線は放射線防護が容易であり、入院は不要である。
初のαTRT薬は塩化ラジウム-223(Xofigo®)である。対象は骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんのみ。

・α核種 アスタチン-211(211At) は演者らが開発中の核種である。
・α核種 アクチニウム-225(225Ac)は末期の転移性前立腺がんが完全CR(腫瘍マーカーPSA陰性)となった。現在南アと豪州でPhase Iが進行中である。
アクチニウム225は製造が非常に難しいが、演者らは最近大量生産可能としている。

・ポドプラニン(Podoplanin:PDPN)
腎臓の上皮細胞であるpodocyteから発見されたのでポドプラニンと命名された。結腸直腸癌、脳腫瘍、悪性中皮腫、肺がん、食道がんなど多数のがんに発現することが判明。東北大学加藤幸成先生は、腫瘍に発現しているPDPNは認識するが、正常組織のそれは認識しない抗体(NZ-1、NZ-8、NZ-12)を開発した。その後がんに親和性の高いNZ-16の開発に成功された。
演者らは225Ac-抗NZ-16抗体を開発し、イメージングと治療を同時に行えるTheranosticsを研究されている。
ペメトレキセド+シスプラチン併用化学療法不応の悪性中皮腫患者を対象に治験中。

・演者らはトレーラーハウス型移動式RI治療設備プロジェクトを推進している
・これからのがん診療の将来展望は「切らずに治すがん治療」である。

Q and A
Q 分子標的薬は繰り返し投与できるのがメリットである。TRTはどうか。
A TRTは薬物送達ががんに特異的であれば、何度も投与は可能である。
ただし金額的な問題はある。
Q 脳腫瘍に対する重粒子線を実施しているが、費用対効果が問題と考えている。TRTはどうか。
A TRTは特にα線については安全性が高く外来で実施できる。
患者数の多い前立腺がんについては導入が進むであろう。

コメントは停止中です。