Kyorin Cough Seminar in 福山
という講演会で座長をいたしました。
慢性咳嗽に関する診断と治療について学びました。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
Kyorin Cough Seminar in 福山
長引く咳への基本的アプローチと診療の実際
谷口 暁彦先生
咳とは、気道分泌物や異物を生体外へ強制的に排除し気道を浄化するために営まれる生体防御反射である。
→元来強制的に止めにくい。止めてはいけない咳もある。
咳には3種類あり、
1.随意的咳嗽・・・心因性咳嗽、2.反射的咳嗽、3.喉のイガイガ感→ 咳衝動 urge to cough
今回主に扱うのは3週間以上つづく遷延性咳嗽と、8週間以上つづく慢性咳嗽である。
今回のソースは咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019である。
3週間以内は感染性咳嗽と考える。
診断にはXP、喀痰検査、各種の抗原・抗体検査などを考慮する。
現在はインフルエンザウイルス抗原とCOVID-19抗原検査を実施している。
百日咳についてはLAMPとPCRが確定診断には用いることは可能だが、演者はPT-IgG抗体を利用することが多い。
遷延性咳嗽と慢性咳嗽
1.乾性咳嗽
感染後咳嗽、咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症
2.湿性咳嗽
慢性副鼻腔炎、慢性気管支炎
欧米でも日本でも咳喘息が最多、胃食道逆流症が次におおい。
鼻炎と後鼻漏は欧米で多い。
日本;咳喘息 アトピー咳嗽 副鼻腔気管支症候群
欧米;咳喘息、逆流性食道炎、後鼻漏
慢性咳嗽の患者で痰があるかないかは診断のために重要である。
痰がある場合・・・副鼻腔炎、気管支拡張所見、好中球性気道炎症
痰がないか、あっても少量・・・咳喘息、アトピー咳嗽、GERD、感染後咳嗽
とにかく問診が最も重要である。しかし診断に至るまでに実際に治療薬も投与が必要となる。
問診で必要な内容
喫煙歴、喀痰の有無、咳の多い時間帯、季節性の有無、アトピー素因、胸やけ、姿勢による症状の変化、先行する感冒症状、鼻症状の有無、常用薬、などなど。
問診で十分に疾患を絞ったうえで、以下の検査を実施する。
胸部レントゲン検査は必須である。
マイコプラズマ抗体、百日咳抗体PT-IgG
喀痰中の好酸球をチェックしたり、FeNOはスクリーニングとして演者は全例に実施している。
FeNO検査は喀痰や気管支肺胞洗浄の好酸球数と相関する。
FeNOのカットオフは22ppbであるが、感度91%、特異度84%。NOが高いと咳喘息である可能性が高い。
呼吸抵抗検査は安静換気で測定可能である点が有用な特徴である。
ある報告ではFeNOとモストグラフの組み合わせで診断の精度があがるとされる。
具体的にはR5 2.91以上、FeNO22ppb以上の組わせで感度・特異度が非常によくなる。
咳喘息について
咳喘息は喘息の亜型である。一部の患者では典型的喘息に移行するとされており、30−40%程度である。
咳喘息の咳症状は、就寝時、深夜、あるいは早朝に悪化する。・・・比較的特徴的かつ重要な症状である。
上気道炎、冷気、運動、喫煙、雨天、花粉、黄砂などが誘引となる。
強制呼気で喘鳴がない。
喘息と同様に気道リモデリングがある。
咳喘息の特徴は肺機能検査に異常がないことであるが、実際には「ほぼ」異常なし、ということである。
ごく軽度の閉塞性パターンはしばしば見られる。
気道収縮のみでリモデリングが生じるとされている。
咳喘息もリモデリングが生じてくると考えられるので、喘息と同様に症状コントロールが重要である。
咳喘息の診断基準:1.8週間以上の咳があるが喘鳴なし、2.β2刺激薬有効、の2点のみと簡便になっているが、
FeNOの上昇を認めないnon-Type2の喘息もある。
咳喘息の診断基準に関する問題点について(演者の私見)
気管支拡張薬単剤吸入に十分反応しない咳喘息の存在がかなりある。
咳喘息の診断後、寛解を目指すには吸入ステロイド薬での治療が必須(寛解までに時間がかかる)
この診断基準を用いると、咳喘息でない症例の診断(アトピー咳嗽、喉頭アレルギー)と治療は遅れる。
治療効果は患者の主観的評価によるものが大きいのでプラセボ効果がある。
→診断に偽陽性と偽陰性がかなりあることを認識すべきである。
咳嗽の評価方法; 咳VAS、LCQ(19項目)、等々がある。
よくある質問
咳喘息と喘息の違い :喘鳴があるかどうか
過去に1度でも喘鳴があった場合は喘息である。
演者の私見であるが、臨床的に喘息と咳喘息を区別する必要はない。
Q. ICS/LABA無効なら咳喘息は否定的?
A. 未診断のままICS/LABAを服用したらアトピー咳嗽か咳喘息かは分からなくなる。
無効な場合、咳喘息は否定できるのか→できない。
日本人の喘息治療状況をアンケート調査した結果では、残存症状として50%くらい咳がとまらないと報告もある。
チオトロピウムはICS/ABA不応性の喘息性咳嗽をカプサイシン咳反射感受性調整により症状が軽減する。
→ 咳喘息を疑うなら高用量ICS/LABA/LAMAも試みたほうがよいのではないか(演者の私見)
アトピー咳嗽の特徴
咳喘息との違い・・・FeNOは上昇しない。
喉頭の掻痒感(イガイガ感)がキーワード
抗ヒスタミン薬(H1拮抗薬)が有効とされる。
長期予後の観点からアトピー咳嗽と咳喘息はなるべく区別したい。
喘息では長期フォローが必要で、影響が将来に渡るからである。
例)造影剤を避ける、NSAIDS投与は慎重投与、 βブロッカーやATP製剤は使用できない。
アトピー咳嗽は中枢気道、喉頭アレルギーは喉頭。
副鼻腔気管支症候群
上気道+下気道
CTは有用である。
→とりあえず耳鼻咽喉科で治療開始を推奨する。
DPBに準じてマクロライド少量長期療法を行う。
肺非結核性抗酸菌症を否定しえない症例もあるので、CAMは避けている。EMから開始する。
症例)72歳女性
喘息治療していても改善しない。→アドヒアランスは要確認。
咳は昼や晩におおく、下を向いた時に多い。・・・重要な症状。
診断)胃食道逆流症による咳
治療)
ICS/LABAは中止し、ボノプラザン(タケキャブ®)で改善。ただし咳はゼロにはならない。
胃食道逆流症GERDによる咳
GERDの症状では、咳のみの場合もしばしばある
高齢、肥満は要注意。
会話時の咳、前屈による咳などが特徴的である。
診断的治療として酸分泌抑制薬を2−4週間服用して経過をみる。すっかり咳が良くなるわけではない。
内視鏡検査も胸やけ症状も感度は高くない。
診断の効率化としてQUEST問診票はおすすめである。
症例)69歳女性
喉のイガイガ感、耳鼻科から紹介
フローボリウムカーブは閉塞性パターン
呼気NOが26ppb
喘息治療開始したが、無効だった。
よく尋ねると胸やけあったのでPPI処方したところ改善傾向。
しかしその後も痰が引っかかる感じ を自覚。
耳鼻科に再紹介し、後鼻漏を認めた。
診断)後鼻漏症候群
もし下気道疾患合併していたら副鼻腔気管支症候群と呼ぶ。
咳の診療で大事な注意点は。
原因疾患は一つとは限らないということである。
そう簡単にはよくならない。
治療前診断が間違っている、特異的治療の効果が不十分、複数の原因疾患がある可能性、を常に考慮すること。
慢性咳嗽は2つ以上の疾患が合併していることが多いとされる。
特に喘息 + 副鼻腔炎は多い。
難治性咳嗽
そもそも原因疾患が不明。
CHS: 低レベルの温度、機械的、化学的刺激を契機に生じる難治性の咳を呈する症候群
CHSは原因疾患によらない概念である。
治療)
ガバペンチン、プレガバリン、アミトリプチリン、P2X3受容体
非薬物療法・・・カウンセリング
リフヌアは感染後咳嗽も適応になるのではないか。現在咳止めも不足しているので。
Q and A
Q ICS/LABAで嗄声が副作用にあり処方にためらわれるが先生はどうか
A ためらわずに使用する