パーキンソン病について講演を拝聴し、最新の知見を学びました。

パーキンソン病について講演を拝聴し、最新の知見を学びましたのでご報告します。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

◆2023年11月14日放送 テーマ:「一般医と一緒に診るパーキンソン病診療~運動症状と自律神経症状~」

金沢医科大学 脳神経内科学 教授
朝比奈 正人

パーキンソン病は全国に約18万人。
運動症状と自律神経症状が主たる症状である。 平均発症 60歳程度。
パーキンソン病は緩徐に発症して進行する神経変性疾患である。
運動障害; 中脳黒質のドパミン作動神経の変性・脱落が原因である。
脳のドパミンの量は年齢とともに減少し、若い頃の20%未満となると発症する。
αシヌクレインを主成分とするレビー小体という構造物が脳の神経細胞に認められる。
体の片側から発症し、右手→右脚→左手→左脚 のようにN字型あるいは逆N字型で進行するのが典型例である。
診断には、 パーキンソニズムの確認が必要である。
①運動緩慢 ・・動作が遅い (最重要)
②筋強剛 ・・・筋肉の緊張
③振戦 ・・・・不随意運動としての静止時振戦
①は必須、かつ②または③、が認められる場合に診断される。
運動緩慢では運動が開始できないあるいは運動が途中で止まる「すくみ」も含まれる。
診察では、反復動作をなるべく速く大きく10回行い、スピード、振幅、すくみを観察する。
上肢の回外回内運動(キラキラ星の仕草)、手の開閉運動や指のtappingなどを観察する。
下肢の運動緩慢の評価では座った姿勢でかかと落ちやつま先のtappingなどを行う。
筋強剛の診察では四肢の関節を他動的に動かして抵抗を観察する。
首や体幹の筋強剛も診察するが、初期のパーキンソン病では目立たないことが多い。
振戦の観察では、椅子に座った姿勢で手を膝の上に置き、手指を観察する。安静時振戦を観察するが、両腕を水平挙上した姿勢時では振戦は止まることがおおい。
パーキンソン病と鑑別を要する本態性振戦では静止時には見られず、姿勢時に周期の速い振戦が見られる。

歩行の診察も重要

典型的小刻み歩行や前傾姿勢は病初期にはあまり目立たないことがおおく、歩行時の腕の振りが片側だけ小さいのが唯一の所見のことがある。
初診時には継ぎ足歩行はたいていできる。病初期から継ぎ足歩行ができない場合はパーキンソン病以外を考える。
認知症、幻視、うつ、便秘、排尿障害、睡眠障害、嗅覚低下などの非運動症状を合併する。
特に嗅覚低下やREM睡眠行動異常症はパーキンソン病の可能性が高い。特に男性の場合にはパーキンソン病発症前からの便秘は、パーキンソン病を指示する。
治療が開始されると診断が非常に困難になるので、疑ったら治療開始前に神経内科に紹介してください。
パーキンソン病の8割は問診と診察で診断できるが、2割が画像検査が有用である。
脳のMRIで特徴的所見はないが、他の疾患除外に必要である。
ドパミントランスポーターSPECTでは、ドパミン作動神経終末にあるドパミントランスポーターを評価することでドパミン作動神経の変性・脱落を捉えることができる。パーキンソン病では線条体の集積が低下するが、本態性振戦、薬剤性パーキンソニズム、脳血管性パーキンソニズムでは集積は低下しない。
パーキンソニズムを呈する多系統萎縮症や進行性核上皮麻痺などの神経変性疾患では線条体の集積は低下し、鑑別には役立たない。
節後交感神経を評価するMIBGシンチグラフィーが診断に役立つ
パーキンソン病では、病初期あるいは発症以前から心筋を支配する節後交感神経が障害されるので、心筋MIBGの集積低下がみられる。
MIBGの集積低下はパーキンソン病に特異的だが、2−3割は病初期正常なので、正常でも否定はできない。

治療について

代表的治療薬はレボドパ(L-DOPA)である。
不足しているドパミンを投与しても脳血液関門を通過できず治療効果は発揮できないが、L-DOPAは脳血液関門を通過することができ、脳内でドパミンに変換されて効果を発揮する。最も効果のある薬剤だが、長期に投与で薬効時間が短くなり(wearing off現象)、勝手に体が動いてしまうジスキネジアという運動合併症を誘発するリスクがある。5年間の投与で約半数に運動合併症が発症し大きな問題点である。
ドパミン作動薬とMAO作動薬も有用な薬剤である。  ドパミン作動薬はドパミンと違い、長時間作用する。
MAO-B作動薬はドパミンの分解を抑制し、脳内のドパミン濃度を上昇させて症状を改善させる。
これらの薬剤はL-DOPAと比較して運動合併症を起こしにくいという利点がある
L-DOPAによる運動合併症は比較的若年で発症しやすいので、
 65歳未満ではまずドパミン作動薬やMAO-B阻害薬で治療開始したり、これらを併用してL-DOPAの投与量を抑える。
 75歳以上の症例にはL-DOPA主体で治療を行う。
ジスキネジアなどの運動合併症で治療薬増量が困難になった場合は、深部刺激療法などの外科治療も行う。
パーキンソン病患者の内科的管理では、非運動症状に対処が必要となる。
その一つが自律神経症状である。
最も多いのは便秘で、パーキンソンニズムの出現する数年も前から便秘のこともある。
刺激性下剤は連日使用すると効果が減弱し、腸管平滑筋を疲弊させる。→長期的には便秘の悪化やイレウスの併発のリスクがある。
酸化マグネシウム、腸管上皮機能変容薬などをベースに投与し、刺激性下剤は頓用使用とする。
水分、線維質の摂取、運動習慣、決まった時間の排便習慣も重要である。
カマグは胃酸を抑制しL-DOPAの吸収を阻害するので、演者は眠前1回投与としている。
起立性低血圧も大きな問題である。
臥位から立位となり3分以内に収縮期血圧20mmHg以上低下、あるいは拡張期血圧10mmHg以上低下し持続するものと定義される。
立ちくらみ、立位時の疲労感と意識混濁、失神などの自覚症状として捉えらえるが、自覚症状がなく「原因不明の転倒」と捉えられていることもある。
起立性低血圧は病初期には頻度は少ないが、経過とともに頻度が増える。
食後に血圧が低下する食後低血圧もみられる。
これは食後に腸管の血管が拡張し腹腔に血液がプールされ、相対的に循環血液量の減少がおこるためである。
炭水化物や糖質を摂取すると血圧低下するが、脂質やタンパク質摂取では起こらない。
さらに臥床しているときに血圧が上昇する「臥位高血圧」が起こり得る。自律神経不全の患者では脳が虚血となるため、代償的に分泌される昇圧ホルモンが主な原因である。健常者では血圧が高くなると自律神経が働いて正常にもどすが、自律神経不全患者ではその働きが消失するため臥位で昇圧ホルモンにより血圧が上昇してしまう。起立性低血圧や食後低血圧に対して昇圧剤を投与すると、臥位高血圧が悪化するので治療に難渋する。
パーキンソン病に合併する血圧調節障害には非薬物療法が最も重要である。
起立性低血圧、食後低血圧、臥位高血圧に対処する治療計画が重要である
脱水は低血圧症状を悪化させる。就寝中は飲水しないので起床時は脱水になっている。起床時にまず水をコップ2杯程度のむことを指導している。
食後低血圧は午前中に顕著なことが多いので、朝食に炭水化物や糖質を減らし、脂質やタンパク質を積極的に摂取してもらい、血圧上昇作用のある塩分を多めに摂取してもらう。
熱い食事は体を温め血圧を低下させるので、特に夏には温かい食事を避けるようにする。食後にカフェイン摂取すると食後低血圧が緩和すると報告がある。飲酒は血圧をさげるので注意が必要である。
日常生活の指導としては、急に立ち上がらず立ちくらんだらすぐにしゃがむように指導する。
排尿排便でいきんだ後は血圧が低下するので男性でも便座に座って排泄し、排泄後もしばらく経ってから立ち上がるようにする。
暑いと血管が拡張して血圧が下がるので、暑熱環境を避け、入浴は長湯をしないでシャワーがおすすめである。
臥位高血圧に対しては、ベッドの頭側の脚にブロックなどを挟んで使用して10度程度頭が上がるようにすると、臥位高血圧が軽減し昇圧ホルモンが賦活されるので起立性低血圧も改善する。
昇圧薬を使用する場合は、低血圧症状発現しやすい午前中をターゲットに起床時に短時間作用型の昇圧薬を服用する。
午後にも低血圧がある場合は昼食前や午後にも昇圧薬を投与するが、夜間就寝中に薬効が残存しないように投与時間を調整する。
臥位高血圧に対しては短時間作用の降圧薬を就寝前に投与することがあるが、夜間トイレに起きたときに失神するリスクがあるので注意が必要である。
パーキンソン病の血圧調節障害の治療計画は、24時間血圧測定を行ってその結果をもとに行うのがよいであろう。
排尿障害も頻度の高い自律神経障害である。
頻尿、尿意切迫、切迫性尿失禁などの蓄尿障害がおおく、排尿障害は目立たない。
過活動膀胱にともなう夜間頻尿が最も問題となりやすい。
脱水に注意しながら夕食後以降の水分摂取を制限する。
薬物治療としては過活動膀胱の治療薬を寝る前に用いる。抗コリン薬とβ3受容体作用薬があるが、抗コリン薬はパーキンソン病患者の認知機能を低下させる可能性があることから、演者はβ3刺激薬を使用している。β3作動薬は理論的には血圧に影響する可能性があるが、演者の経験上は問題なく安全に使用できている。
その他の自律神経障害として、発汗過多、発汗低下、体温調節障害、性機能障害がある。
体温調節障害のために夏場に熱中症を起こしやすいので注意が必要である。

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