第522回福山地区内科会学術講演会 2024年2月27日 が開催され、最新の知見を学びました。

第522回福山地区内科会学術講演会 2024年2月27日 が開催され、最新の知見を学びました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

経口血糖降下薬、二刀流の時代へ

東大和病院糖尿病・内分泌内科糖尿病センター長/副院長
犬飼浩一先生

糖尿病の治療薬の選択には明確なビジョンが必要である。
・インスリン分泌を促進したいのか、節減したいのか?
・体重を減らしたいのか、減らしたくないのか?
・食欲を減らしたいのか、減らしたくないのか?
・低血糖のリスクが高いのか、高くないのか?

症例1)
70代女性、BMI21台、, HbA1c8.5%、eGFR56.2、尿蛋白(-)
現在の治療;DPP4 阻害薬 + メトホルミン
この症例では、治療をどう変更調整するか。
*(筆者追記)DPP4阻害薬とGLP-1受容体作動薬(リベルサス)は同時には使用できない。同じインクレチン作動薬は併用できない。
たとえばDPP4阻害薬をGLP-1受容体作動薬(リベルサス)に変更したらHbA1cは低下するが、本例ではリベルサス®だけはよくない。
体重が減るからである。
高齢糖尿病患者(75歳以上)はBMI25 程度の予後が最も良く、それより低いBMI22.4 以下で1.57倍、18.5未満は8.1倍も予後不良である。
血糖良くなっても8倍の死亡率では話にならない!
日本人高齢糖尿病患者のカロリー摂取は 30-35kcal/kg 妥当である。
特に34kcal/kg が最も総死亡比が低い。 (J-EDIT 65 歲以上 756 名 6 年追跡)
従来1600kCal /日と言われていた摂取カロリーは、現在は1800から2000Kcal /日は摂取すべきである。
しっかり食べないと予後は良くない。
本症例では体重を減らしたくない、食欲を減らしたくない、→GLP-1受容体作動薬(リベルサス®)は不適切である。
SGLT2阻害薬は食欲は低下しないが体重は減るであろう。
体重を減らさないが血糖は低下させる薬剤→少量SU薬の選択肢しかない。
高齢者の使用薬剤ではSU薬はまだ多いが、このような理由から止むを得ないのである。

・インスリン分泌を促進したいのか、節減したいのか

インスリン分泌促進系(結果的にインスリン分泌が増える)は4つある。
SU 薬  グリニド薬  DPP4 阻害薬 GLP-1 受容体作動菜
(以下筆者補足)
SU薬:グリベンクラミド(オイグルコン®)、グリクラジド(グリミクロン®)、グリメピリド(アマリール®)、アセトヘキサミド(ジメリン®)、グリクロピラミド(デアメリン®)
グリニド薬:レパグリニド(シュアポスト®)、ナテグリニド(スターシス®)、ミチグリニド(グルファスト®)、
DPP-4阻害薬:シタグリプチン(ジャヌビア®)、ビルダグリプチン(エクア®)、テネグリプチン(テネリア®)、リナグリプチン(トラゼンタ®)、アログリプチン(ネシーナ®)、トレラグリプチン(ザファテック®)、アナグリプチン(スイニー®)、オマリグリプチン(マリゼブ®)、オキサグリプチン(オングリザ®)
GLP-1受容体作動薬:セマグルチド(リベルサス®錠、オゼンピック®皮下注、ウゴービ®皮下注)、その他はすべて皮下注:リラグルチド(ビクトーザ®)、デュラグルチド(トルリシティ®)、チルゼパチド(マンジャロ®)等々。

DPP‐4 阻害薬はGIPを介して直接インスリン分泌を増幅する。
生理的濃度ではGLP−1は膵β細胞になんら影響しない。その理由は
GLP-1は消化管で分泌されてDPP4でどんどん分解されて、最後に膵臓に到達する頃にはほとんどなくなっている。
ではどうやってGLP-1はインスリンを分泌させるのか。
消化管でGLP-1濃度が増加すると、迷走神経が活性化する。その刺激は脳に行き、脳から副交感神経を介してインスリン分泌促進の指示がでる。
DPP-4阻害薬により消化管のGLP-1活性が上昇→門脈に流れてそこで迷走神経を刺激する→膵β細胞からインスリン分泌を増加させ、膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制する。
一方でDPP-4阻害薬は血中のGIP活性を上昇させ→膵β細胞からインスリン分泌を増加させ、膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制する。

・イメグリミンの分泌促進のメカニズム作用について

イメグリミン(ツイミーグ®)を投与すると、β細胞内においてNAMPT遺伝子が増幅され、NAD+(ミトコンドリア内でATP産生に重要なホルモン)を増加させる。NAD+はCD38の作用によりcADPR(cyclic ADP ribose)を産生誘導し、小胞体からのCaイオンを放出させる。
ただし血糖が上昇しないとこの経路は活性化しないので、低血糖のリスクは極めて少ない。

一般的なインスリン分泌を促進する治療薬のデメリット

  1. 低血糖を起こしやすい
  2. 肥満を助長する
  3. 小胞体ストレスの助長・・・SU薬を長年使うとβ細胞がアポトーシスを起こす→こうなるとインスリン治療しか治療方法はない。
    イメグリミン(ツイミーグ®)は1−3を起こさない!(併用薬があれば別であるが…)
    3についてはインクレチンと同様にβ細胞保護作用がある。

・DPP‐4阻害薬とメトホルミンは相性がよい。

GLP-1注射とは相性がわるい結果が得られている。その理由としてそもそもGLP-1注射の必要な患者はインスリン分泌能がかなり低下しているからだと思われる。
メトホルミンは胆汁酸の腸肝循環をブロックする。すなわち下部消化管での胆汁酸の再吸収をブロックすることにより下部消化管の胆汁酸濃度が上昇しGLP-1分泌が促進される。
つまりメトホルミンはGLP-1分泌促進薬である。

イメグリミンとDPP-4阻害薬はメトホルミン同様の機序により相性がよい。
・イメグリミンはグリニド様の食後血糖を低下させる作用がある。
ただし空腹時血糖が高い場合はその効果は期待できない。空腹時血糖は130台以下の患者に限る。
その機序はNAD+はATP活性を上昇させてATP感受性Kチャネルを閉じるからである。

以上から症例1に最適な治療を再考すると、
高齢者、非肥満、のDPP-4阻害薬とメトホルミンの併用患者のHbA1C8.4%の症例に何を追加するか。
少量のSU薬だと低血糖リスクがある。 イメグリミンなら低血糖のリスクはない。体重も減少しない。
 よって、 エクメット® + ツイミーグ® 
を演者は推奨された。

症例2)70歳代女性
糖尿病歴18年、BMI23.9 、慢性膀胱炎のためSGLT2は使えない。グリメピリド1mgとエクメット®併用投与中。
イメグリミンを追加したところ、体重は半年で−1.5kg、HbA1cは6.8%に低下した。グリメピリドは0.5mgに減薬した。
症例3)50歳代男性
SGLT2、グリメピリド、メトホルミン、DPP-4阻害薬を投与中に亀頭炎発症しSGLT2は中止となった。 
→SGLT2をイメグリミンに切り替えて経過は良好であった。

・目標HbA1cを達成させるための糖尿病治療戦略(演者の私見)

非肥満あるいは高齢者(インスリン分泌低下型)には、
 1.DPP-4阻害薬
併用するならメトホルミン、SGLT2阻害薬、イメグリミンのいずれかで順番はどれでもよい。
インスリン需要を減らす薬剤は2種類。
 インスリン節減系/排泄系薬 ・・・メトホルミン、αGI、SGLT2阻害薬
 インスリン抵抗性改善薬 ・・・ピオグリタゾン
メトホルミンはグルカゴンの作用を阻害して糖新生を抑制する。インスリンの肩代わりをしているのでありインスリン分泌量を低下させる節減系。
また消化管にグルコースを排泄促進することも判明している。
ピオグリタゾンはPPARγを介して効果を発揮するが、デメリットも多く最近は使用されない。(浮腫、膀胱癌)
イメグリミンは、糖代謝や糖新生を抑制する。→酸化ストレスの発症を抑制する→結果としてインスリン抵抗性を改善する。

・イメグリミンが有効な患者像

インスリン抵抗性改善効果を期待するときは、インスリン抵抗性が強い人に使うとよい。
HOMA-Rが高いひとほどよい。
*インスリン抵抗指数(HOMA-R):Homeostatic Model Assessment for Insulin Resistanceの略
血液中のインスリン量が充分でもインスリン抵抗性がある場合、高血糖になる。
 HOMA-R=空腹時インスリン(μU/mL)×空腹時血糖(mg/dL)/405
 1.6以下の場合は正常。.2.5以上を抵抗性あり。

症例)50歳代 男性 BMI30以上、HbA1c9.1%, eGFR76.1尿蛋白(+)
併用薬トレシーバ40 単位、GLP-1 受容体作動薬、メトホルミン、SGLT2 阻害薬
このようなインスリン抵抗性が強くインスリン増量しても効果がない患者にピオグリタゾンはどうか?
イメグリミンは肝機能異常(脂肪肝:酸化ストレスの蓄積)がある症例、すなわちインスリン抵抗性の強い患者には非常によく効く。
→イメグリミンが適応である。

・非高齢肥満糖尿病患者の治療戦略(演者の私見)
メトホルミン SGLT2 次にイメグリミン

・イメグリミンの副作用
悪心、下痢は10-15%あり。あらかじめ説明しておき、もし起きたら減薬などしながら調整する。
メトホルミンは乳酸が蓄積するが、イメグリミンは蓄積しない薬剤として発見された。実際に増量していっても乳酸は蓄積しない。

TAKEHOMEMESSAGE
糖尿病の治療薬の選択には明確なビジョンが必要
イメグリミンにおけるビジョンとは?
患者さんの病態に応じて、インスリン分泌と抵抗性改善の両作用に期待できる
インスリン分泌低下型
 体重を減らしたくない
 高齢者/痩せ型
 低血糖を起こしたくない
インスリン抵抗性型
 体重を増やしたくない
 高用量インスリン
 高度脂肪肝

コメントは停止中です。