第64回日本呼吸器学会学術講演会聴講録 その1

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

◆シンポジウム4 びまん性肺疾患 治療のトピックス

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

●S4-1抗MDA5抗体陽性間質性肺炎の多様性と治療戰略

金沢大学附属病院呼吸器内科
渡辺 知志先生

·抗MDA5抗体陽性間質性肺炎 概要
·抗MDA5抗体阳性間質性肺炎の多樣性
 ·急速進行性、亜急性、慢性、無症候性
 ·皮疹主体、間質性肺炎主体
・急速進行例に対する治療戦略
・筋炎の分類
各病態における自己抗体が発見され、最近では自己抗体で分類される。

抗MDA5抗体

皮膚筋炎に特異的な自己抗体
臨床的無筋症性筋炎(CADM)に多く認める。
特徴的な皮疹を有することが多い。
高頻度に急速進行性間質性肺炎を合併する。
皮疹は物理的刺激の受けやすい部位に出やすい(ケブネル現象)。
滲出性紅斑、紫斑、潰瘍化の傾向がみられる。
ゴットロン兆候・丘疹:手指関節、肘、膝関節の伸側、耳介に盛り上がりはない紅斑(=ゴットロン徴候)、手指関節の外側に表面がかさかさして盛り上がった紅斑(ゴットロン丘疹)
逆ゴットロン徴候:手のひらにまるで鉄棒でもしたようなマメ様の皮疹ができる
ヘリオトロープ疹:上まぶたのうす紫色の発疹
Vネック兆候・ショール兆候 掻いたあとに線状の紅斑が見られる。

・胸部画像所見
下葉優位、胸膜に接するように分布
収縮傾向やいびつな形態を伴う浸潤影、すりガラス陰影
重症例では縦隔気腫をきたすことがある。
物理的な刺激を受けやすい部分に発生し易い。
・ 筋炎関連ILD治療アルゴリズム
急性または亜急性の場合
 高用量PSL + 免疫抑制剤単剤
 抗MDA5抗体陽性と判明したら、三者併用療法に切り替える PSL、IVCY、TAC

・バイオマーカー
抗MDA5抗体とフェリチン値は生存例で全例低下したが、死亡例では上昇した。
抗MDA5抗体陽性ILD急性は初期治療で深い寛解に入ると、再燃することは少ない。

抗MDA5抗体阳性间质性肺炎の多様性
 ·急速進行性、亜急性、慢性、無症候性
 ·皮疹主体、間質性肺炎主体
多彩な画像所見

フランスからの報告では、121例の抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎をクラスター解析したところ、3つのクラスター(3つのサブタイプ)に分けられた。
cluster1: RP-ILD(急速進行性間質性肺炎)cluster、機械工の手、ILD100%合併、うちRP-ILD93%、死亡率80%
cluster2: Rheumatoid cluster、女性82.6%、関節炎82.6%、ILD82.6%合併、RP-ILD 17.4%、死亡率0%
cluster3: vasculopathic cluster、男性72.7%、レイノー現象81.8%、皮膚潰瘍77.3%、指の壊死31.8%、石灰沈着 22.7%、近位筋力低下68.2%、ILD50%、RP-ILD22.7%、死亡率4.5%

急速進行性間質性肺炎を以下に救命するかが重要な課題である。

抗MDA5抗体陽性間質性肺炎の予後不良因子(2つの論文から)
抗MDA5抗体陽性、60歳以上、CRP1mg/dL以上、SpO2<95%
抗MDA5抗体陽性、CRP0.8mg/dL以上、KL-6 1000以上
これらの因子があれば早期治療開始が望ましい。
・免疫グロブリン療法(IVIG)
ステロイドが効果不十分の例に対する筋力低下の改善効果。ILDに対するエビデンスなし。
自己抗体の中和、自然免疫·獲得免疫細胞の活性化の抑制などが期待される。
・血漿交換
自己抗体や炎症性サイトカインの除去効果が期待される。ILDに対するエビデンスなし。
急速進行例、重症例に対し、早期(2週間以内)に開始するのが望ましい。

・JAK阻害薬(tofacitinib)
ステロイド+タクロリムス VS ステロイド+tofacitinibでは、生存率40% VS 60%。
tofacitinibが有意に生存率を改善した。
ただしJAK阻害薬はウイルス感染、CMV感染、真菌感染、帯状疱疹などの感染症の合併が多い。

Q and A

Q 抗MDA5抗体はウイルス感染とどこまで関連するのか
A 演者らはコロナウイルス感染者について測定したが、何例か上昇していた。感染症の収束とともに低下した。もしかしたら抗MDA5抗体価が低下しない症例が急速進行性間質性肺炎になるのかもしれないが、現時点でははっきりしたことは言えず他のウイルスでも検討は必要である。
Q 慢性例あるいはOPの症例では、抗MDA5抗体陽性例は3剤併用投与か2剤か。
A 以前はすべて3剤併用していたが、最近は抗MDA5抗体価が治療後も変化しない例なども見受けられる。
コメント:強力に3剤併用するといずれの薬剤もTリンパ球がターゲットでありウイルス感染に極端に弱くなる。経過がよいと思われた症例が再増悪した場合間質性肺炎の増悪にみえるが、サイトメガロなどのウイルス感染症による死亡の可能性もある。なので、強力に治療するときは早期からすべきであろうと考えている。

●S4-2肺胞蛋白症における新たな標準的治療法
GM-CSF吸入療法

杏林大学呼吸器内科学
石井 晴之先生

GM-CSFノックアウトマウスはPAPを発症し死亡することが発見されてから、研究が進んだ。
その後新潟大学中田光教授により、抗GM-CSF中和抗体が発見された。
GM-CSFはマクロファージに発現するレセプターに結合するとマクロファージが活性化されるが、抗GM-CSF自己抗体(中和抗体)によりGM-CSFが中和されると、マクロファージの貪食能が低下し、サーファクタントプロテインAやホスファチジルコリンの肺内での吸収・分解が著しく低下しPAPを発症する。
肺胞マクロファージの障害パターンからPAPの病型は3つに分類される。

Mファージの活性化経路:GM-CSFがαレセプターに結合しさらにβレセプターとの2量体を形成し、リン酸化をおこしながらシグナルがMファージの核内に伝達され活性化される。
現在では肺胞蛋白症は抗GM-CSF自己抗体の有無で分類される。
抗GM-CSF自己抗体陽性 →自己免疫性PAP
陰性例→基礎疾患あり → 2次性PAP(sPAP)約10%
陰性例→基礎疾患なし → 未分類PAP

・重症度分類
PaO2>=70 Torr 症状なし DSS(重症度)1、症状あり DSS2
70>PaO2>=60 DSS3
60>PaO2>=50 DSS4、50>PaO2 DSS5
DSS3以上の重症例は難病指定され医療助成の対象である。
→GM-CSF吸入療法が適応される。
*自己免疫性PAPと遺伝性・先天性PAPが指定難病であるが、2次性PAPは指定難病ではない。
250μg(1回125μg、1日2回)/day(7日連統·7日休薬)吸入し、24例(68.5%)改善した。
く自己免疫性PAPに対するGM-CSF吸入療法>
重症度3,4,5には積極的に導入
%VC_80%未満の拘束性換気障害を呈する前に導入(80%未満となると有効性が低いため)
禁煙の重要性を指導
実際の吸入主義
 ゆっくり空気を吐く→3秒吸気→3秒息止め→3秒呼気
 1週間吸入して1週間休薬を24週間つづける。
 評価は安静仰臥位のAaDO2を測定する。
 

AaDO2は有意に改善、CT値は低下し、含気も増加する。LDH,KL-6,SP-Aは有意に改善する。
GM-CSF吸入療法により肺胞Mファージは活性化され、サーファクタントプロテインAやホスファチジルコリンが貪食されることが証明されている。

AaDO2の低下は喫煙者、既喫煙者のいずれも改善しなかった。非喫煙者が改善する。
・自己免疫疾患のある抗GM-CSF抗体陽性例も1次性の分類になるが、吸入療法が有効かどうかは不明。
また進行性線維化を認める例も有効性は不明である。

Q and A

Q 喫煙者や既喫煙者に無効な理由はなにかあるでしょうか。たばこそのものが何か吸入薬を阻害するのか、既存構造の破壊が何かよくないのか。
A 正確なことは不明である。末梢気道の閉塞性は吸入効率を下げるであろう。破壊された肺胞にはMファージも到達しにくいであろう。また粉塵や自己抗体などもMファージの活性化を阻害するであろう。
Q 自己免疫性PAPで基礎疾患をもっているものでは、潜在的に抗GM-CSF抗体を持っている可能性があるのか。
A 不明。正常者でも抗GM-CSF抗体をもっているが、必ずしもPAPを発症しない。自己免疫疾患の治療中に発症したと考えている。
Q 重症者は吸入薬が末梢に届かない気がするので、軽症者のほうが有効な気がするが、なぜ重症者だけなのか。できれば軽症者からつかいたい。重症者は全肺洗浄と組み合わせて治療するほうがよいのか。
A 軽症者は治療効果がわかりにくい。また重症者は全肺洗浄したあとのほうが有効である。
追加コメント:重症度5の人を積極的に治療してください。重症度が高い人ほど有効であるので、だめなときに全肺洗浄してください。

●S4-3最近の知見を基にして過敏性肺炎の治療を考える。

東京医科歯科大学呼吸器内科
立石 知也先生

過敏性肺炎(非線維性)
線維性過敏性肺炎(FHP)
FHPの薬物治療(副腎皮質ステロイド)
FHPの薬物治療(抗線維化薬)

過敏性肺炎の発症機序

遺伝的素因や喫煙などが関与して、カビ、鳥関連の抗原吸入することによりMファージに貪食され肉芽腫を形成、リンパ球が誘導されてリンパ球性胞隔炎をきたす疾患である。

n=144(non-fibrotic 93, fibrotic 109)のMatched cohortでは線維化が強い症例では除外されているが、線維化が診断時に軽度の症例ではステロイドが予後改善に寄与する可能性があることが示されている。ただしステロイド投与群全体でみると未使用群のほうが予後がよかった。おそらく投与する患者背景が違うからであろう。(Ejima M et al. BMC pulm med 2021)

線維性過敏性肺炎のステロイド治療適応について

 炎症を示唆する所見がある場合
 肺機能の改善がとまったら減量していく。減量スピードは個別に対応する。
 免疫抑制剤については積極的に投与するエビデンスはないので、ステロイド減量中に悪化傾向ならAdd-onを考慮する。
炎症を示唆する所見がない場合はwatchful wait/抗線維化薬の検討する。

Fibrotic HPの抗線維化薬治療について

演者らの報告では、線維性過敏性肺炎での少数例の報告(N=9)では、1年間のピルフェニドン投与により、VCの低下が抑制された。
INBUILD試験(ニンテダニブの試験)では、26.1%に線維性過敏性肺炎が含まれており、有意な有効性は証明されなかったが、有効な傾向であった。
ピルフェニドンの前向き試験(投与例27例、プラセボ13例)の報告では(Thorax 2023)、52週間でFVCの有意な改善はないが、ピルフェニドン群では進行を抑制したが、プラセボ群は進行した。
演者らが過去10年間にFHPの治療が必要と判断した167例を抽出し、抗線維化薬投与群N=69と非投与群N=98を比較した。非投与群は全例ステロイドが投与されていた。抗線維化薬群も半数はステロイドが投与されていた。UIPパターンの認められる症例の73.9%には抗線維化薬が投与された。
FVCが低いほど、HRCTでUIPパターンがある症例ほど予後不良であった。
抗線維化薬は90日以上の投与日数症例では、短期投与よりも予後がよい傾向であった。
UIPパターンの認める症例に絞って抗線維化薬投与の有無で検討すると、あくまでプレリミナリーデータではあるが、抗線維化薬投与群が予後が良好の傾向にあった。

Q and A

Q ステロイド投与で徐々に増悪している症例に対して、炎症性で抗炎症治療が不十分なのか、PPFとして抗線維化薬を投与するのか、をどのように判断治療しているのか。
A 抗炎症が十分かどうかの判断方法はない。すりガラスが多い場合は炎症が残存と考えるがそれ以外のものはない。あるいは季節性の変化を認めた場合はステロイド増量するなどの判断くらいである。

●S4-4間質性肺疾患における緩和医療

浜松医科大学内科学第二講座
藤澤 朋幸先生

生命を脅かす疾患を抱える患者と家族すべてが緩和医療の対象である。
本邦では2021年に非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針が発刊されている。
2020年WHOの発表では緩和医療受ける疾患は悪性腫瘍28.2%、HIV22.2%、脳血管疾患14.1%、認知症12.2%、呼吸器疾患(非がん)は5%と報告されている。

間質性肺疾患においては緩和医療は重要なニーズである。
酸素投与を必要としたILD患者285名、あるいは肺癌で死亡した10822名を対象に、死亡前 7 日間の臨床状況や緩和ケアを後方視的に比較したスウェーデンの報告がある。
これによると、ILDは息切れがおおく、予期せぬ死亡、緩和ケアを受ける状況が少ない、終末期に関する話し合いが少ない、などの特徴が判明した。一方肺癌では疼痛が多く、ILDで指摘された問題点は少ない。

日本呼吸器学会が呼吸器専門医にアンケート調査した結果によると、
肺癌では呼吸困難にオピオイドを積極的に投与する傾向あるが、ILDは10%程度であった。
ILDは患者に対する緩和ケアの問題点として挙げられたものに、予後予測が難しい、急性増悪発症の予測困難、在宅医療が不十分、などがある。治療関連では咳や呼吸困難の緩和方法が未確立である、終末期の苦痛緩和目的の鎮静適応や方法が未確立である、などが問題であった。
意思決定に関しては、患者家族の疾患理解不足が重大であり、予後理解不足、予後不良の疾患と受け入れられていない、治療の限界や合併症への理解が困難である、などが挙げられる。
ILDの緩和ケア普及に必要なことを尋ねると、80%以上の呼吸器専門医が、呼吸困難へのオピオイド保険適応だと回答した。
ILD患者と遺族にアンケート調査をした結果では、約半数の家族はILDが死亡するあるいは急性増悪で急変する疾患であることを認識していなかったと回答した。

適切な病状認識を有するILD患者は、終末期QOLが有意に高かった。具体的には
 先々のことを自分で決められる
 人生を全うしたと感じられる
 ご家族やご友人と良い関係でいられる
 自然なかたちで過ごせる
などが挙げられる。
→ 十分な病状認識が達成されているとはいいがたい現状がある一方、適切な病状認識をもつことは、終末期のQOLを高めることに寄与するかもしれない。

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