第64回日本呼吸器学会学術講演会聴講録 その2

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

◆シンポジウム4 びまん性肺疾患 治療のトピックス

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

●教育講演10 バイオマーカー検査の使い分けとがんゲノム医療

山梨大学呼吸器内科
副島 研造先生

バイオマーカー (biomarker) とは、ある疾患の有無、病状の変化や治療の効果の指標とな る項目・生体内の物質を指す。
バイオマーカーとして使用されるものは、主に血圧、心拍数 や心電図、血液中に測定されるタンパク質等の物質といった生体由来のデータである。
バイオマーカーの種類用途
診断マーカー、予後マーカー
薬力学マーカー:薬剤(化合物)の作用機序を見る
予測マーカー:特定の治療による効果を予測する→分子マーカー(遺伝子やタンパク質解析)
モニタリングマーカー:疾患の判断や治療への反応を見る
患者層別マーカー:薬剤(化合物)に関連した特定の分子を発現している患者を選別する
安全性・毒性マーカー:薬剤(化合物)の安全性、毒性を評価

2010年に肺腺癌においてEGFR遺伝子変異がある患者にのみEGFR-TKIが有効と判明し、その後同様の遺伝子以上を世界中で検索するようになり、多数のドライバー変異が発見され臨床応用されている。
EGFR 53%、KRAS9.7%、BRAF 0.3%、HER2 1.9%、ALK fusion 3.8%、RET fusion 1.9%、ROS1 fusion 0.9%、NRG1 fusion 0.3%、BRAF fusion 0.3%、MET ex14 2.8%

肺癌分類は当初はSCCとNSCLC、つづいて組織型の細分化、遺伝子異常、現在は加えてPD-L1発現レベル(発現50%以上、1−49%、1%未満)のように、バイオマーカーによる分類するようになっている。
肺癌学会のIV期NSCLCは、まずEGFR, ALK, ROS1, BRAF, MET, RET, NTRK, KRAS, HER2のすべての遺伝子変異を検索し、かつPD-L1検査によるサブグループ分けをすることを基本としている。

非小細胞肺癌における個別化治療の効果明らかで、遺伝子異常に対応する分子標的治療薬を用いた治療では、3年生存率が50%以上となっている。

遺伝子異常の検索は当初は対象となる遺伝子を一つづつ実施していたが(シングルプレックスCDx検査)、現在は同時に測定するマルチプレックスCDx検査が主流となっている。*筆者補足)CDx =コンパニオン診断:ある治療薬が患者に効果があるかどうか、治療の前にあらかじめ検査することを、コンパニオン診断という。その診断のために使う薬が、コンパニオン診断薬であり、診断と治療は対応している。

コンパニオン診断は医薬品の適応判定が目的であり、エビデンスの確立した治療法が対応しており、標準治療といえる。その治療が終了後に効果的な結果が得られない場合に、まだエビデンスレベルの高くない治療を検討することがある。その場合におこなう検査が「CGP検査(包括的ゲノムプロファイリング)」である。CGPは標準治療が終了あるいは終了見込みの段階でしか保険適応は認められていないし検査可能な施設も限られている。
CGP検査:包括的な遺伝子変異等のプロファイル取得が目的である。原則、標準的治療は存在せず、エビデンスレベルが高くない治療を検討する。
CGP検査実施の必要性については、2つある。1.CDxにおける偽陰性の可能性があること→保険診療下での分子標的薬・ICIを使用可能な可能性があること  2.新たなターゲット発見により→治験・臨床研究参加の可能性などを考えられることである。

オンコマインDxは46遺伝子を一度に検索できるが、感度が低いので腫瘍細胞割合が30%以上必要である。診断までに2週間以内。アンプリコアシーケンス法(NGS)で解析する。
肺癌コンパクトパネルDxは8遺伝子に絞っている代わりに高感度であり、腫瘍細胞割合は5%以上でよく、細胞診検体でも可能である。診断までに2週間以内。アンプリコアシーケンス法(NGS)で解析する。
AmoyDxは11遺伝子であるが、リアルタイムPCR法を用いており、比較的感度がよい(腫瘍細胞割合は20%以上)。診断まで1週間以内と結果が早い。
オンコマインDxの検査成功率は、2024年1月現在DNA98.7%、RNA96.5%と良好である。

各検査におけるコンパニオン診断の対象遺伝子と実際の運用

CDx 確定のためには、

  1. オンコマインDxTTで、METex14skipping 検出の場合、AmoyDx (マルチ検査)実施が必要
  2. オンコマインDxTTで、KRASG12C 検出の場合、TherascreenKRAS (シングル検査)実施が必要
  3. AmoyDxあるいはコンパクトパネルで、HER2 変異検出の場合、オンコマインDxTT (マルチ検査)実施が必要(マルチ検査の保険適用は原則 1 人患者につき1 回まで)・・・実施すれば費用の持ち出しとなる
    などの運用上の注意点がある。

感度、検出可能なvariantや未知の融合遺伝子などにより、どの検査でも見落としてしまうドライバー変異(偽陰性)が一定の割合で存在する。
肺癌においてCGP検査受けた患者(N=30826)を調査した報告では、検査後にエキスパートパネルの治療を推奨された患者は45%いたが、実際に治療に到達したものは9.4%しかいなかった。9.4%の患者のうち64.5%の患者は保険診療の範囲内で実施できる治療を選択していた。

CGP検査の比較(参考)

Liquid biopsyのメリットとデメリットについて

Liquidbiopsyのメリット

 低侵襲かつ繰り返しが可能な検体採取
 腫瘍不均一性を評価
 微小残存病変を検出や再発モニタリング
 治療効果のモニタリング

Liquidbiopsyのデメリット

 血中の循環腫瘍 DNA (ctDNA)量が少ないと検出できない可能性
 偽陰性が多い(特にfusion)
 クローン造血とがんに関わる遺伝子異常の鑑別が困難
 体細胞遺伝子異常と生殖細胞系列異常の鑑別不可

CGP 検査の実施状況と肺癌における今後の活用について

肺癌においては、診断時にCDx 検査がすでに実施されているが、CDx 検査ですべて陰性であっても、1) 偽陰性の可能性や、2) 9遺伝子以外を標的とした治験等に繋がる可能性があるため、CGP 検査を考慮すべきである。
LiquidによるCGP 検査は、偽陰性(特にfusion) が多いため、原則腫瘍細胞が採取できない、または腫瘍細胞 を用いたパネル検査で結果が得られな かった場合に実施すべきである。
→ 適応のある分子標的治療薬の恩恵を受けられない症例を最大限減らすことが重要である。

まとめ

・肺癌におけるコンパニオン診断は、いずれの検査法も高い臨床的有用性を有する。各検査毎に、必要な腫瘍量、コンパニオンとしての対象遺伝子、TAT、感度や検出可能なvariant が異なっており、各施設や患者の状況に合わせて選択することが望まれる。
・検体の適切な処理や腫瘍量の判定が重要であり、病理との連携が重要である。
・コンパニオン診断ですべて陰性であっても、偽陰性の可能性があること、治験等に繋がる新規の標的が見つかる可能性があることから、標準治療終了後のCGPを考慮すべきである。
・今後はゲノム医療中核拠点や拠点病院以外の連携病院でもエキスパートパネルが実施され ることから、より多くの臨床医のゲノム医療に関するリテラシーが求められる。
(他癌腫は別として、現状では少なくとも肺癌においては標準治療前にCGPを実施する優位性は高いとはいえない)

●喫煙と呼吸器感染症

琉球大学大学院医学研究科 感染症・呼吸器・消化器内科学講座(第一内科)
山本 和子先生

喫煙と呼吸器感染症のリスクについて調査した研究 (McGeoch LJ, et al. J Public Health 45:e621-629, 2023.)
イギリスで実施されたバイオバンクを利用した前向きコホート研究
40-69歳の慢性疾患のない登録者341352名を12年間追跡した。
登録者の約10%が喫煙者であった。
アウトカムは入院、死亡、ICD-10、ICD-9調査、インフルエンザ、他の呼吸器疾患、肺炎、COVID-19
結果:追跡期間中に発生した肺炎12,384名、肺炎以外の急性呼吸器感染症7,054名 、インフルエンザ795名で、
現喫煙者のすべての呼吸器感染症リスク約2倍、肺炎は2.4倍、インフルエンザ感染症リスク1.8倍であった。
1日喫煙量が増えるほど肺炎や他の呼吸器感染症を発症するリスクが高い。
禁煙によってリスクが低下するが、非喫煙者と同レベルになるには40年かかる。

COVID-19発症リスクが非喫煙者と同レベルになるには40年以上必要である。
2022年2月までの320研究のメタアナリシスによると、
喫煙者ではCOVID-19が重症化しやすい。入院1.16倍、重症化1.44倍 、死亡1.39倍。
その理由として、現喫煙者や進行したCOPD患者肺では ACE2受容体の発現が亢進していると報告された。

市中肺炎入院患者(n=4,288)>肺炎球菌肺炎患者(n=892)の死亡について検討された多施設前向き観察コホート研究では、
Current smokerは、肺炎球菌肺炎の死亡において、独立したリスク因子であることが示された。
オッズ比は5.0倍であった。
・なぜタバコを吸うと肺炎球菌肺炎が重症化するのか
喫煙者は血性IgG産生が不良となる。
喫煙者/COPD患者は、TLR2活性が低下する。
タバコに晒された肺胞マクロファージ は貪食能が低下する。
 *筆者補足)TLR2はグラム陰性細菌やいくつかのグラム陽性細菌のリポタンパク質に対する自然免疫応答の中心となるレセプターである

喫煙者の呼吸器感染症予防

成人市中肺炎2259例の市中肺炎の原因微生物を調査した研究では、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、肺炎球菌、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザ、コロナウイルス、マイコプラズマ、の順に多かった。ウイルス関与が27%である。(Jain S et al. NEJM 373(5):415-27.2015)
インフルエンザウイルス、肺炎球菌、RSウイルス、コロナウイルスにワクチン接種可能。
成人ではCOPD増悪例の22~64%で呼吸器ウイルスを検出する。ワクチン接種が重要である。
COPD患者にもコロナワクチンを連続接種 することで入院予防効果が高くなる。
インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを両者接種することで、慢性肺疾患患者の肺炎予防効果が顕著に高まる。
RSV感染症は日本の場合の推定で年間約70万人、入院は約6万人、死亡は約4500人と見込まれている。
60歳以上の基礎疾患を有する患者に接種を推奨する。(基礎疾患:慢性肺疾患、心疾患、脳血管疾患、腎疾患、糖尿病)

まとめ

喫煙は
 呼吸器感染症の発症リスク・重症化リスクを上昇させる
 呼吸器感染症に対する防御機構を破綻させる
喫煙者の呼吸器感染症予防対策は
 できるだけ早くの禁煙
 呼吸器感染症ワクチンの接種を推奨する

肺炎球菌肺炎の死亡 において、独立した リスク因子である

●新型タバコに関する諸問題

東京都医師会タバコ対策委員会アドバイザー 中央内科クリニック院長
村松 弘康先生

新型タバコによる呼吸器疾患

加熱式たばこによる急性好酸球性肺炎。ときには劇症型・重症型を発症する。
42歳まで喫煙しその後加熱式タバコに変更したところ急性好酸球性肺炎を発症したケースもある。
電子タバコに関連する肺障害をEVALIというが、2807名の報告があり68名が死亡している。
原因物質はVitamin E acetateと考えられている。食品添加物であるが、加熱吸入することにより毒性を発揮する。
食べられるものでも吸入で安全とは限らない。

PGやGlyは加熱でホルムアルデヒド等へ変化する。ホルムアルデヒドは発がん性の強い物質と指定を受けているものである。
電子タバコはホルムアルデヒドが少ないと謳っているが、実はホルムアルデヒド・ヘミアセタールというものが大量に含まれており、体内に取り込まれるとホルムアルデヒドになる!

加熱して蒸気化したリキッドのほうがより有害である。

肺胞に存在する免疫細胞のマクロファージをECLとECVCに24時間曝露すると用量依存的に生存率が低下していく。
→呼吸器感染症が増加していく理由の一つであろう。
リキッドに含まれるニコチンがマクロファージ障害を引き起こすことも判明している。

新型タバコでCOPDを誘発する。

ニコチンで肺に細胞浸潤・炎症・組織破壊を惹起することが動物実験で確かめられている。(Garcia-Arcos|etal.Thorax.2016Dec;71(12):1119-1129.doi:10.1136/thoraxjnl-2015-208039.)
電子タバコ使用でCOPDが3.17倍発症することが証明された。
電子タバコは肺内に好中球エラスターゼやMMPが増加することが知られているが、その程度は普通の紙巻きタバコと同レベルである。好中球エラスターゼとは好中球内に存在する蛋白分解酵素であり、通常は殺菌に使われるが多量になると組織破壊を引き起こす。
電子タバコには温熱するための加熱コイルが内蔵されているが、その加熱コイルから金属ヒュームが発生している。加熱前の金属ヒューム濃度を1とすると加熱により10倍から1000倍の量が発生していた(Thorax 2018;0:1–9. doi:10.1136)。金属ヒュームは塵肺の原因として知られており毒性が懸念される。公的機関が発がん物質として最近認定した。クロムを吸入すると喘息発症、皮膚障害、鼻中隔穿孔などの障害がしられているし、マンガンが神経障害やパーキンソニズムを発症させうる、鉛が神経障害や腎障害を起こす、など多彩な疾患を引き起こす可能性が判明してきた。

新型タバコの社会的な問題

カートリージが非常に小さくコンパクトになっている。その結果子供が誤飲しやすくなっている。加熱効率を上げるためにカートリッジ自体に金属片を内蔵したものが登場している。それに金属板で加熱してニコチンの染み出し効率を上げている。
タバコは小児誤飲の原因として不動の1位であるが、減少傾向であった。H25年に第2位となったが、翌年電子タバコが販売されて再び1位となっている。金属片内臓のカートリッジを誤飲すると喉や消化管を傷つけるため非常に危険である。
最近は大麻や覚醒剤入りの電子タバコも蔓延しており、違法薬物の温床となっている。したがって新型タバコを規制する国々が増加傾向であり、すでに40カ国以上で規制されている。日本はかなり遅れている。

新型タバコへの変更はハーム・リダクションになるのか

そもそもタバコを直接吸っていた事が相当の有害物質量だったのであって、10分の1になったから安心なわけではない。演者は「ビルの100階から飛び降りたときと10階から飛び降りたときで、10階は安全ですか?」と問いかけているとのこと。
「有害成分の量」と「有害性」は違うのである。

2020年にFDAはIQOASをMRTPs (Modified Risk Tobacco Products:リスク修飾(軽減)たばこ製品)として承認したが、認定内容には健康リスク低減と有害物質暴露低減の2つの種類があり、FDAが承認したのは後者のみである。安全性を認めたわけではない。
2019年にニコチン置換療法NRTよりも電子タバコECが禁煙に有効だったという論文が発表され話題となった。しかしデータをみると1年後の禁煙達成率はNRTが9.9%、ECが18%と非常に低い。演者らの施設では少なくとも70%は禁煙できていることから、この結果をもってECが優れているとはいえないであろう。また1年後にNRTを貼付している方はいなかったが、8割はECを継続していたので、依存がECに変わっただけとも言える。
日本ではNRTはパッチとガムしかないが、海外では舌下錠やインヘラーなどの即効性のある製剤もある。

●Year review in assembly 1 呼吸管理学術部会

小賀 徹先生

急性II型呼吸不全においても、HFNCは、全体的に効果的で安全であった。
HFNCは、COPDの急性増悪をおそらく減じて、慢性II型呼吸不全COPD患者の入院も減らすかもしれないが、死亡への影響は不確定である。
15人のARF(急性呼吸不全)患者に、HFNO、helmetNIV,helmetCPAP、をランダムに1時間ずつ実施したところ、
helmetinterface、特に、helmetNIVの有効性が示された。
急性I型呼吸不全において、
COVID-19に対して実施した、HFNC(181人)対酸素療法(181人)のランダム化比較試験
COVID-19による軽症呼吸不全に対する酸素療法において、HFNCは必ずしも有意に臨床経過を改善するわけではないので、ルーチンに使用するべきではない。

外来定期通院中の安定期成人喘息患者97人に簡易検査を実施したところ、
CPAP治療の併用で喘息の管理が改善する可能性があることがしめされた。

136人のCOPD患者(平均72.8歳、平均FEV65.8%)にタイプ3モニター(簡易検査)を実施し、REI=15以上のSAS疑いが30.1%認めた。
気流制限の進行や過膨張の進行は、無呼吸に対しては保護的に働く可能性がある

(rashiguchiviri,etal.PoPrimCareRespirmed2025)

まとめ

近年HFNCが、酸素療法とNIVの間を補完する形で普及 し、その有効性を示す研究が報告されてきた。
II型呼吸 不全においては、その有効性を確認 された。
一方で、I型呼吸不全においては、むしろ他の手法 の優越性を示す報告が出てきている。
2022年のFLOCOP試験に続き、2023年JaNP-Hi試験において、呼吸管理領域で重要なRCTの知見を世界に発信できたことは、大きな成果である。
SASにおいて、本邦の臨床研究として、喘息やCOPDにおける併存リスクの検証の結果が報告され、見過ごされがちなSASの認識の向上につながることを期待する。

●YearReviewinAssembly2 アレルギー・免疫・炎症学術部会

權寧 博先生

健康への影響に関して、Lung-function trajectoriesは、個人の健康状態と将来の健康リスクに大きな影響がある(Lancet2024)
•呼吸器の合併症: 肺の成長不足や機能低下は、呼吸器系の病気の発症や重症化に寄与する。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息などの呼吸器疾患のリスクが高まる。
•心血管疾患: 平均以下の肺機能は、心臓病や脳卒中などの心血管系の問題とも関連が ある。肺機能の低下は、心血管系への酸素供給の減少や全身的な炎症の増加により、 心血管リスクを高める可能性がある。
•代謝の問題: 糖尿病や肥満などの代謝疾患との関連も指摘されている。肺機能と代謝疾患との関連は、身体活動の低下や慢性的な炎症など、複数の機序による可能性がある。
•精神健康: 平均以下の肺機能は、うつ病や不安障害などの精神健康問題とも関連していることが示されている。これは、慢性的な健康問題が精神健康に悪影響を及ぼすことや、生活の質の低下に起因する可能性がある。

一般的な健康促進への早期介入

・生活習慣の改善: 喫煙の中止、定期的な運動、バランスの取れた食事などの生活習慣の改善は、肺機能の低下を防ぎ、健康的な肺機能軌跡を促進することができる。これらの改善は、特に若年層や肺機能が平均以下の個体において重要。
・環境因子の管理: 大気や室内気の質の改善、職場や家庭での有害な曝露の減少、アレルゲンの管理など、環境因子に対する介入も肺健康の促進に役立つ。
・予防接種: インフルエンザや肺炎球菌、RSウイルスワクチンなど、呼吸器感染症を引き起こす病原体に対する予防接種、特に高齢者や既存の肺疾患がある個人において、肺機能の保護と健康維持に寄与する。

肺の健康促進への早期介入

・喘息の管理: 早期診断と適切な治療計画により、喘息による肺機能の損失を防ぎ、長期的な肺の健康を維持する。薬物療法だけでなく、併存症やトリガーの回避
・COPDの早期介入: 喫煙者やCOPDの危険因子を持つ個人に対するスクリーニングと早期介入は、病気の進行を遅らせ、生活の質を向上させる。
・肺リハビリテーション: 運動訓練、栄養管理、呼吸法の指導などを含む肺リハビリテーションは、呼吸器疾患患者の身体機能と生活の質を向上させることができる。
結論:
呼吸機能機能の可塑性を理解し、個々人の肺機能軌跡に基づいた介入を行うことで、肺健康の促進と疾患の予 防が可能になる。早期介入は、特に肺機能が低下し始めた段階で効果的であり、将来的な健康リスクを減少さ せることが期待される。

皮膚、消化管、肺の上皮は様々なアレルギー疾患と関連があるとされている。

上皮バリア仮説

•上皮バリアと機能: 皮膚、消化管、気道の上皮は、宿主と環境の間の物理的バリアを形成し、ホメオスタシスの維持と免疫寛容の発達に寄与している。
・上皮バリア機能不全とアレルギー疾患: 上皮バリア機能不全は、アト ピー性皮膚炎、食物アレルギー、好酸球性食道炎、アレルギー性鼻炎、 慢性副鼻腔炎、喘息などのアレルギー性および炎症性疾患の発症に関係し、異常な免疫応答を誘導し、慢性炎症を引き起こす。
・上皮バリア機能不全の原因: 産業化、都市化、現代生活に伴うエクスポソームの変化(環境への暴露)、微生物叢との相互作用、遺伝的お よび表現型的特性が主要因。*エクスポソームはヒトの生涯にわたる曝露の総量を表す概念であり,一般外的要因 (教育,精神的ストレスなど)・内的要因 (ホルモン・体型など)・特殊外的要因 (食事・化学物質など) に大別される。
・異なる臓器の上皮バリア機能不全の関係:「アレルギーマーチ」は、 多くの場合、アトピー性皮膚炎から始まり、食物アレルギーや喘息などの他のアレルギー性疾患へと進行するプロセスを指すが、上皮バリア機能不全が複数の器官に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。
・治療のターゲットとしての上皮: TSLP、IL-33、IL-4/IL-13などのサイトカインを標的とした生物学的製剤が、上皮バリア機能の修復とアレル ギー性疾患の治療に有効であることが示されている。

エクスポゾームと上皮バリア仮説 Allergy. 2022 May;77(5):1418-1449.

•上皮バリア仮説: 近年、これらの環境因子がアレルギー性および自己免疫疾患の急速な増加を説明す るメカニズムを提供する上皮バリア仮説が提案されている。
・食生活の変化と環境物質の影響:食生活の変化、特に増加した飽和脂肪酸の消費や環境物質(洗剤、 大気中の花粉、オゾン、マイクロプラスチック、ナノ粒子、タバコなど)が上皮バリアに与える影響についても議論されている。これらの要因は、上皮バリアを破壊し、アレルギー性疾患の発症 に寄与することが示されています。
論文では、これらの環境的脅威を軽減し、アレルギー性疾患を減少させるために、政府規制の厳格化、グローバルポリシーの調整、患者教育、および個別化された制御対策の確立を提案している。

花粉症は地球温暖化で過酷になる 

2022年3月15日付けで学術誌「NatureCommunications」に発表された研究によれば、米国で飛散する花粉の量は、気候変動により 2100年には40%まで増えるおそれがあるという結果が導き出された。 飛散は最大で40日早く始まり、19日長く続くという。
過去の傾向を調べた既存の研究によれば、北米では30年前と比べ て、花粉の飛散がすでに平均20日早く始まり、8日長く続いており、 空気中に放出される花粉の量は20%増えている。

アレルゲンに気道上皮が暴露すると、アセチルコリン受容体(M3R)を介してアセチルコリンが気道粘膜に作用してIL-33やAchを分泌しType2炎症を惹起する。

気道に存在するタフト細胞にライノウイルスを感染させるとILC2が増殖することが判明している。
*tuft細胞:タフト(tuft)細胞.刷子細胞ともよばれ,気管や小腸,胃などの消化管の上皮細胞中に存在するごくわずかな細胞.これまでほとんど機能が明らかとなっていなかったが,近年徐々にその機能が解明されはじめた.
テゼペルマブは、ウイルス免疫を抑制しないでType2サイトカインのみ低下させる。
ベンラリズマブ Lancet. 2024 Jan 20;403(10423):271-281.
92%の患者がICSの高用量から減量を達成でき、そのうち60%以上がasneededリリーバー使用に減量できた。
ICSを大きく減量したにもかかわらず、治療減量群の87%以上の患者が48週目まで増悪がなく経過した。
この臨床研究は、薬物の減量と臨床的寛解との関係を前向きに評価し、生物製剤使用下において、 48週目には薬物を減量した患者の半数以上が臨床寛解の定義を満した。

Dipeptidyl peptidase 1 inhibition as a potential therapeutic approach in neutrophil-mediated inflammatory disease
DPP1阻害は好中球性炎症性疾患を抑制する可能性がある。→治療薬としてのターゲットであり、世界中で研究されている。
Brensocatib(ブレンソカチブ)はDPP-1阻害薬であるが現在Phase 2 studyが進行しているが、気管支拡張症患者の急性増悪頻度を有意に減少させている。

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