2024年4月5日から7日の期間、パシフィコ横浜にて 第64回日本呼吸器学会学術講演会 が
開催されました。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
目次
こちらの記事は以下の内容が書かれています。
非結核性抗酸菌症診療の手引き 2023 改訂
中川拓 先生
肺MAC症の治療に関する推奨(2023年改訂)
- マクロライドを含む多剤併用療法
- 推奨度: Strong
- 確実性: Very low
- アミノグリコシド(AMK/SM)
- 適応: 空洞例や重症例では初期から併用
- 推奨度: Conditional
- 確実性: Moderate
- 吸入AMK(ALIS)
- 適応: 6ヶ月以上ガイドライン治療失敗例に併用
- 推奨度: Strong
- 確実性: Moderate
NTM治療薬の保険適応
- AZM、AMK、IPM/CS、CFZ(クロファジミン)
- 保険適応なしだが、審査事例承認により臨床応用が可能
- ALIS(アミカシン吸入)
- 適応: 難治性肺MAC症のみ
- IPM/CS、CFZ
- 適応: M. abscessus のみ
NTMに対する薬剤感受性試験
適切な方法で菌腫ごとに実施することが重要
- 比率法: 結核菌
- ブロスミックSGM: 遅発育抗酸菌(SGM)
- 対象: M. avium、M. intracellulare、M. kansasii など
- ブロスミックRGM: 迅速発育菌(RGM)
- 対象: M. abscessus species など
感受性結果が治療有効性予測に利用できるもの
- MAC / M. abscessus におけるマクロライド・AMK
- M. kansasii における RFP
耐性の判定基準
- 注射用AMK: MIC ≥ 64 μg/mL → 耐性
- ALIS: MIC ≥ 128 μg/mL → 耐性
- AZM: CAMのMICで感受性を代用
治療開始時期(2023年改訂)
- 診断確定は治療開始の必要条件だが十分条件ではない
- **軽症の結節・気管支拡張型(空洞なし)**では、個別に慎重に判断
- 喀痰抗酸菌塗抹陽性 / 空洞ありの場合は治療開始を推奨(2020国際ガイドライン)
- 治療の要否判断:
- 忍容性、基礎疾患、画像所見の推移、菌種などを考慮
- できるだけ過去の画像と比較する
- 治療の説明:
- 患者へ十分な説明(治療の理由・薬剤・副作用・期間・再発リスク・手術適応など)
肺MAC症の標準治療
1. 空洞なし(重症を除く)
- 治療法:
- CAM or AZM + EB + RFP
- 連日 or 週3日投与
2. 空洞あり / 重症
- 治療法:
- CAM or AZM + EB + RFP(連日投与)
- + SM or AMK を初期より併用
3. 難治例(6ヶ月以上治療しても効果不十分)
- 治療法:
- ALIS or AMK or AZM 併用
- 手術: 空洞あり・重症・難治例では適宜考慮
⚠ RFPの副作用・相互作用が懸念される場合
- RFPを除く or 減量を検討
間欠的治療(週3日投与)
- 対象: 空洞のないNB型肺MAC症(重症除く)
- メリット:
- 副作用が少ない(EB中止率が低い)
- 軽症例では連日治療と効果がほぼ同等
- A法(連日投与)と B法(間欠法)の違い:
| 治療法 | CAM / AZM | EB | RFP |
|---|---|---|---|
| A法(連日) | CAM 800mg or AZM 250mg | 750mg(10-15mg/kg) | 600mg(10mg/kg) |
| B法(週3日) | CAM 1000mg or AZM 500mg | 1000mg(20-25mg/kg) | 600mg |
マクロライド耐性化防止
- CAM or AZM は肺MAC症のキードラッグ → 耐性化すると治療困難
- EBを含むレジメンが耐性化抑制に有効(EB継続が重要)
- 視神経障害のリスク:
- 間欠的治療では発生しにくい
- 低用量EB(12.5mg/kg/day以下)は視神経障害が少ない
RFPの位置づけ
- 副作用が多い(肝障害、胃腸障害、発疹、血小板減少など)
- 薬物相互作用が多い(併用薬の確認が必須)
- CAM の血中濃度を低下させる(RFP併用時はCAM 800mg/日が望ましい)
- 2剤治療 vs. 3剤治療:
- 2020ガイドライン: マクロライド耐性増加を懸念し 3剤治療を推奨
- 日本の2023年改訂: 高齢者などでは 2剤治療も選択肢
再発・再感染
- NB型(結節・気管支拡張型)は再感染が多い(82%が再感染)
- 喀痰培養陰性化後、最低12ヶ月の治療が推奨
- 治療期間:
- 15ヶ月未満: 80%再発
- 15ヶ月以上: 55%再発
- 18ヶ月以上: 死亡率が低下
アミノグリコシド(AMK / SM)
- 推奨対象:
- 空洞あり
- 重症の結節・気管支拡張型
- マクロライド耐性肺MAC症
ALIS(アミカシンリポソーム吸入液)
- 6ヶ月後の培養陰性化率:
- 標準治療のみ: 8.9%
- ALIS 併用群: 29%(有意に高い)
- 重大な副作用:
- 過敏性肺臓炎、気管支痙攣、聴力障害、腎障害など
- 発声障害対策: 休薬、隔日投与、吸入後の温湯うがい、トローチ使用
肺 Mycobacterium abscessus 症治療の発展
― 成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解(2023年改訂)からの展望 ―
藤原啓司 先生
NTMの疫学
- 非結核性抗酸菌症(NTM)は年々増加
- 2020年時点の罹患率: 10万人あたり19.2人
- 肺NTM症の菌種割合(2020年)
- MAC(92.9%)
- M. avium: 62.0%
- M. intracellulare: 30.9%
- M. abscessus(2.8%)
- M. kansasii(2.3%)
- MAC(92.9%)
M. abscessus の亜種と治療反応性
M. abscessus には 3 つの亜種が存在
- subsp. abscessus
- subsp. massiliense
- subsp. bolletii(頻度 0-3% と稀)
治療反応性の違い
- subsp. abscessus: 喀痰陰性化率 25-45%(低い)
- subsp. massiliense: 喀痰陰性化率 72-88%(高い)
マクロライド耐性化の違い
- subsp. abscessus: 80-90% がマクロライド耐性
- subsp. massiliense: 80-90% がマクロライド感受性
マクロライド耐性機序
- erm(41)遺伝子の活性化(薬剤標的部位のメチル化)
- rrl 遺伝子(23S rRNA)の変異
亜種ごとの特徴
- subsp. abscessus: erm(41)遺伝子が活性化 → マクロライド耐性化
- subsp. massiliense: erm(41)遺伝子が欠失 → マクロライド感受性
- 一部の abscessus(T28C sequevar 変異) → マクロライド耐性を示さない
亜種の同定方法
- 標準的な質量分析法(MALDI-TOF-MS)では同定不可能
- 保険適応の検査なし → 専門施設に依頼(大阪大学・感染症研究所など)
- MIC 測定は国際基準で可能(ブロスミックRGM®)
- 14種類の薬剤のMIC 測定が可能(培養3日目で判定)
- ただし CAM/AZM は培養14日目に最終判定(耐性誘導の確認のため)
クラリスロマイシン(CAM)の MIC 測定による予測
| 3日目の CAM 感受性結果 | 14日目の判定 | 予測される遺伝子変異・亜種 |
|---|---|---|
| 耐性 | ー | rrl遺伝子変異(耐性) |
| 感受性 | 感受性 | erm(41)欠失 or T28C sequevar(多くは massiliense, 一部 abscessus) |
| 感受性 | 耐性 | erm(41)活性化(abscessus) |
肺 M. abscessus 症の治療戦略
- 肺 MAC 症とは異なり、初期治療は
「点滴 + 経口抗菌薬の併用」(4週間以上の強化期間) - その後、経口抗菌薬による維持期間へ移行
- 菌陰性化後 12ヶ月以上の治療を推奨(肺 MAC 症と同様)
ATS/ERS/ESCMID/IDSA(2020)国際ガイドライン
1. マクロライド感受性ありの場合
- 強化期間: マクロライドを含む 3 剤以上の併用療法
- 維持期間: 2 剤以上
2. マクロライド耐性の場合
- 強化期間: マクロライドを除く 4 剤以上(ただし免疫調整機能を期待して併用は可)
- 推奨薬剤
- 点滴: AMK、IPM、TGC(チゲサイクリン)
- 経口: AZM、CLF(クロファジミン)、LZD
- 維持期間: ALIS も考慮
日本の見解(2023年改訂)
1. マクロライド感受性ありの場合
- 強化期間: 点滴 + 経口抗菌薬 3 剤以上併用
- 維持期間: 2 剤以上併用
- 推奨薬剤: IPM、AMK、AZM、CLF(または STFX)
2. マクロライド耐性の場合
- 強化期間: IPM、AMK、AZM(※薬剤数に数えない)、CLF、STFX?、LZD?
- 基本的に専門施設に依頼する
- 外来での安易な治療導入は避ける → 点滴を含む強化治療が必須
クロファジミン(CLF)の重要性
- AMK 耐性化予防 + AMK・CAM との相乗効果
- 強化期間から導入が推奨(定常状態到達に約 6 ヶ月必要)
- 副作用: 皮膚着色・QT延長(心電図モニタリングが必要)
- CLF + シタフロキサシン併用 → QT延長リスク増大 → 定期的な心電図確認を推奨
外科治療の有効性
- 耐性例に特に有効
- システマティックレビュー(15研究, N=1071)
- 喀痰培養陰性化: 93%
- 再発: 9%
- 術後合併症: 17%
- 藤原先生の施設データ(N=33)
- 喀痰培養陰性: 94%
- 再発: 7%
- 無再発率: 96%(1年)、96%(3年)、80%(5年)
実臨床での注意点
- 細菌学的要因: コロニー性状、CAM 感受性、T28C sequevar の有無
- 臨床的要因: 年齢、肺 NTM 既往、空洞性病変の有無
- MAC 抗体は abscessus で偽陽性が多い(約 50%) → 菌株の確認が重要
まとめ
✅ 肺 M. abscessus 症は増加傾向の注意すべき肺 NTM 症
✅ 適切な MIC 測定を行い、マクロライド感受性に応じたレジメンを選択
✅ 経口抗菌薬のみの治療導入は避ける
✅ クロファジミン導入をためらわない
✅ 特にマクロライド耐性例では早期の外科的治療を検討
潜在性結核感染症(LTBI)の治療 ― 2剤併用療法の実際
武田啓太
潜在性結核感染症(LTBI)の定義
LTBI(Latent Tuberculosis Infection)とは?
- 臨床的に活動性結核を発症している証拠はないが、結核菌抗原による免疫反応が持続している状態
結核の感染と発病の流れ
- 結核菌に暴露
- 25-50%が感染成立(LTBI)
- 発病のリスク
- 5-40%が初感染発病
- 発病しなかった 95-60%は LTBI の状態で維持
- 内因性再燃(免疫低下時の再発)
- 2-23%が発病
LTBI治療の重要性
- 結核制圧のために LTBI の治療は不可欠
- 2021年10月18日、「結核医療の基準」の一部改正
LTBI の治療レジメン(2021年改訂)
原則として以下の 2 つの選択肢
- INH単剤療法(6ヶ月間、必要に応じて最大9ヶ月間)
- INH + RFP の 2 剤併用療法(3-4ヶ月間)
RFP単剤療法(4ヶ月)を考慮する場合
- INH が使用できない場合、または副作用の懸念がある場合
INH が使用できないケース
- 感染源が INH 耐性の場合
- INH による副作用が発生した場合
- INH のアレルギー歴がある場合
- INH と相互作用を有する薬剤が必要な場合
- 例: フェニトイン・カルバマゼピン(INH により代謝阻害 → 血中濃度上昇 → 中毒のリスク)
2剤併用療法(INH+RFP)の特性
| 比較項目 | INH 単剤療法 | INH+RFP 2剤併用療法 |
|---|---|---|
| 治療効果 | 同等 | 同等 |
| 有害事象 | あり | INH 単剤より少ない傾向 |
| 肝障害発生率 | あり | INH 単剤と同等 |
| 投与中止に至る有害事象 | RFP単剤の方が少ない | – |
患者背景による薬剤選択
- 併存疾患や併用薬の影響がない場合
→ INH + RFP(3-4ヶ月) - 薬剤相互作用がある場合
→ INH 6-9ヶ月 or RFP 4ヶ月
RFP と相互作用のある主な薬剤
| 薬剤分類 | 影響・対応策 |
|---|---|
| 副腎皮質ステロイド | 増量が必要(PSL 2-3倍、デキサメサゾン 5倍) |
| 免疫抑制剤 | 血中濃度測定・調整が必要 |
| 抗HIV薬 | 併用禁忌が多い |
| DOAC(直接経口抗凝固薬) | AUC 35-66%減少(効果低下) |
| ワルファリン | 2-6倍に増量が必要 |
LTBI治療と高齢者
- 高齢者でも LTBI 治療は若年者同様に実施可能
- ただし、高齢者の治療に関するデータはまだ限られている
Q & A
Q1. 2 剤併用療法の 3ヶ月と 4ヶ月の使い分けは?
A.
- 明確な使い分けの基準はない
- 免疫抑制状態がない場合は 3ヶ月で十分
Q2. 単剤療法と 2 剤療法で治療期間に大きな差がないようだが、耐性化を懸念して 2 剤を選択すべきか?
A.
- その通り。耐性化防止のために 2 剤併用療法が推奨される
まとめ
✅ LTBI 治療は結核制圧のために不可欠
✅ 標準治療は INH 単剤(6-9ヶ月) or INH + RFP(3-4ヶ月)
✅ RFP単剤(4ヶ月)は INH が使用できない場合に考慮
✅ 2剤併用療法は INH 単剤と治療効果が同等で、有害事象が少ない
✅ 薬剤相互作用を考慮し、適切な治療レジメンを選択する
◆共同企画10 (日本臨床内科医会)
呼吸器感染症に対する新規ワクチンへの期待 ― ワクチン接種向上の取り組み
宮崎 泰可 先生
RSウイルス感染症(RSV)とは
- 乳幼児期だけでなく、高齢者においても入院や予後不良のリスクが高い感染症
- 生涯を通じて繰り返し感染
- 2歳までにほぼ100%が RSV に感染
- 自然感染後の免疫応答は不完全 → 再感染が頻繁に起こる
年齢層ごとの RSV 感染
- 小学生~成人期: 風邪症状のみで軽症
- 高齢者: 重症化のリスクが高い
高齢者における RSV 感染症の負担
- 高齢者のインフルエンザ様症状の原因
- 1位: インフルエンザウイルス
- 2位: ライノウイルス
- 3位: RSV(全体の約 10%)
- 市中肺炎の原因微生物(演者らの研究)
- 細菌: 肺炎球菌(44%)、インフルエンザ菌(24%)、黄色ブドウ球菌(11%)、クレブシエラ(9%)
- ウイルス: ライノウイルス(43%)、ヒトメタニューモウイルス(18%)、インフルエンザA(14%)、RSV(10%)
RSV感染症の臨床的特徴
- 潜伏期間: 4~5日
- 罹患期間: 6~8日(上気道・下気道炎)
- 経過:
- 70%: 上気道炎のみで治癒
- 30%: 下気道炎へ進行 → 治癒に時間がかかる
- インフルエンザと比較
- 発症が緩やかで潜伏期間が長い
- 下気道炎を発症すると回復が遅れる
成人の RSV vs. インフルエンザ(フランス 2017-2019)
| 合併症 | RSV | インフルエンザ |
|---|---|---|
| 呼吸不全 | 31% | 16% |
| 急性心不全 | 15% | 8% |
| ARDS(急性呼吸窮迫症候群) | 9% | 7% |
| 入院期間・ICU 入室・人工呼吸器管理率 | RSVの方が高い | – |
(参考: Descamps A, et al. Eur Respir J 2022)
RSV感染症の重症化リスク
- 高リスク群:
- 60歳以上の高齢者
- 基礎疾患(COPD、喘息、糖尿病、心疾患、免疫機能低下)
- RSV感染による年間入院率比(健常者 vs. 基礎疾患あり)
| 疾患 | 入院リスク比 |
|---|---|
| 喘息 | 2.0 ~ 3.6 |
| COPD | 3.2 ~ 13.4 |
| 糖尿病 | 2.4 ~ 11.4 |
| 冠動脈疾患 | 3.7 ~ 7.0 |
| うっ血性心不全 | 4.0 ~ 33.2 |
COPD患者に対するワクチン接種の推奨
アメリカ CDC の推奨エビデンスレベル(COPD患者)
| ワクチン | エビデンスレベル |
|---|---|
| インフルエンザウイルス | B |
| COVID-19 | B |
| 肺炎球菌 | B |
| 百日咳 | B |
| 帯状疱疹 | B |
| RSVワクチン | A(最も推奨) |
RSウイルスのウイルス学的特徴
- ニューモウイルス科の一本鎖マイナス鎖 RNA ウイルス
- A / B 2つのサブタイプが存在
- 細胞表面の主要タンパク質:
- Fタンパク質(ウイルス侵入に必須)
- Gタンパク質(気道の線毛細胞を標的)
RSVワクチンの現状
現在の RSVワクチン(2種類)
- アレックスビー®: 一価ワクチン(アジュバントあり)
- アブリスボ®: 二価ワクチン(アジュバントなし)
アレックスビー®(効果)
- RSV関連下気道感染症の発症抑制効果(17.8ヶ月時点のデータ)
- 1回接種群: 感染症全体 67.2% 低下 / 重症感染症 78.8% 低下
- 再接種群: 感染症全体 67.1% 低下 / 重症感染症 78.8% 低下
- 1回接種と2回接種の効果・安全性は同等
アブリスボ®(効果)
- 妊婦接種 → 新生児・乳児のRSV下気道感染予防(母子免疫)
- 2024年3月26日: 60歳以上のRSV感染症予防適応が追加
- RSV症状発現率の低下
- 2つ以上の症状: 66.7%減少
- 3つ以上の症状: 85.7%減少
- 副作用:
- 局所反応: 疼痛、発赤、腫脹
- 全身反応: 倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛(プラセボと同等)
ワクチンの効果(60歳以上の100万人接種時)
(ACIP, 2024年2月29日報告)
| 指標 | 低減効果 |
|---|---|
| 外来受診者数 | 2万人以上減少 |
| 入院患者数 | 2000人以上減少 |
| ICU 入室 | 約 500人減少 |
| 院内死亡 | 120~140人減少 |
| ギラン・バレー症候群発症リスク | 100万人あたり約 5 例 |
RSVワクチンの今後の課題
- 乳幼児だけでなく、高齢者における疾病負担が大きい
- ワクチン接種対象は 60 歳以上全員ではなく、高リスク群(COPD・心疾患・糖尿病など)に重点を置くべき
- RSV検査の普及が進んでいないため、臨床現場での実感が薄い
- COPDなどの基礎疾患増悪予防効果のエビデンス確立が必要
- 2種類のワクチンの使い分け・接種タイミングの最適化
- ワクチン費用が高額 → 自治体の補助制度の検討が必要
粘膜免疫システムを基盤とした有効で安全・安心なワクチン研究開発
清野 宏 先生
1. 新規ワクチン創出に向けた研究体制
- 東京大学をフラッグシップ拠点とし、北海道大学、千葉大学、大阪大学、長崎大学が共同研究を進めている
- 千葉大学は「粘膜免疫」と「粘膜ワクチン」の創出・導出を目指し研究開発を推進
2. COVID-19パンデミックから学んだ粘膜免疫の重要性
- mRNAワクチンは全身免疫を誘導し、血清IgG抗体の産生により重症化を阻止
- しかし、感染自体の防御は不十分
- 理由:
- SARS-CoV-2は呼吸器粘膜から侵入するが、注射型ワクチンでは粘膜免疫が誘導されにくい
- 対策:
- 侵入口である粘膜に抗体を誘導すれば感染阻止が可能ではないか?
- 粘膜免疫システム(口腔・鼻咽頭・呼吸器・消化器・泌尿生殖器)を活性化すれば病原体の侵入を防げる
3. なぜ経鼻ワクチンなのか?
- 粘膜面での免疫応答を誘導し、分泌型IgA抗体を鼻・肺の分泌液中に誘導可能
- 感染・伝播の阻止が期待できる
- 全身にもIgG抗体を誘導し、重症化予防が可能
- 2段構えの免疫効果を発揮できる
- 投与方法:
- 経鼻スプレーデバイスを使用 → 注射と違い痛み・不安がない
4. これまで粘膜ワクチンがなかった理由
- 粘膜面の特殊なバリア機構により、ワクチンが届きにくい
- 粘膜繊毛クリアランス: 粘液は10-15分おきに入れ替わる → 異物が排除される
- タイトジャンクション: 粘膜細胞同士が強固に結合 → 抗原の浸透が困難
- 粘膜粘液中の酵素(プロテアーゼ、アミノペプチダーゼなど) → ワクチンを分解してしまう
解決策:
✅ カチオン化ナノゲル(cCHPナノゲル)を開発
✅ 粘膜面に持続付着し、抗原を徐放的に粘膜免疫系へ効率よく送達可能
5. 経鼻ワクチンの研究成果(肺炎球菌ワクチン)
- 肺炎球菌抗原 PspA を封入したカチオン化ナノゲルをマウスに経鼻投与
- 結果:
- 血清IgG、鼻腔洗浄液中IgAの産生を確認(免疫誘導成功)
- 肺炎球菌感染試験:
- コントロール群: 全例肺炎を発症し死亡
- 免疫誘導群: 全例生存 → 肺炎球菌感染を防御
- 非ヒト霊長類(カニクイザル)を用いた試験も実施
- 経鼻免疫群は肺炎の発症を抑制(軽症 or 無症状)
- ヒト用デバイス開発も共同で進行中
6. RSV(RSウイルス)経鼻ワクチンの開発
RSV感染症の重要性
- 乳幼児・小児の下気道感染症・入院の主因
- 高齢者やハイリスク集団の入院・死亡リスクを高める
- 現行のRSVワクチンは注射型 → 感染阻止・伝播阻止が不可能
✅ 経鼻ワクチンの開発が必要!
7. 新規 RSV 経鼻ワクチンの研究成果
- RSV表面タンパク質:
- Gタンパク質: 気道への接着
- Fタンパク質: 細胞侵入に必要
- SHタンパク質: 抗体依存性細胞傷害(ADCC)を介して感染防御
✅ SHe-PspA キメラ抗原を開発(SHとPspAを結合)
✅ カチオン化ナノゲル内に封入し、アジュバントあり・なしで評価
結果:
- SHe特異的抗体価の増加(血清IgG、鼻腔洗浄液中IgA)
- アジュバントありでさらに増強
- SHe特異的 GZMB(グランザイムB)、IFN-γ 産生細胞を誘導
- RSウイルス感染試験(経鼻 vs 注射ワクチン)
- 肺: 両者ともウイルス増殖を抑制
- 鼻腔: 経鼻ワクチンのみウイルス抑制(注射型ワクチンは効果なし)
- FcγRノックアウトマウスではウイルス量を制御できず → ADCC による RSV 排除を証明
安全性検証(VEDの評価)
✅ RSV感染後のワクチン誘導性アレルギー性気道炎症(VED)が誘導されないことを証明
✅ Th2サイトカイン誘導なし / 肺洗浄液中の好酸球増加なし / 肺組織への好酸球浸潤なし → VED発生なし
8. 粘膜ワクチンの今後の展開
- RSVだけでなく、季節性インフルエンザ、COVID-19、中耳炎、COPD に対しても研究を進めている
- 新たに「米(コメ)型の経口ワクチン」も開発中
- 消化管感染症、および可能なら呼吸器感染症にも応用を検討
9. Q & A
Q. なぜ粘膜免疫では IgA が強く誘導されるのか?
A.
- 粘膜には「粘膜関連リンパ組織(MALT)」が存在
- 輸出リンパ管はあるが、輸入リンパ管がない → 抗原は粘膜面からしか侵入できない
- そのため、局所で IgA 産生する B 細胞のみが積極的に誘導される
- 注射型ワクチンでは、粘膜面に抗原が到達しないため免疫応答が誘導されない
まとめ
✅ 粘膜免疫を活用した経鼻ワクチンが感染阻止に有効
✅ カチオン化ナノゲル技術により、粘膜面への抗原送達が可能に
✅ RSV、肺炎球菌、COVID-19、インフルエンザなどの経鼻ワクチンを開発中
✅ 粘膜免疫研究を基盤に、経口ワクチン(コメ型)も開発へ
