2024年4月5日から7日の期間、パシフィコ横浜にて 第64回日本呼吸器学会学術講演会 が
開催されました。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
目次
こちらの記事は以下の内容が書かれています。
◆シンポジウム4 びまん性肺疾患 治療のトピックス
- ●S4-1抗MDA5抗体陽性間質性肺炎の多様性と治療戰略
金沢大学附属病院呼吸器内科 渡辺知志先生 - ●S4-2肺胞蛋白症における新たな標準的治療法 GM-CSF吸入療法
杏林大学呼吸器内科学 石井晴之先生 - ●S4-3最近の知見を基にして過敏性肺炎の治療を考える。
東京医科歯科大学呼吸器内科 立石知也先生 - ●●S4-4間質性肺疾患における緩和医療
浜松医科大学内科学第二講座 藤澤朋幸先生
◆特別報告3
- ●新型タバコに関する諸問題
現代の喫煙と呼吸器疾患 ~加熱式タバコへの警鐘〜
東京都医師会タバコ対策委員会アドバイザー 中央内科クリニック院長 村松弘康先生 - ●喫煙と呼吸器感染症
琉球大学大学院医学研究科 感染症・呼吸器・消化器内科学講座(第一内科) 山本和子先生
◆シンポジウム4 びまん性肺疾患 治療のトピックス
●S4-1抗MDA5抗体陽性間質性肺炎の多様性と治療戰略
渡辺知志先生
·抗MDA5抗体陽性間質性肺炎 概要
·抗MDA5抗体陽性間質性肺炎の多樣性
·急速進行性、亜急性、慢性、無症候性
·皮疹主体、間質性肺炎主体
・急速進行例に対する治療戦略
・筋炎の分類
各病態における自己抗体が発見され、最近では自己抗体で分類される。
抗MDA5抗体
皮膚筋炎に特異的な自己抗体
臨床的無筋症性筋炎(CADM)に多く認める。
特徴的な皮疹を有することが多い。
高頻度に急速進行性間質性肺炎を合併する。
皮疹は物理的刺激の受けやすい部位に出やすい(ケブネル現象)。
滲出性紅斑、紫斑、潰瘍化の傾向がみられる。
ゴットロン兆候・丘疹:手指関節、肘、膝関節の伸側、耳介に盛り上がりはない紅斑(=ゴットロン徴候)、手指関節の外側に表面がかさかさして盛り上がった紅斑(ゴットロン丘疹)
逆ゴットロン徴候:手のひらにまるで鉄棒でもしたようなマメ様の皮疹ができる
ヘリオトロープ疹:上まぶたのうす紫色の発疹
Vネック兆候・ショール兆候 掻いたあとに線状の紅斑が見られる。
・胸部画像所見
下葉優位、胸膜に接するように分布
収縮傾向やいびつな形態を伴う浸潤影、すりガラス陰影
重症例では縦隔気腫をきたすことがある。
物理的な刺激を受けやすい部分に発生し易い。
・ 筋炎関連ILD治療アルゴリズム
急性または亜急性の場合
高用量PSL + 免疫抑制剤単剤
抗MDA5抗体陽性と判明したら、三者併用療法に切り替える PSL、IVCY、TAC
・バイオマーカー
抗MDA5抗体とフェリチン値は生存例で全例低下したが、死亡例では上昇した。
抗MDA5抗体陽性ILD急性は初期治療で深い寛解に入ると、再燃することは少ない。
抗MDA5抗体陽性間質性肺炎の多様性
·急速進行性、亜急性、慢性、無症候性
·皮疹主体、間質性肺炎主体
多彩な画像所見
フランスからの報告では、121例の抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎をクラスター解析したところ、3つのクラスター(3つのサブタイプ)に分けられた。
cluster1: RP-ILD(急速進行性間質性肺炎)cluster、機械工の手、ILD100%合併、うちRP-ILD93%、死亡率80%
cluster2: Rheumatoid cluster、女性82.6%、関節炎82.6%、ILD82.6%合併、RP-ILD 17.4%、死亡率0%
cluster3: vasculopathic cluster、男性72.7%、レイノー現象81.8%、皮膚潰瘍77.3%、指の壊死31.8%、石灰沈着 22.7%、近位筋力低下68.2%、ILD50%、RP-ILD22.7%、死亡率4.5%
急速進行性間質性肺炎を以下に救命するかが重要な課題である。
抗MDA5抗体陽性間質性肺炎の予後不良因子(2つの論文から)
抗MDA5抗体陽性、60歳以上、CRP1mg/dL以上、SpO2<95%
抗MDA5抗体陽性、CRP0.8mg/dL以上、KL-6 1000以上
これらの因子があれば早期治療開始が望ましい。
・免疫グロブリン療法(IVIG)
ステロイドが効果不十分の例に対する筋力低下の改善効果。ILDに対するエビデンスなし。
自己抗体の中和、自然免疫·獲得免疫細胞の活性化の抑制などが期待される。
・血漿交換
自己抗体や炎症性サイトカインの除去効果が期待される。ILDに対するエビデンスなし。
急速進行例、重症例に対し、早期(2週間以内)に開始するのが望ましい。
・JAK阻害薬(tofacitinib)
ステロイド+タクロリムス VS ステロイド+tofacitinibでは、生存率40% VS 60%。
tofacitinibが有意に生存率を改善した。
ただしJAK阻害薬はウイルス感染、CMV感染、真菌感染、帯状疱疹などの感染症の合併が多い。
Q and A
Q 抗MDA5抗体はウイルス感染とどこまで関連するのか
A 演者らはコロナウイルス感染者について測定したが、何例か上昇していた。感染症の収束とともに低下した。もしかしたら抗MDA5抗体価が低下しない症例が急速進行性間質性肺炎になるのかもしれないが、現時点でははっきりしたことは言えず他のウイルスでも検討は必要である。
Q 慢性例あるいはOPの症例では、抗MDA5抗体陽性例は3剤併用投与か2剤か。
A 以前はすべて3剤併用していたが、最近は抗MDA5抗体価が治療後も変化しない例なども見受けられる。
コメント:強力に3剤併用するといずれの薬剤もTリンパ球がターゲットでありウイルス感染に極端に弱くなる。経過がよいと思われた症例が再増悪した場合間質性肺炎の増悪にみえるが、サイトメガロなどのウイルス感染症による死亡の可能性もある。なので、強力に治療するときは早期からすべきであろうと考えている。
●S4-2肺胞蛋白症における新たな標準的治療法
GM-CSF吸入療法
石井晴之先生
GM-CSFノックアウトマウスはPAPを発症し死亡することが発見されてから、研究が進んだ。
その後新潟大学中田光教授により、抗GM-CSF中和抗体が発見された。
GM-CSFはマクロファージに発現するレセプターに結合するとマクロファージが活性化されるが、抗GM-CSF自己抗体(中和抗体)によりGM-CSFが中和されると、マクロファージの貪食能が低下し、サーファクタントプロテインAやホスファチジルコリンの肺内での吸収・分解が著しく低下しPAPを発症する。
肺胞マクロファージの障害パターンからPAPの病型は3つに分類される。
Mファージの活性化経路:GM-CSFがαレセプターに結合しさらにβレセプターとの2量体を形成し、リン酸化をおこしながらシグナルがMファージの核内に伝達され活性化される。
現在では肺胞蛋白症は抗GM-CSF自己抗体の有無で分類される。
抗GM-CSF自己抗体陽性 →自己免疫性PAP
陰性例→基礎疾患あり → 2次性PAP(sPAP)約10%
陰性例→基礎疾患なし → 未分類PAP
・重症度分類
PaO2>=70 Torr 症状なし DSS(重症度)1、症状あり DSS2
70>PaO2>=60 DSS3
60>PaO2>=50 DSS4、50>PaO2 DSS5
DSS3以上の重症例は難病指定され医療助成の対象である。
→GM-CSF吸入療法が適応される。
*自己免疫性PAPと遺伝性・先天性PAPが指定難病であるが、2次性PAPは指定難病ではない。
250μg(1回125μg、1日2回)/day(7日連統·7日休薬)吸入し、24例(68.5%)改善した。
く自己免疫性PAPに対するGM-CSF吸入療法>
重症度3,4,5には積極的に導入
%VC_80%未満の拘束性換気障害を呈する前に導入(80%未満となると有効性が低いため)
禁煙の重要性を指導
実際の吸入主義
ゆっくり空気を吐く→3秒吸気→3秒息止め→3秒呼気
1週間吸入して1週間休薬を24週間つづける。
評価は安静仰臥位のAaDO2を測定する。
AaDO2は有意に改善、CT値は低下し、含気も増加する。LDH,KL-6,SP-Aは有意に改善する。
GM-CSF吸入療法により肺胞Mファージは活性化され、サーファクタントプロテインAやホスファチジルコリンが貪食されることが証明されている。
AaDO2の低下は喫煙者、既喫煙者のいずれも改善しなかった。非喫煙者が改善する。
・自己免疫疾患のある抗GM-CSF抗体陽性例も1次性の分類になるが、吸入療法が有効かどうかは不明。
また進行性線維化を認める例も有効性は不明である。
Q and A
Q 喫煙者や既喫煙者に無効な理由はなにかあるでしょうか。たばこそのものが何か吸入薬を阻害するのか、既存構造の破壊が何かよくないのか。
A 正確なことは不明である。末梢気道の閉塞性は吸入効率を下げるであろう。破壊された肺胞にはMファージも到達しにくいであろう。また粉塵や自己抗体などもMファージの活性化を阻害するであろう。
Q 自己免疫性PAPで基礎疾患をもっているものでは、潜在的に抗GM-CSF抗体を持っている可能性があるのか。
A 不明。正常者でも抗GM-CSF抗体をもっているが、必ずしもPAPを発症しない。自己免疫疾患の治療中に発症したと考えている。
Q 重症者は吸入薬が末梢に届かない気がするので、軽症者のほうが有効な気がするが、なぜ重症者だけなのか。できれば軽症者からつかいたい。重症者は全肺洗浄と組み合わせて治療するほうがよいのか。
A 軽症者は治療効果がわかりにくい。また重症者は全肺洗浄したあとのほうが有効である。
追加コメント:重症度5の人を積極的に治療してください。重症度が高い人ほど有効であるので、だめなときに全肺洗浄してください。
●S4-3最近の知見を基にして過敏性肺炎の治療を考える。
立石知也先生
過敏性肺炎(非線維性)
線維性過敏性肺炎(FHP)
FHPの薬物治療(副腎皮質ステロイド)
FHPの薬物治療(抗線維化薬)
過敏性肺炎の発症機序
遺伝的素因や喫煙などが関与して、カビ、鳥関連の抗原吸入することによりMファージに貪食され肉芽腫を形成、リンパ球が誘導されてリンパ球性胞隔炎をきたす疾患である。
n=144(non-fibrotic 93, fibrotic 109)のMatched cohortでは線維化が強い症例では除外されているが、線維化が診断時に軽度の症例ではステロイドが予後改善に寄与する可能性があることが示されている。ただしステロイド投与群全体でみると未使用群のほうが予後がよかった。おそらく投与する患者背景が違うからであろう。(Ejima M et al. BMC pulm med 2021)
線維性過敏性肺炎のステロイド治療適応について
炎症を示唆する所見がある場合
肺機能の改善がとまったら減量していく。減量スピードは個別に対応する。
免疫抑制剤については積極的に投与するエビデンスはないので、ステロイド減量中に悪化傾向ならAdd-onを考慮する。
炎症を示唆する所見がない場合はwatchful wait/抗線維化薬の検討する。
Fibrotic HPの抗線維化薬治療について
演者らの報告では、線維性過敏性肺炎での少数例の報告(N=9)では、1年間のピルフェニドン投与により、VCの低下が抑制された。
INBUILD試験(ニンテダニブの試験)では、26.1%に線維性過敏性肺炎が含まれており、有意な有効性は証明されなかったが、有効な傾向であった。
ピルフェニドンの前向き試験(投与例27例、プラセボ13例)の報告では(Thorax 2023)、52週間でFVCの有意な改善はないが、ピルフェニドン群では進行を抑制したが、プラセボ群は進行した。
演者らが過去10年間にFHPの治療が必要と判断した167例を抽出し、抗線維化薬投与群N=69と非投与群N=98を比較した。非投与群は全例ステロイドが投与されていた。抗線維化薬群も半数はステロイドが投与されていた。UIPパターンの認められる症例の73.9%には抗線維化薬が投与された。
FVCが低いほど、HRCTでUIPパターンがある症例ほど予後不良であった。
抗線維化薬は90日以上の投与日数症例では、短期投与よりも予後がよい傾向であった。
UIPパターンの認める症例に絞って抗線維化薬投与の有無で検討すると、あくまでプレリミナリーデータではあるが、抗線維化薬投与群が予後が良好の傾向にあった。
Q and A
Q ステロイド投与で徐々に増悪している症例に対して、炎症性で抗炎症治療が不十分なのか、PPFとして抗線維化薬を投与するのか、をどのように判断治療しているのか。
A 抗炎症が十分かどうかの判断方法はない。すりガラスが多い場合は炎症が残存と考えるがそれ以外のものはない。あるいは季節性の変化を認めた場合はステロイド増量するなどの判断くらいである。
●S4-4間質性肺疾患における緩和医療
藤澤朋幸先生
生命を脅かす疾患を抱える患者と家族すべてが緩和医療の対象である。
本邦では2021年に非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針が発刊されている。
2020年WHOの発表では緩和医療受ける疾患は悪性腫瘍28.2%、HIV22.2%、脳血管疾患14.1%、認知症12.2%、呼吸器疾患(非がん)は5%と報告されている。
間質性肺疾患においては緩和医療は重要なニーズである。
酸素投与を必要としたILD患者285名、あるいは肺癌で死亡した10822名を対象に、死亡前 7 日間の臨床状況や緩和ケアを後方視的に比較したスウェーデンの報告がある。
これによると、ILDは息切れがおおく、予期せぬ死亡、緩和ケアを受ける状況が少ない、終末期に関する話し合いが少ない、などの特徴が判明した。一方肺癌では疼痛が多く、ILDで指摘された問題点は少ない。
日本呼吸器学会が呼吸器専門医にアンケート調査した結果によると、
肺癌では呼吸困難にオピオイドを積極的に投与する傾向あるが、ILDは10%程度であった。
ILDは患者に対する緩和ケアの問題点として挙げられたものに、予後予測が難しい、急性増悪発症の予測困難、在宅医療が不十分、などがある。治療関連では咳や呼吸困難の緩和方法が未確立である、終末期の苦痛緩和目的の鎮静適応や方法が未確立である、などが問題であった。
意思決定に関しては、患者家族の疾患理解不足が重大であり、予後理解不足、予後不良の疾患と受け入れられていない、治療の限界や合併症への理解が困難である、などが挙げられる。
ILDの緩和ケア普及に必要なことを尋ねると、80%以上の呼吸器専門医が、呼吸困難へのオピオイド保険適応だと回答した。
ILD患者と遺族にアンケート調査をした結果では、約半数の家族はILDが死亡するあるいは急性増悪で急変する疾患であることを認識していなかったと回答した。
適切な病状認識を有するILD患者は、終末期QOLが有意に高かった。具体的には
先々のことを自分で決められる
人生を全うしたと感じられる
ご家族やご友人と良い関係でいられる
自然なかたちで過ごせる
などが挙げられる。
→ 十分な病状認識が達成されているとはいいがたい現状がある一方、適切な病状認識をもつことは、終末期のQOLを高めることに寄与するかもしれない。
◆特別報告3
●新型タバコに関する諸問題
現代の喫煙と呼吸器疾患 ~加熱式タバコへの警鐘〜
村松弘康先生
新型タバコによる呼吸器疾患
加熱式たばこによる急性好酸球性肺炎。ときには劇症型・重症型を発症する。
42歳まで喫煙しその後加熱式タバコに変更したところ急性好酸球性肺炎を発症したケースもある。
電子タバコに関連する肺障害をEVALIというが、2807名の報告があり68名が死亡している。
原因物質はVitamin E acetateと考えられている。食品添加物であるが、加熱吸入することにより毒性を発揮する。
食べられるものでも吸入で安全とは限らない。
PGやGlyは加熱でホルムアルデヒド等へ変化する。ホルムアルデヒドは発がん性の強い物質と指定を受けているものである。
電子タバコはホルムアルデヒドが少ないと謳っているが、実はホルムアルデヒド・ヘミアセタールというものが大量に含まれており、体内に取り込まれるとホルムアルデヒドになる!
加熱して蒸気化したリキッドのほうがより有害である。
肺胞に存在する免疫細胞のマクロファージをECLとECVCに24時間曝露すると用量依存的に生存率が低下していく。
→呼吸器感染症が増加していく理由の一つであろう。
リキッドに含まれるニコチンがマクロファージ障害を引き起こすことも判明している。
新型タバコでCOPDを誘発する。
ニコチンで肺に細胞浸潤・炎症・組織破壊を惹起することが動物実験で確かめられている。(Garcia-Arcos|etal.Thorax.2016Dec;71(12):1119-1129.doi:10.1136/thoraxjnl-2015-208039.)
電子タバコ使用でCOPDが3.17倍発症することが証明された。
電子タバコは肺内に好中球エラスターゼやMMPが増加することが知られているが、その程度は普通の紙巻きタバコと同レベルである。好中球エラスターゼとは好中球内に存在する蛋白分解酵素であり、通常は殺菌に使われるが多量になると組織破壊を引き起こす。
電子タバコには温熱するための加熱コイルが内蔵されているが、その加熱コイルから金属ヒュームが発生している。加熱前の金属ヒューム濃度を1とすると加熱により10倍から1000倍の量が発生していた(Thorax 2018;0:1–9. doi:10.1136)。金属ヒュームは塵肺の原因として知られており毒性が懸念される。公的機関が発がん物質として最近認定した。クロムを吸入すると喘息発症、皮膚障害、鼻中隔穿孔などの障害がしられているし、マンガンが神経障害やパーキンソニズムを発症させうる、鉛が神経障害や腎障害を起こす、など多彩な疾患を引き起こす可能性が判明してきた。
新型タバコの社会的な問題
カートリージが非常に小さくコンパクトになっている。その結果子供が誤飲しやすくなっている。加熱効率を上げるためにカートリッジ自体に金属片を内蔵したものが登場している。それに金属板で加熱してニコチンの染み出し効率を上げている。
タバコは小児誤飲の原因として不動の1位であるが、減少傾向であった。H25年に第2位となったが、翌年電子タバコが販売されて再び1位となっている。金属片内臓のカートリッジを誤飲すると喉や消化管を傷つけるため非常に危険である。
最近は大麻や覚醒剤入りの電子タバコも蔓延しており、違法薬物の温床となっている。したがって新型タバコを規制する国々が増加傾向であり、すでに40カ国以上で規制されている。日本はかなり遅れている。
新型タバコへの変更はハーム・リダクションになるのか
そもそもタバコを直接吸っていた事が相当の有害物質量だったのであって、10分の1になったから安心なわけではない。演者は「ビルの100階から飛び降りたときと10階から飛び降りたときで、10階は安全ですか?」と問いかけているとのこと。
「有害成分の量」と「有害性」は違うのである。
2020年にFDAはIQOASをMRTPs (Modified Risk Tobacco Products:リスク修飾(軽減)たばこ製品)として承認したが、認定内容には健康リスク低減と有害物質暴露低減の2つの種類があり、FDAが承認したのは後者のみである。安全性を認めたわけではない。
2019年にニコチン置換療法NRTよりも電子タバコECが禁煙に有効だったという論文が発表され話題となった。しかしデータをみると1年後の禁煙達成率はNRTが9.9%、ECが18%と非常に低い。演者らの施設では少なくとも70%は禁煙できていることから、この結果をもってECが優れているとはいえないであろう。また1年後にNRTを貼付している方はいなかったが、8割はECを継続していたので、依存がECに変わっただけとも言える。
日本ではNRTはパッチとガムしかないが、海外では舌下錠やインヘラーなどの即効性のある製剤もある。
●喫煙と呼吸器感染症
山本和子先生
喫煙と呼吸器感染症のリスクについて調査した研究 (McGeoch LJ, et al. J Public Health 45:e621-629, 2023.)
イギリスで実施されたバイオバンクを利用した前向きコホート研究
40-69歳の慢性疾患のない登録者341352名を12年間追跡した。
登録者の約10%が喫煙者であった。
アウトカムは入院、死亡、ICD-10、ICD-9調査、インフルエンザ、他の呼吸器疾患、肺炎、COVID-19
結果:追跡期間中に発生した肺炎12,384名、肺炎以外の急性呼吸器感染症7,054名 、インフルエンザ795名で、
現喫煙者のすべての呼吸器感染症リスク約2倍、肺炎は2.4倍、インフルエンザ感染症リスク1.8倍であった。
1日喫煙量が増えるほど肺炎や他の呼吸器感染症を発症するリスクが高い。
禁煙によってリスクが低下するが、非喫煙者と同レベルになるには40年かかる。
COVID-19発症リスクが非喫煙者と同レベルになるには40年以上必要である。
2022年2月までの320研究のメタアナリシスによると、
喫煙者ではCOVID-19が重症化しやすい。入院1.16倍、重症化1.44倍 、死亡1.39倍。
その理由として、現喫煙者や進行したCOPD患者肺では ACE2受容体の発現が亢進していると報告された。
市中肺炎入院患者(n=4,288)>肺炎球菌肺炎患者(n=892)の死亡について検討された多施設前向き観察コホート研究では、
Current smokerは、肺炎球菌肺炎の死亡において、独立したリスク因子であることが示された。
オッズ比は5.0倍であった。
・なぜタバコを吸うと肺炎球菌肺炎が重症化するのか
喫煙者は血性IgG産生が不良となる。
喫煙者/COPD患者は、TLR2活性が低下する。
タバコに晒された肺胞マクロファージ は貪食能が低下する。
*筆者補足)TLR2はグラム陰性細菌やいくつかのグラム陽性細菌のリポタンパク質に対する自然免疫応答の中心となるレセプターである
喫煙者の呼吸器感染症予防
成人市中肺炎2259例の市中肺炎の原因微生物を調査した研究では、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、肺炎球菌、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザ、コロナウイルス、マイコプラズマ、の順に多かった。ウイルス関与が27%である。(Jain S et al. NEJM 373(5):415-27.2015)
インフルエンザウイルス、肺炎球菌、RSウイルス、コロナウイルスにワクチン接種可能。
成人ではCOPD増悪例の22~64%で呼吸器ウイルスを検出する。ワクチン接種が重要である。
COPD患者にもコロナワクチンを連続接種 することで入院予防効果が高くなる。
インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを両者接種することで、慢性肺疾患患者の肺炎予防効果が顕著に高まる。
RSV感染症は日本の場合の推定で年間約70万人、入院は約6万人、死亡は約4500人と見込まれている。
60歳以上の基礎疾患を有する患者に接種を推奨する。(基礎疾患:慢性肺疾患、心疾患、脳血管疾患、腎疾患、糖尿病)
まとめ
喫煙は
呼吸器感染症の発症リスク・重症化リスクを上昇させる
呼吸器感染症に対する防御機構を破綻させる
喫煙者の呼吸器感染症予防対策は
できるだけ早くの禁煙
呼吸器感染症ワクチンの接種を推奨する
肺炎球菌肺炎の死亡 において、独立した リスク因子である