日本睡眠学会第48回定期学術集会聴講録その1

日本睡眠学会第48回定期学術集会は2024年7月18日19日の2日間開催され、

その後オンデマンド配信も1ヶ月以上ありました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

LS -7 レストレスレッグス症候群の治療戦略

東京医科大学睡眠学講座 客員教授、睡眠総合ケアクリニック代々木
井上雄一先生


RLSの定義と典型例

RLS(レストレスレッグス症候群)とは、主に夜間を中心として 安静時に感覚異常が起こり、じっとしていられなくなる(運動促迫)状態 を指す。
典型例としては、飛行機の中をうろうろしたり、深夜に歩き回るなどが挙げられる。


RLSの診断基準

基本的な診断基準

  1. 脚を動かしたいという強い欲求 が、通常 不快な下肢の異常感覚 に伴って、あるいは異常感覚が原因と感じて起こる(常にではない)。
  2. 安静にしていると症状が始まる、または増悪する(静かに横になる、座るなど)。
  3. 運動によって症状が改善する
  4. 安静時の症状は夕方や夜間に増悪する(日中より悪化)。
  5. 他の疾患・習慣的行動で説明できない(例:筋肉痛、静脈うっ血、関節炎、こむら返り、特定の体位における不快感など)。

診断を補助する4つの特徴

  1. 睡眠中・安静時の周期性四肢運動(PLMS)を合併 している。
  2. ドパミン受容体作動薬(ドパミンアゴニスト)が効果を持つ
  3. RLSの家族歴がある
  4. 日中の強い眠気がない

RLSと合併しやすい精神疾患

RLSは夜間に強い 不眠を伴いやすく、そのために パニック障害・全般性不安障害・うつ病 などの発症リスクが上昇する。
最近の研究では、「むずむず」と「不眠」の両方が抑うつ症状の要因 となっていることが示されている。


周期性四肢運動(PLMS)

  • 症状の特徴
    • 膝を立て、足首を反らせる(背屈)→ ストンと戻す動作を繰り返す
    • 1回3~5秒の動きが、15~30秒間隔で継続する。
  • 患者の訴え
    • 「むずむずして寝付けない」
    • 「寝たと思ったら足がバチバチ動くので目覚める」
    • 明け方には症状が軽くなるが、「やっと眠れたと思ったら朝になっている」と訴える。

RLSと高血圧・心血管疾患との関連

  • RLS患者は高血圧のリスクが高い
    • 特に PLMSの頻度が1時間あたり40回以上 になると 高血圧のリスクが上昇 する。
  • 心血管疾患の合併率
    • RLS未治療の患者は 心血管疾患の合併率が上昇 するが、治療によりリスクが低下する。
  • 治療薬による影響
    • ドパミンアゴニスト、オピオイド、ベンゾジアゼピン、抗痙攣薬 などの治療薬を使用すると、合併症のリスクが低下する。

RLSの疫学

  • 透析患者にRLSが多い
  • 女性に多く、高齢者に多いが、アジア人では若年者にも多い
  • 48歳以下の若年患者は家族歴が多い
  • 季節による変動がある(夏に悪化、冬に悪化など)。
  • 幻視を伴うケースもある(例:切断した脚の部位を指して「ここがむずむずする」と訴える患者)。

RLSの診断を確実にするために

「誘発テスト(SIT: Suggested Immobilization Test)」 を実施することがある。

  • 方法:ベッド上で脚を伸ばした状態で不快感を記録する。

RLSの治療戦略

非薬物療法

  • 避けるべきこと
    • 眠前のカフェイン・アルコール(コーヒー、紅茶、日本茶、少量のアルコールでも症状が悪化することがある)。
    • 暑さの対策(入浴後に脚を冷やす、エアコンを活用する)。
    • 寝床でじっとしない(眠気がないのに寝床に入ると症状が悪化する)。

鉄欠乏への対応

  • フェリチン値50ng/mL以下の人は鉄剤を補充
  • 経口鉄剤の効果は2~3週間後に現れる
  • フェリチン10ng/mL未満の患者には注射で鉄を補充

避けるべき薬剤

  • RLSを悪化させる薬剤
    • ドパミン遮断薬(メトクロプラミド、ドロペリドール、ドンペリドン)
    • 抗うつ薬(特にミルタザピン)
    • 抗ヒスタミン薬(眠気を引き起こすもの)

薬物療法の選択肢

  • 第一選択:α2δリガンド薬(ガバペンチン、プレガバリンなど)
  • ドパミンアゴニストは最小限の使用を推奨(Augmentationリスクがあるため)
  • 痛みや不眠を伴う場合はα2δリガンド薬が有効

Augmentation(治療による悪化)への対応

  • 軽症 → 薬の減量、服用回数の分割
  • 中等症以上 → 長時間作用型ドパミンアゴニストへの変更、オピオイドの併用
  • 鉄欠乏の確認(フェリチン値を測定)

まとめ

  • α2δリガンド薬が第一選択
  • ドパミンアゴニスト(DA)は最小限に使用(効果があれば減量)。
  • QOL改善のために、治療薬の選択は慎重に行う

Q and A

Q:α2δリガンド薬は初期治療に使えるのか?

A:レグナイト®は保険適応があるため、初期治療に使用可能。

Q:全例にPSG(終夜睡眠ポリグラフ検査)を実施すべきか?

A:PSGは診断確定に有用であり、周期性四肢運動(PLM)の評価に重要。誘発テスト(SIT)も併用する。


S34-1 レストレスレッグス症候群におけるうつ病または抑うつ状態の合併:有病率調査および今後の課題

滋賀医科大学精神医学講座/長浜赤十字病院精神科
角幸頼先生

はじめに:RLSとうつ病合併の重要性

RLSとうつ病/抑うつ状態の合併は臨床的に重要。RLS自体が睡眠障害や生活の質の低下を引き起こすだけでなく、うつ病合併で症状は悪化し治療も困難となる。

RLS患者は一般人口と比較してうつ病を合併しやすいが、有病率や関連要因は未解明な部分が多い。本講演ではRLS患者におけるうつ病/抑うつ状態の有病率を調査し、特徴や関連要因を明らかにし、今後の研究課題や臨床における対応について議論する。

研究デザインと方法

本研究では滋賀医科大学精神医学講座および長浜赤十字病院精神科を受診したRLS患者を対象とした横断的研究を行った。RLSの診断は、国際RLS研究グループ(IRLSSG)の診断基準に基づき、詳細な問診と神経学的検査によって確認。うつ病または抑うつ状態の診断は精神科医によるstructured interviewに加え、DSM-5の診断基準を用いた。患者の年齢、性別、RLSの重症度(IRLSSG重症度評価尺度)、睡眠の質(ピッツバーグ睡眠質問票)、不安レベル(状態特性不安検査)、合併症の有無、服薬状況などの情報を収集。統計解析にはχ二乗検定、t検定、相関分析、多変量解析などを用いRLSとうつ病/抑うつ状態の関連性を評価。

研究結果:有病率と関連因子

対象となった100名のRLS患者のうち、30%がうつ病または抑うつ状態を合併していることが明らかになった。一般人口におけるうつ病の有病率と比較して有意に高い(p < 0.01)。

うつ病または抑うつ状態を合併しているRLS患者は、そうでない患者に比べてRLSの重症度が高い傾向(p < 0.05)。IRLSSG重症度評価尺度の平均スコアがうつ病合併群で有意に高かった。

睡眠の質も有意に低下しており(p < 0.01)、ピッツバーグ睡眠質問票のスコアが高かった。

不安レベルも高く(p < 0.05)、状態特性不安検査のスコアが有意に高かった。

合併症については睡眠障害、不安障害、慢性疼痛などの合併率が高く、これらの合併症がうつ病/抑うつ状態のリスクを高める可能性が示唆。

多変量解析の結果、RLSの重症度、睡眠の質、不安レベルがうつ病/抑うつ状態の独立した予測因子であることが明らかになった。

考察:関連メカニズムと臨床的意義

RLSとうつ病/抑うつ状態の関連メカニズムとしては、RLSによる慢性的な睡眠障害、不快感や苦痛が慢性的なストレス、ドパミン系の機能異常などが考えられる。臨床的にはRLS患者に対してうつ病/抑うつ状態のスクリーニングを定期的に行うことの重要性を示唆された。特にRLSの重症度が高い患者、睡眠の質が低い患者、不安レベルが高い患者に対しては注意深い観察が必要である。

うつ病/抑うつ状態を合併しているRLS患者に対しては精神科医との連携を図り、薬物療法(抗うつ薬、睡眠薬など)や精神療法(認知行動療法など)を組み合わせた包括的な治療を行うことが重要。

今後の課題と展望

今後の課題として、RLSとうつ病/抑うつ状態の関連メカニズムの解明、RLS患者に対するうつ病/抑うつ状態のスクリーニング方法の確立、うつ病/抑うつ状態を合併しているRLS患者に対する最適な治療法の開発が挙げられる。これらの課題に取り組むことでRLS患者のQOL向上に貢献できると考えられる。

S34-2 日本人RLS患者における周期性四肢運動の臨床的意義

立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部/国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部
松井健太郎先生

はじめに:PLMSとRLSにおける臨床的意義

周期性四肢運動(PLMS)は睡眠中に繰り返し発生する四肢の律動的な運動であり、睡眠分断を引き起こし、日中の眠気や疲労感、集中力低下などの原因となる。レストレスレッグス症候群(RLS)患者においてPLMSが高頻度に出現することはよく知られているが、日本人RLS患者におけるPLMSの臨床的意義については、欧米の研究と比較して十分なデータが存在しない。

本講演では演者らの研究をもとにPLMSの臨床的意義について多角的に検討し、今後の研究の方向性を示す。

研究対象と方法:PSG検査と評価

対象はRLS患者100名(男性45名、女性55名、平均年齢58.3歳、標準偏差12.5歳)。

すべての患者に対して終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)、脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸などを記録した。

PLMSの判定はAmerican Academy of Sleep Medicine (AASM) の基準に従いPLMS指数(PLMSI:1時間あたりのPLMS出現回数)を算出。

RLSの重症度はIRLSSG重症度評価尺度を用いて評価し、軽度、中等度、重度、最重度の4段階に分類。睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)、日中の眠気はエプワース眠気尺度(ESS)、うつ症状はベックうつ病調査(BDI)、不安症状は状態特性不安検査(STAI)を用いて評価した。

研究結果:PLMSIと臨床指標の相関

PSGの結果、PLMSIの平均値は18.2回/時間(標準偏差15.5回/時間)であった。PLMSIが5回/時間以上の患者は72名、15回/時間以上の患者は40名であった。PLMSIとRLSの重症度との間には統計的に有意な正の相関関係が認められた(r=0.42, p<0.01)。PLMSIと睡眠の質(PSQI)、日中の眠気(ESS)、うつ症状(BDI)、不安症状(STAI)との間にも統計的に有意な正の相関関係が認められた(それぞれp<0.05)。多変量解析の結果、PLMSIはRLSの重症度、睡眠の質、日中の眠気の独立した予測因子であることが明らかになった。PLMSがRLS患者の睡眠障害や日中の機能障害に重要な影響を与えていることを示唆。PLMSIと年齢、性別、BMI、喫煙歴、アルコール摂取量との間には統計的に有意な相関関係は認められなかった。

*統計解析:統計解析にはSPSS 25.0を用いPLMSIと各臨床指標との相関関係をピアソンの相関係数で評価し、群間比較にはt検定または分散分析を用いた。多変量解析ではPLMSIを従属変数、RLS重症度、睡眠の質、日中の眠気、うつ症状、不安症状を独立変数として重回帰分析を行った

考察と今後の展望:PLMSの評価と治療

日本人RLS患者においてもPLMSが高頻度に出現し、RLSの重症度、睡眠の質、日中の眠気、うつ症状、不安症状と密接に関連している。

PLMSはRLS患者の睡眠障害や日中の機能障害に影響を与える重要な要因であると考えられ、PLMSの評価はRLS患者の診断、重症度評価、治療効果判定に有用である。

PLMSIが高いRLS患者に対してはPLMSを抑制する薬物療法(ドパミンアゴニスト、α2δリガンドなど)を考慮する必要がある。PLMSと関連する睡眠衛生指導や認知行動療法も有効である可能性がある。今後の課題としては大規模な多施設共同研究により、日本人RLS患者におけるPLMSの臨床的意義をさらに詳細に検討することが挙げられる。PLMSの病態生理学的メカニズムの解明、PLMSに対する新しい治療法の開発も重要な課題である。

S34-3 Restless legs症候群患者における中枢神経感作の役割

東京医科大学睡眠学講座/公益財団法人神経研究所
高野 裕太

はじめに:RLSにおける中枢神経感作の概念

RLSの病態生理は、これまで主にドパミン系の機能異常、鉄代謝異常、遺伝的要因などが注目されてきた。近年、慢性疼痛疾患の病態生理において、中枢神経感作が重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。

本講演では、RLS患者においても中枢神経感作が病態に関与しているのではないかという仮説を提示し、その可能性を検討する。

中枢神経感作のメカニズムとRLSへの適用

中枢神経感作は、侵害受容ニューロンの興奮性が亢進し、本来は痛みを引き起こさない刺激に対しても痛みを感じてしまう状態を引き起こす現象である。末梢からの侵害受容刺激が繰り返されることによって、脊髄や脳などの神経回路に変化が生じ、痛みを伝達する神経細胞の興奮性が高まることで生じる。具体的には、グルタミン酸受容体の活性化、カルシウムイオンの流入、一酸化窒素(NO)の産生、神経成長因子(NGF)の放出などが関与する。

RLS患者においては、下肢の不快な感覚が慢性的に続くことによって、中枢神経系において同様の変化が生じている可能性がある。鉄欠乏が中枢神経感作を促進する可能性も指摘されている。

*筆者補足)中枢神経感作(Central Sensitization)は、脊髄や脳の神経が過敏になり、痛みや異常感覚が増強される状態を指します。痛みの閾値(しきい値)が低下し、軽い刺激でも強い痛みを感じる(アロディニア)。痛みの持続時間が長くなる(本来はすぐに収まるはずの痛みが長く続く)。慢性疼痛(線維筋痛症、帯状疱疹後神経痛、術後痛、ムズムズ脚症候群など)に関与。

この状態の発生には、主に以下の2つの神経系が関与しています。

1. NMDA受容体の過剰活性化・・・痛みを伝える神経の感度が上がり、痛みの信号が増幅される。過剰なカルシウム流入が起こり、神経が長期的に興奮しやすくなる。

メマンチンがこの過剰な興奮を抑える。

2. カルシウムチャネルの過剰活性化・・・痛みのシグナルを伝える神経伝達物質(グルタミン酸、サブスタンスPなど)の放出が増加。神経が過敏になり、慢性的な痛みや異常感覚を引き起こす。

プレガバリンがこの異常な神経伝達を抑える。

RLS患者における中枢神経感作の臨床的証拠

以下の点が挙げられる。

第一に、RLS患者は健常者に比べて痛みの閾値が低い。

第二に、RLS患者は健常者に比べて痛みの持続時間が長い。

第三に、RLS患者は健常者に比べて侵害受容刺激に対する脳活動が亢進。

これらの結果はRLS患者においては中枢神経系において痛みの処理に異常が生じている可能性を示唆する。アロディニアや痛覚過敏を訴える患者もおり、これらの症状は中枢神経感作の存在を示唆する有力な証拠となる。

中枢神経感作をターゲットとした治療法

グルタミン酸受容体拮抗薬(ケタミン、メマンチンなど)、抗炎症薬(非ステロイド性抗炎症薬、ステロイドなど)、神経モジュレーション療法(経頭蓋磁気刺激法、脊髄刺激療法など)などが挙げられる。これらの治療法はRLS患者の症状緩和に有効である可能性が示唆される。

今後の課題と展望

今後の課題としては、RLS患者における中枢神経感作の程度を定量的に評価する方法を確立すること、RLS患者における中枢神経感作のメカニズムを詳細に解明すること、中枢神経感作をターゲットとした新しいRLS治療法を開発することなどが挙げられる。これらの課題に取り組むことで、RLSの病態解明と治療法の開発に貢献できると考えられる。

S34-4 神経疾患とRLS

獨協医科大学脳神経内科
藤田 裕明

はじめに:RLSと神経疾患の関連性

RLSは単独で発症することもあるが、様々な神経疾患と関連することが知られている。これらの神経疾患は、RLSの症状を悪化させたり、RLSと類似した症状を引き起こしたりするため、臨床においては鑑別診断が重要となる。

パーキンソン病(PD)とRLS

PD患者はRLSを合併するリスクが高いことが知られており、PD患者におけるRLSの有病率は一般人口よりも有意に高い(約2~3倍)。

PDとRLSの病態生理にはドパミン系の機能異常が共通して関与していると考えられている。

PD治療薬であるL-ドパはRLSの症状を悪化させることがある。PD患者でRLSを合併している場合には、L-ドパの投与量を調整したり、RLS治療薬(ドパミンアゴニスト、α2δリガンドなど)を併用したりする必要がある。

末梢神経障害(PN)とRLS

PN患者はRLSを合併するリスクが高い。

特に、糖尿病性ニューロパチー、透析患者における尿毒症性ニューロパチー、アミロイドニューロパチーなどは、RLSとの関連が強い。

PNによるRLSは一般的なRLSとは異なり、痛みを伴うことが多い。PNによるRLSの治療には、PNの原因疾患の治療とともに、鎮痛薬の使用が考慮される。RLS治療薬(ドパミンアゴニスト、α2δリガンドなど)も有効な場合がある。

脊髄疾患とRLS

脊髄疾患は脊髄損傷などによって引き起こされ、運動麻痺、感覚障害、自律神経障害などの症状を呈する。脊髄疾患患者はRLSを合併するリスクが高い。

脊髄疾患によるRLSは下肢だけでなく上肢にも症状が現れることがある。脊髄疾患によるRLSの治療には、脊髄疾患の原因疾患の治療とともに鎮痛薬の使用が考慮される。RLS治療薬も有効な場合があるが、脊髄疾患の種類や程度によって効果が異なる場合がある。

その他の神経疾患と鑑別診断

多発性硬化症(MS)、脳卒中、鉄欠乏性貧血などもRLSと関連することが報告されている。RLSと類似した症状を呈する疾患として末梢動脈疾患などがあり、これらの疾患はRLSと間違われやすい。正確な診断のためには詳細な問診、神経学的検査、血液検査、画像検査などが必要となる。

神経疾患合併患者への治療

神経疾患を合併しているRLS患者に対しては治療において注意が必要である。個々の患者の状態に合わせて最適な治療法を選択する必要がある。

S34-5 Restless legs症候群(RLS)におけるオピオイド製剤の位置づけ

東京医科大学睡眠学講座 睡眠総合ケアクリニック代々木
井上雄一先生

はじめに:オピオイド製剤の位置づけ

レストレスレッグス症候群(RLS)の治療は非薬物療法から始まり、第一選択薬としてドパミンアゴニストやα2δリガンドが用いられる。しかし、これらの薬剤で効果が得られない場合や、augmentaion、副作用で使用できない場合には、オピオイド製剤が治療選択肢として考慮される。オピオイド製剤はRLSの症状緩和に有効であることが示されているが、依存性や耐性などのリスクも伴うため、慎重な判断と適切な管理が必要となる。

オピオイド製剤の種類と作用機序

RLS治療に用いられるオピオイド製剤としては、弱オピオイドであるトラマドール、コデイン、ジヒドロコデインなどがある。

オピオイド製剤は他の治療法が無効な重症RLSに限られる。

トラマドールはオピオイド受容体への作用に加え、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用も有する。

強オピオイドであるオキシコドン、モルヒネなどは、RLSの症状が重度で他の治療法が無効な場合に限定的に用いられる。オピオイド製剤はμオピオイド受容体に結合し神経伝達を抑制することで鎮痛効果を発揮する。

臨床試験のエビデンス

オピオイド製剤のRLSに対する有効性は臨床試験で検証されている。

トラマドールの有効性を示したRCTでは、トラマドール投与群はプラセボ群と比較してRLSの症状が有意に改善し、睡眠の質も向上した。オキシコドンの有効性を示したRCTでは、オキシコドン投与群はプラセボ群と比較してRLSの症状が著しく改善しQOLも向上した。ただしこれらの臨床試験の対象患者は他の治療法が無効な重症RLS患者に限られており、軽症~中等症RLS患者に対する有効性は不明である。

副作用と依存性

オピオイド製剤には便秘、眠気、吐き気、嘔吐、呼吸抑制などの副作用がある。オピオイド製剤の長期使用により、依存性や耐性が生じる可能性がある。依存性とは薬物に対する渇望や、薬物を使用しないと不快な症状が現れる状態を指す。

オピオイド製剤の依存性や耐性を予防するためには、以下のことが重要。

 使用は必要最小限の期間にとどめること、

 投与量は少量から開始し徐々に増量すること、

 中止は徐々に行うこと、

 患者に副作用や依存性のリスクについて十分に説明すること

今後の展望

今後の展望として、オピオイド製剤以外の新しいRLS治療法の開発、オピオイド製剤の副作用を軽減し安全性を高めるための研究、オピオイド製剤の依存性リスクを評価し予防するための研究が期待される。

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