当院ではウォンツ伊勢丘薬局薬剤師と定期的に勉強会を実施しております。
内容要約を以下に記します。
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■ CKD診療ガイドラインの基本情報 • 2024年改訂のCKDガイドラインにおいて、重症度分類(Gステージ)や蛋白尿区分(Aステージ)に大きな変更はない。 • CKD患者では高リン酸血症や高カリウム血症が合併しやすく、早期からの管理が重要である。
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■ 電解質異常(高リン血症・高カリウム血症・高カルシウム血症)の管理目標とリスク
● 高リン血症(Hyperphosphatemia)
- 目標値:3.5〜6.0 mg/dL(CKD患者における推奨値)
- 低リン血症のリスク:筋力低下、呼吸筋麻痺、心不全、意識障害など
- 高リン血症のリスク:二次性副甲状腺機能亢進症、血管石灰化、動脈硬化、心血管イベントリスクの上昇。
● 高カリウム血症(Hyperkalemia)
- 目標値:概ね3.5〜5.0 mEq/L(透析患者では5.5 mEq/L以下が目安)
- 低カリウム血症のリスク:筋力低下、不整脈(心室性期外収縮やQT延長)
- 高カリウム血症のリスク:致死性不整脈(心室細動、心停止)を起こす可能性があるため、緊急対応が必要なことも多い。
● 高カルシウム血症(Hypercalcemia)
- 目標値:8.4〜10.0 mg/dL(補正カルシウム値として)
- 低カルシウム血症のリスク:テタニー、しびれ、けいれん、QT延長、心機能低下。
- 高カルシウム血症のリスク:倦怠感、悪心、便秘、認知機能障害、腎結石や腎機能悪化。血管石灰化による心血管疾患の悪化も懸念される。
■ 各リン吸着薬の詳細
- 沈降炭酸カルシウム(カルタン®) • 機序:胃内でリン酸と結合して不溶性塩を形成し、便中に排泄。 • 用法:成人で1日3gを3回に分けて食直後に経口投与。胃内pHが上がる食後が最も効果的。 • pHとの関係:pHが低い(空腹時)と吸着率が低下(pH3で0%、pH5で90%以上)。 • 副作用:高カルシウム血症、便秘。副甲状腺機能低下症では禁忌。 • 妊娠・授乳:添付文書に特記なしだが、一般的に安全と考えられる。
- 炭酸ランタン(ホスレノール®) • 特徴:カルシウムを含まない非アルミニウム系リン吸着薬。pHの影響を受けにくい。 • 用法:ランタンとして1日750mgから開始。最大2250mg。食直後に経口投与。 • リン吸着率:pH3で97.5%、pH5で97.1%、pH7で66.6%。 • 副作用:消化器症状(便秘・下痢)が5%以上。 • 妊婦への投与:催奇形性・胎児毒性(発達遅延、胎児死亡など)報告あり。妊婦には禁忌。
- ビキサロマー(キックリン®) • 特徴:非金属系リン吸着薬で、カルシウム・アルミニウムを含まない。 • 用法:1回500mgを1日3回、食直前に投与。最大7500mg/日。 • 食前投与理由:アトルバスタチン、ワルファリン等の薬物動態への影響(AUC低下)を避けるため。 • 副作用:便秘(15%以上)。 • 禁忌:腸閉塞の既往がある患者。
- クエン酸第二鉄水和物(リオナ®) • 作用:鉄とクエン酸によるリン吸着。代謝性アシドーシス改善作用もあり。 • 併用適応:鉄欠乏性貧血+高リン血症の患者に最適。 • 用法: • 高リン血症:500mg×3回(最大6000mg)を食直後投与。 • 鉄欠乏性貧血:500mgを1日1〜2回。 • 副作用:下痢(12.4%)。鉄が消化管を刺激。 • 妊婦・授乳婦:有益性が上回る場合に投与。
- セベラマー塩酸塩・エシレート(レナジェル®/ホスブロック®) • 特徴:樹脂系ポリマー。カルシウム・アルミニウムを含まず、LDLコレステロールを下げる副次効果あり。 • 用法:1回1〜2gを1日3回、食直前に投与(最大9g/日)。 • 副作用:便秘(21.9%)、腹部膨満感(8.9%)。代謝性アシドーシス悪化のリスク。 • 注意点:腸閉塞では禁忌。膨張性の薬剤であり注意。 • 薬物相互作用:シプロフロキサシンなどの吸収を阻害。
- スクロオキシ水酸化第二鉄(ピートル®) • 用法:鉄として1回250mg、1日3回食直前投与。最大3000mg。 • 投与調整:容量変更時は12週間後に血清リンを確認。週1回750mgまでの増量が可能。 • 副作用:下痢が22.7%と高頻度。便秘と下痢を繰り返すケースも。 • 適応:透析患者で使用頻度が高い。カルシウム高値例では非カルシウム系の本剤が選ばれる。
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■ 高カリウム血症治療薬の詳細
- ポリスチレンスルホン酸カルシウム(カリメート®) • 機序:カリウムとカルシウムを交換、腸内で排泄促進。 • 用法:1日15〜30gを2〜3回、水30〜50mLに懸濁して経口または直腸投与。 • 副作用:便秘、腸穿孔、腹部痛。高カルシウム血症に注意。 • 妊娠:有益性が上回る場合に投与。
- ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(ケイキサレート®) • 用法:1日39.24g(通常30g/日を2〜3回)、水50〜150mLに懸濁し経口投与。 • 機序:カリウムとナトリウムを交換し、便中へ排泄。 • 副作用:便秘はカリメートより少ないが、下痢はやや多い。ナトリウム負荷による浮腫や高血圧、心不全に注意。
- ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(ロケルマ®) • 特徴:非ポリマー性、微細孔構造により選択的にカリウムを吸着。 • 用法: • 初期:10gを1日3回、2日間 • 維持:5g/日。透析中は非透析日に1日1回。 • 副作用:低カリウム血症(11.5%) • 注意点:緊急の高K血症には不向き。効果発現は比較的緩やか。
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■ その他の関連薬剤
● ケレンディア(フィネレノン®) • ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬。腎保護作用があるが、カリウム上昇の副作用があるため注意。
● SGLT2阻害薬(カナグル®・ジャディアンス®) • 心腎保護効果があり、CKDステージ3〜4でも使用可能。
● テナパノル(フォゼベル®) • 新薬(2024年2月発売)。NHE3阻害薬として、小腸でのリン吸収を抑制。 • 用法:5mgを1日2回(朝夕食前) • 副作用:下痢(61.3%)と非常に多い。腸管への水分移動が原因。
● クレメジン • 球状活性炭。尿毒素を吸着し、透析導入の遅延を目的に用いる。