内科医が知っておきたい排尿トラブル - 知って得する対応法 一

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

広島市内科医会講演会 2025.5.29 
内科医が知っておきたい排尿トラブル 一知って得する対応法一

JA広島総合病院泌尿器科
松原昭郎先生

本講演では、内科クリニックで日常的に遭遇する「排尿トラブル」に、内科医としてどう対応すべきかを、理論よりも実践的視点から解説いただいた。

排尿トラブルの種類と疫学

国内の40歳以上男女を対象とした疫学調査では、最も頻度の高い排尿症状は夜間頻尿で約70%に及ぶ。
次いで昼間頻尿、尿勢低下、残尿感、切迫感、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁が挙げられる。
男性に多いのは尿勢低下と残尿感、女性に多いのは腹圧性尿失禁である。解剖学的な差異(前立腺の有無、尿道の長さなど)が影響していると考えられる。本講演では特に夜間頻尿と尿意切迫感(OAB)を取り上げる。

尿意切迫感とOABの概要

尿意切迫感とは「急に起こる強い尿意で我慢できない状態」であり、過活動膀胱(OAB)の必須症状である。
OABの有病率は40歳以上で12.4%(約8人に1人)とされ、加齢とともに増加する。
QOL調査(SF-36)では、健康人や糖尿病患者と比較してもOAB患者のQOLは有意に低いとされる。

OABの診断

頻尿や尿失禁の背景に尿意切迫感があるかを確認することが診断の鍵である。
鑑別として膀胱炎、がん、結石などの器質的疾患を除外する必須であり、尿検査(尿沈渣含む)が推奨される。
特に女性では中間尿採取が重要であり、扁平上皮細胞の混入は不適切な採取を意味する。

OABの薬物治療

薬物治療はβ3受容体作動薬と抗コリン薬が中心である。
β3作動薬は副作用が少なく、近年処方割合が急増しており、2024年には抗コリン薬を上回った。
とくにビベグロン(ベオーバ)はミラベグロンよりも患者の満足度が高いとされ、昼間排尿や切迫性尿失禁スコアの改善効果が高い。
抗コリン薬は歴史的にエビデンスが豊富であるが、認知機能障害や口渇、便秘などの副作用があり、高齢者には慎重投与が求められる。Forta分類では、トルテロジンがGrade B(使用可能)、他はGrade C(慎重使用)である。
*筆者補足)「Forta分類(Forta classification)」とは、高齢者に対する薬剤の適正性(適切性)を分類する指標。4段階に分類される。Forta A:高齢者に推奨、B:高齢者に有益だが使用に注意、C:有用性が限定的で副作用リスクが高く、慎重投与、D:高齢者に使用すべきでない。有害あるいは効果不明。

女性OABにおける治療戦略

女性患者では、β3作動薬から開始し、効果不十分時には抗コリン薬へ切り替える。
残尿100ml超、高齢者、尿勢低下例では少量からの導入が望ましい。
残尿測定は経腹エコーで行い月2回算定可能である。

男性OABにおける治療戦略

男性ではα1遮断薬を基本とし、β3や抗コリン薬を併用するのが原則である。
前立腺肥大の有無にかかわらず治療対象とみなすべきであり、PSA検査を推奨する。
50歳未満の男性では、神経疾患などの可能性を考慮し、泌尿器科紹介を推奨する。
α1遮断薬は、シロドシン(ユリーフ®)が尿勢改善に優れ、ナフトピジル(フリバス®)が蓄尿症状改善に有利とされる。
さらに、PD5阻害薬(タダラフィル)や5α還元酵素阻害薬(デュタステリド)の併用も考慮されるが、保険病名として「前立腺肥大症」の記載が必須である。

行動療法と非薬物療法

OAB治療の一次治療は行動療法(膀胱訓練、骨盤底筋訓練)である。
BMIの高い患者には体重減少も効果がある。
難治例には、ボツリヌス毒素注入、磁気刺激療法、仙骨神経刺激療法が保険適用内で選択可能である。

夜間頻尿の影響と病態

夜間頻尿はQOLの低下に加え、転倒・骨折リスクや生命予後の悪化とも関連する。
国内外の研究で、夜間排尿回数が増えるほど死亡リスクが増加することが示されている。

夜間頻尿の分類と診断

原因は「夜間多尿、蓄尿障害、睡眠障害」の3つに大別される。
問診や尿比重では不十分であり、排尿日誌の記録が最も信頼性が高い。
24時間尿量が体重1kgあたり40ml以上なら多尿、夜間尿量が全体の1/3超なら夜間多尿と判定する。

夜間頻尿の治療

多尿型には飲水・塩分制限、下肢挙上や運動などの行動療法が推奨される。デスモプレシンは有効性があるが、低Na血症リスクがあり慎重投与が必要。NSAIDs(セレコキシブなど)や利尿薬にもエビデンスはあるが使用は限定的である。
蓄尿障害型ではOABと同様の治療(男女別アルゴリズム)を適用する。
睡眠障害型では「夜間頻尿改善10か条」に沿った生活指導を行い、改善なければ睡眠専門医への紹介を考慮する。不眠背景に睡眠時無呼吸症候群が隠れていることもある。

環境整備と排泄補助

治療無効例では、ポータブルトイレ、集尿器、ナイトバルーン、パッド・おむつなどの物理的対策が有効である。
認知症や要介護者では、多職種連携による支援体制が不可欠である。

質疑応答

– α1遮断薬の選択:尿道抵抗改善にはシロドシン、蓄尿障害にはナフトピジルが有利。
– 前立腺全摘後の対応:保険病名がつかずα遮断薬は非適応。β3と抗コリン薬の併用や抗コリン薬増量を検討。
– 漢方薬(八味地黄丸など):体型や体質によって効果に個人差があり、経験的に用いられる。
– 神経因性膀胱との違い:OABは特発性が多く、神経疾患があれば保険病名の記載が必要となる。

コメントは停止中です。