当院ではウォンツ伊勢丘薬局薬剤師と定期的に勉強会を実施しております。
内容要約を以下に記します。
心不全の分類と治療の全体像
心不全は心筋障害、血行動態の異常、不整脈などにより引き起こされる。駆出率(EF)によって、HFrEF(EF<40%)、HFpEF(EF≧50%)、HFmrEF(EF 40〜49%)に分類される。
HFrEFでは収縮障害が主体であり、薬物療法が中心である。
一方、HFpEFでは左室拡張障害が主体であり、原因疾患の治療が優先される。
ステージ分類に基づく治療方針
- ステージA:高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、CKDなどのリスク因子を持つが心不全症状がない状態である。予防的治療として、エナラプリル(レニベース®)2.5〜20mg/日 分1〜2回の使用が基本とされる。
- ステージB:無症候性左室機能不全。カンデサルタン(ブロプレス®)4〜12mg/日 1回や、ビソプロロール(メインテート®)0.625〜5mg/日 1回が用いられる。
- ステージC:症候性心不全であり、NYHA分類に応じた薬剤導入が行われる。
- ステージD:治療抵抗性で末期的な状態であり、心臓移植や緩和ケアの対象となる。
NYHA分類別の薬物療法
- II〜III度:利尿薬として、フロセミド(ラシックス®)20〜40mg/日 分1〜2回、アゾセミド(ダイアート®)30〜60mg/日 1回を使用し、うっ血を解除する。症状が安定すれば、ベータ遮断薬(ビソプロロール/メインテート®)を導入し、MRA(スピロノラクトン/アルダクトンA®)25〜50mg/日 1回を追加する。
- IV度:重症例では、トルバプタン(サムスカ®)7.5〜15mg/日 1回を使用し、ナトリウムを排出せず水分排出を促す。SIADHにも適応があるが、これは先発品のみの適応である。
新規心不全治療薬の特徴と用法
- サクビトリル/バルサルタン(エンレスト®):ACE阻害薬とは併用禁忌であり、切り替え時には36時間空ける必要がある。初回50mg錠 1回2錠を1日2回、最大200mg錠 1回2錠を1日2回。
- イバブラジン(コララン®):2.5mg 1日2回食後から開始し、最大7.5mg 1日2回まで増量。ベータ遮断薬と併用される。
- ベルイシグアト(ベリキューボ®):2.5mg/日 から開始し、2週間ごとに最大10mg/日まで増量。PDE5阻害薬や硝酸薬との併用には注意が必要である。
治療アルゴリズムと薬剤導入の順序(HFrEF)
- ACE阻害薬(例:エナラプリル/レニベース®)またはARB(カンデサルタン/ブロプレス®)を開始。
- 状態が安定したら、ベータ遮断薬(ビソプロロール/メインテート®)を導入。
- MRA(スピロノラクトン/アルダクトンA®)を追加。血清カリウム5.5mEq/L以上で中止または減量。
- 症候が残存する場合は、エンレスト®への切り替えまたはSGLT2阻害薬の追加を検討。
- ダパグリフロジン(フォシーガ®)10mg/日 1回
- エンパグリフロジン(ジャディアンス®)10mg/日 1回
- さらに不十分な場合、イバブラジン(コララン®)やピモベンダン(ピモベン®)0.125mg/kg/回 点滴静注を使用する。
- 最終的にはペースメーカーなどのデバイス治療も選択肢となる。
EFに基づく治療戦略と心エコー評価
EFは心エコーで評価され、心不全治療の根拠となる。
- HFpEF(EF≧50%):心室内腔の狭小化。
- HFrEF(EF<40%):心収縮力の著明な低下。
- HFmrEF(EF 40〜49%):中間型。
HFrEFに対する第一選択治療は、ACE阻害薬/ARB、ベータ遮断薬、MRAの3剤併用であり、症状が残る場合にSGLT2阻害薬やARNIを追加する。
ベータ遮断薬使用時の留意点
ビソプロロール(メインテート®)の導入は、病状安定後に行う。喘息合併例では、β1選択性を考慮し、使用には慎重を期す。副作用には、徐脈、抑うつ、消化器症状、めまいなどがある。3〜6ヶ月経過後も倦怠感が持続する場合には減量を検討するが、原則中止せず継続が基本である。
併存疾患の治療と心不全管理への影響
- 不整脈:徐脈にはペースメーカー、心房細動にはレート・リズムコントロールと抗凝固療法。
- 冠動脈疾患・弁膜症:血行再建術や弁形成術の適応を検討。
- 高血圧・糖尿病:HbA1c 7%未満を目指す。
- COPD・喘息:併行治療が必要であり、β遮断薬使用時のリスク評価が重要である。