当院ではウォンツ伊勢丘薬局薬剤師と定期的に勉強会を実施しております。
内容要約を以下に記します。
●関節リウマチ治療の目標と位置づけ
関節リウマチの治療目標は完治ではなく寛解を目指すことである。3つの寛解を達成・維持することで長期予後を改善する。治療は薬物療法が中心であり、必要に応じてリハビリテーションやステロイド関節注などを併用する。
診断後に薬物療法を開始し、有効なら継続する。治療目標達成後は薬物の減量を検討し、不十分な場合は薬の追加・変更を行う。
・ 治療薬の概要と注意点
治療薬には疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)、NSAIDs、ステロイド薬がある。
メトトレキサートなどの免疫抑制作用のある抗リウマチ薬は感染症につ注意が必要である。
潜在性結核感染症の顕在化
B型肝炎の再活性化
ニューモシスチス肺炎など
を起こしうるため、治療前後の感染症検査が必須である。
発症早期であるほど薬物療法への反応性が高いため、早期診断・治療が重要であり、これによりQOLの向上が期待できる。
・ 治療選択と2024年アルゴリズム
現在はメトトレキサート(MTX)が中心的な薬剤(アンカードラッグ)とされている。MTXが使用できない場合は、他の従来型抗リウマチ薬が用いられる。
2024年の改訂版アルゴリズムによると、
MTX投与後、原則として6ヶ月以内に治療目標を達成できない場合は次の治療フェーズへ移行する。
治療開始後3ヶ月で改善が見られない場合は、治療の見直しが必要である。
MTXの皮下注投与は内服より有効性と安全性が期待されるが、コスト面から未投与患者ではまず内服が優先される。
・ NSAIDs・ステロイド薬・メトトレキサート(MTX)について
NSAIDsは、疼痛緩和目的で必要最少量・短期間の使用が望ましく、ステロイドも早期かつcsDMARDs*と併用し、必要最少量を可能な限り短期間(数ヶ月以内)で減量・中止する。
*筆者補足)
csDMARDs:従来型合成DMARDs 化学的に合成された、古くからある薬剤。主に経口薬。 メトトレキサート、アザルフィジンなど。
bDMARDs:生物学的DMARDs 生物学的技術を用いて作られた薬剤。特定の分子(サイトカインなど)を標的とする。主に注射薬。 シンポニー、オレンシアなど。
tsDMARDs:標的合成DMARDs(JAK阻害薬) 細胞内の情報伝達を阻害する薬剤。経口薬。 バリシチニブ(オルミエント®)など
メトトレキサート(MTX)は腎排泄型のため、腎障害のある患者には禁忌である。また、妊婦や授乳婦も禁忌となる。
関節リウマチに対する用法は、通常週1回6mgから開始し、1回または2〜3回に分割して1〜2日間で経口投与する。
1週間の総投与量は16mgを超えない。
4〜8週間投与しても効果が不十分な場合、1回2〜4mgずつ増量する。
副作用予防として、投与24〜48時間後に葉酸を服用することが有効である。
・ アザルフィジン・JAK阻害薬(オルミエント)について
アザルフィジンは関節リウマチのみに適応される。
用法は成人1日1gを朝夕食後の2回に分割投与し、1〜2ヶ月で効果が現れる。
高齢者は少量から開始する。
JAK阻害薬のバリシチニブ(オルミエント®)は腎排泄型のため、重度の腎機能障害患者には禁忌である。
腎機能に応じて用法が異なり、正常・軽度では4mg、中等度では2mgを1日1回投与する。eGFRが30未満の重度の患者には原則投与しないが、有益性が上回る場合は2mgを48時間ごとに最大7回まで投与可能である。eGFRが15未満の場合は投与不可である。
・ スマイラフ・TNF-α阻害薬(シンポニー)について
ペフィシチニブ(スマイラフ®)は肝代謝型のため、重度の肝機能障害患者には禁忌である。
治療効果不十分な関節リウマチに適応される。
通常用量は100mg(1日1回経口)で、中等度の肝機能障害患者には50mgを1日1回経口投与する。
TNF-α阻害薬のゴリムマブ(シンポニー®)は、結核患者などを除き大きな禁忌はない。
MTX併用時は50mg、非併用時は100mgを4週に1回皮下注する。注射器のカバーにラテックスが含まれるため、ラテックス過敏症の患者には注意が必要である。
・ 新薬ナノゾラ・オレンシア・メトジェクトについて
新薬のオゾラリズマブ(ナノゾラ®)もTNF-α阻害薬で、1回30mgを4週間隔で皮下注する。
特徴として、ラクダ科動物由来の抗体を用いた「ナノボディ技術」により製造されている。分子量が小さいため炎症部位への到達性が高く、血清アルブミンと結合することで体内での滞在時間が長くなり、4週に1回の投与が可能である。
アバタセプト(オレンシア®)は、効果不十分な関節リウマチに適応される。禁忌は特にない。
点滴静注製剤を初回投与後、同日に本剤125mgを皮下注し、その後は週1回125mgを皮下注する。または、初回から週1回125mgの皮下注で開始することも可能である。
メトジェクト®はMTXの皮下注製剤である。
用法は7.5mgを週1回皮下注から開始し、最大15mgまで増量可能である。増量は4週を目安に2.5mgずつ行う。
経口MTXからの切り替えも可能であり、経口の投与量に応じて注射の開始量が設定されている。
MTX経口薬と注射薬の比較
MTXの経口薬と注射薬を比較すると、注射薬は週1回の投与で済むため、分割投与が必要な経口薬に比べて服薬忘れを防ぎやすい利点がある。また、消化器系の副作用が少なく、30分で最大血中濃度に達するため吸収率が高い。自己注射も可能である。
追記:本文にない薬剤
- NSAIDs (非ステロイド性抗炎症薬)
- 代表的な商品名を追加: ロキソニン®(ロキソプロフェン)、セレコックス®(セレコキシブ)、ボルタレン®(ジクロフェナク)など
- ステロイド薬
- 代表的な商品名を追加: プレドニン®(プレドニゾロン)、メドロール®(メチルプレドニゾロン)など
- JAK阻害薬
- オルミエント以外の商品名も追加: リンヴォック®(ウパダシチニブ)、ゼルヤンツ®(トファシチニブ)、ジセレカ®(フィルゴチニブ)
4.アクテムラ®(トシリズマブ)
・既存治療で効果不十分な関節リウマチに適応
MTXとの併用だけでなく、単剤でも使用可能
他の生物学的製剤と比較して感染症リスクが比較的低いとされる。
投与方法: 点滴静注製剤と皮下注射製剤がある。
- 点滴静注: 4週間隔で体重に応じた用量(8mg/kg)を投与
- 皮下注射: 体重60kg以上は162mgを2週間隔、60kg未満は162mgを3週間隔で投与
主要な関節リウマチ治療薬一覧
1. TNF阻害薬(最大の市場シェアを持つクラス):
- アダリムマブ(ヒュミラ®およびバイオシミラー)
- 世界最大の売上を誇る関節リウマチ治療薬
- 用法:2週間隔で40mgを皮下注射
- エタネルセプト(エンブレル®およびバイオシミラー)
- 長期安全性データが豊富
- 用法:週2回25mgまたは週1回50mgを皮下注射
- インフリキシマブ(レミケード®およびバイオシミラー)
- 最初に承認されたTNF阻害薬の一つ
- 用法:3mg/kgを0, 2, 6週、以後8週間隔で点滴静注
- ゴリムマブ(シンポニー®)
- 月1回投与の利便性
- 用法:MTX併用時は50mg、非併用時は100mgを4週に1回皮下注
- セルトリズマブ ペゴル(シムジア®)
- PEG化により半減期延長
- 用法:初回400mgを0, 2, 4週、以後2週間隔で200mgを皮下注射
- オゾラリズマブ(ナノゾラ®)
- 新しいナノボディ技術を活用した製剤
- 用法:1回30mgを4週間隔で皮下注
2. 従来型DMARDs (csDMARDs):
- メトトレキサート(リウマトレックス®、メトレート®、トレキサメット®、メトジェクト®)
- 依然としてアンカードラッグ(第一選択薬)
- 用法:週1回6-16mg経口または皮下注
- サラゾスルファピリジン(アザルフィジン®)
- MTX禁忌時の選択肢として重要
- 用法:1日1gを朝夕2回に分割経口投与
- レフルノミド(アラバ®)
- 一部の国では2番目に多く使用されるcsDMARD
- 用法:初日100mg、2日目100mg、その後1日20mg経口投与
- タクロリムス(プログラフ®)
- 特に日本で使用頻度が高い
- 用法:1日1〜3mgを経口投与
- イグラチモド(ケアラム®、コルベット®)
- 日本で開発された薬剤
- 用法:1日25mgから開始し、1〜4週間後に50mgに増量
- ブシラミン(リマチル®)
- 日本で比較的多く使用
- 用法:1日100〜300mgを3回に分けて経口投与
- ミゾリビン(ブレディニン®)
- 日本独自の薬剤
- 用法:1日150mgを1日1回または2〜3回に分けて経口投与
3. JAK阻害薬(急速に市場シェア拡大中):
- ウパダシチニブ(リンヴォック®)
- 高い効果と1日1回投与の利便性
- 用法:1日1回15mg経口投与
- トファシチニブ(ゼルヤンツ®)
- 最初に承認されたJAK阻害薬
- 用法:1回5mgを1日2回経口投与
- バリシチニブ(オルミエント®)
- 1日1回投与の利便性
- 用法:1日1回4mg(腎機能に応じて2mg)経口投与
- フィルゴチニブ(ジセレカ®)
- JAK1選択性が高い
- 用法:1日1回200mg経口投与
- ペフィシチニブ(スマイラフ®)
- 日本で開発されたJAK阻害薬
- 用法:1日1回150mg経口投与(肝機能障害時は減量)
4. IL-6阻害薬:
- トシリズマブ(アクテムラ®)
- IL-6阻害薬の代表的薬剤
- 用法:点滴静注(8mg/kg・4週間隔)または皮下注射(162mg・1〜2週間隔)
- サリルマブ(ケブザラ®)
- より新しいIL-6受容体阻害薬
- 用法:2週間隔で200mgを皮下注射
5. T細胞共刺激調節薬:
- アバタセプト(オレンシア®)
- 独自の作用機序を持つ生物学的製剤
- 用法:点滴静注または125mgを週1回皮下注
6. CD20陽性B細胞枯渇薬:
- リツキシマブ(リツキサン®およびバイオシミラー)
- 欧米では使用頻度が高いが日本では関節リウマチへの適応なし
- 用法:1000mgを2週間隔で2回点滴静注
7. ステロイド薬(補助的治療):
- プレドニゾロン(プレドニン®)
- メチルプレドニゾロン(メドロール®)
8. NSAIDs(対症療法):
- セレコキシブ(セレコックス®)
- ロキソプロフェン(ロキソニン®)
- ジクロフェナク(ボルタレン®)
- その他多数