2025年3月22日・23日
日本アレルギー学会主催の第11回総合アレルギー講習会に参加して、アレルギー疾患に関するを最新の知見と実技指導をうけてきました。
以下の通り報告します。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
藤田医科大学ばんたね病院 総合アレルギー科
矢上晶子先生
矢上晶子先生
1. 食物アレルギーの有病率とQOLへの影響
● 世界的な有病率
- 食物アレルギーは地域差があるが、先進国や都市部で特に多い。
- 臨床診断と自己申告を合わせると、**全人口の約10%**が罹患している。
● QOL(生活の質)への影響
- 2022年の研究では、成人食物アレルギー患者のQOLスコアは中程度(4〜5)。
- 主な原因:食物の回避、誤食の不安、健康への影響、心理的ストレスなど。
2. 診断技術の進歩と診療実際
● 診断技術の進化
- 分子レベル(コンポーネント診断)の導入により、予後予測・治療評価が可能に。
- WHOでは1108種のアレルゲンが登録済、約200種が臨床で使用されている。
● 演者の施設での診療の進め方
- アレルギーか非アレルギーか、好酸球性かを判断。
- 血液検査、皮膚テスト、免疫ブロット、アレイ検査などを組み合わせ、負荷試験も併用。
- 診断精度と患者満足度の向上を重視し、診療報酬に関係なく丁寧に診断を行っている。
3. 代表的なアレルゲンと症候
● 果物アレルギーとGRP(Gibberellin-Regulated Protein)
- GRPは植物由来のたんぱく質で、熱安定性・消化酵素耐性が高く、重症化しやすい。
- モモのPru p 7が代表例。
- ヒノキやスギ花粉(Cry j 7)との交差反応性に注意。
● 花粉と交差する果物アレルギー(PFAS)
- 日本ではスギ花粉症患者の20%がPru p 7に感作。
- 症状:アナフィラキシー、顔面浮腫、喉頭浮腫など
- 補助因子:運動、NSAIDs等
- 問診では以下を重視:
- 食材の種類・産地・熟度、症状、花粉症の有無、居住地など
- 血液検査・プリックテストを併用
● 昆虫食とアレルギー
- 昆虫(コオロギなど)と**甲殻類(エビ・カニ)**との交差反応あり。
- トロポミオシン、アルギニンキナーゼ、ヘキサメリン2などのアレルゲンが関与。
- 欧州では昆虫食摂取に注意喚起(ダニ・甲殻類アレルギー者)。
- 具体例:
- コオロギバー摂取後のアナフィラキシー(カニアレルギーあり)
- コオロギラーメン摂取後の下痢・倦怠感(コオロギ飼育歴あり)
● 納豆アレルギー
- PGA(ポリガンマグルタミン酸)および納豆キナーゼが原因。
- アトピー性皮膚炎との関連がある場合は納豆キナーゼも検討。
4. 特異なアレルギー症候群
● α-Galアレルギー(哺乳類肉アレルギー)
- マダニ刺咬が発症の引き金。
- 数時間後に遅発型症状(嘔吐・下痢・じんましんなど)。
- 肉の摂取中止で改善傾向あり。
● ポークキャットシンドローム
- 豚肉と猫アレルギーの交差反応。
- 豚アルブミン(Sus s 1)がアレルゲン。
- 冷燻製豚ロースなど加熱が不十分な豚肉に注意。
● バードエッグ症候群
- 鳥(主にセキセイインコなど)との接触で感作され、卵黄・鶏肉で症状誘発。
- Gal d 5(a-livetin)による交差反応性が原因。
- 十分な加熱でアレルゲン性が低下。
5. その他の代表的アレルゲン
● 魚アレルギー
- パルブアルブミン(β型)と魚由来コラーゲンが主なアレルゲン。
- 生魚より加熱魚で症状が出る場合あり(コラーゲン変性による)。
- 全魚除去ではなく、負荷試験で安全な魚を見極めることが重要。
● コチニール色素アレルギー
- 食品(魚肉ソーセージ、グミ、和菓子)や**化粧品(アイシャドウ・口紅)**が原因。
- 最近は成人女性に多く、コロナ禍以降増加。
- **問診・血液検査・皮膚テスト(Prick-to-prick)**で診断。
- コチニール含有品の回避が生活指導の中心。
6. 検査・診断法の進化
- コンポーネント特異的IgE抗体検査が有効
- その他:
- プリックテスト
- 特異的IgE
- BAT(好塩基球活性化試験):ピーナッツやゴマなどで有用
- 食物別に感度・特異度の高い検査を選択し、組み合わせて活用
7. 治療の最前線
● オマリズマブ(抗IgE抗体)
- 食物アレルギーへの応用が期待されている。
- 複数食物アレルギーにも効果。
- 治療継続で耐性獲得の可能性あり(緊急治療には使用不可)。
● その他の治療薬
- IL-4/13阻害薬、JAK阻害薬などの蕁麻疹治療薬の応用が進行中。
8. 成人食物アレルギーの社会的課題
- 牛乳や卵などの小児アレルギーの成人移行期管理が不十分。
- 小児科と成人診療科の連携が必要。
- 外食・中食の普及により社会生活上の困難が増加。
- 誤食の不安を抱える成人患者が多く、社会的な理解と支援が求められている。
おわりに
成人の食物アレルギー診療は、科学的な診断・治療だけでなく、患者の心理的背景、生活環境、社会支援の在り方までを含む包括的なアプローチが必要である。個別化医療の実践と啓発活動を通じて、患者のQOL向上を目指すことが今後の課題である。
