当院ではウォンツ伊勢丘薬局薬剤師と定期的に勉強会を実施しております。
内容要約を以下に記します。
人の慢性副鼻腔炎の重症度分類
成人の慢性副鼻腔炎に対する明確なスコアリングシステムによる重症度分類は、急性鼻副鼻腔炎のように具体的な点数表としては示されていません。
以下の臨床的特徴や検査所見、治療反応性などからその重症度が判断され、治療方針が決定されます。
- 症状の持続期間と内容: 鼻漏、後鼻漏、鼻閉、咳嗽などの呼吸器症状が12週以上持続すること自体が慢性副鼻腔炎の診断基準であり、これに加えて頭痛、頬部痛、嗅覚障害などを伴うことがあります。これらの症状の程度や生活への影響も重症度を判断する上で考慮されます。
- 鼻内所見:
- 鼻内視鏡検査では、中鼻道を中心に膿性、粘膿性または粘性鼻汁の存在、鼻粘膜の腫脹、および鼻茸の有無と大きさが重要な所見となります。
- 特に大きな鼻茸や中鼻道の高度閉塞がある場合は、マクロライド療法が期待できない難治性であることが示唆されます。鼻茸の大きさは「鼻茸スコア」で0~4点(片側)で評価され、両側で0~8点となります。
- 画像検査(CT):
- CT検査は診断に必須であり、骨条件と軟部組織条件で多くの情報を提供します。
- CT所見の重症度評価にはLund-Mackayスコアが広く用いられますが、患者のQOLや臨床症状との相関は限定的であることに注意が必要です。CTスコアが高値であることは、より広範な病変を示唆します。
- 組織所見と炎症タイプ:
- 特に好酸球性鼻副鼻腔炎は、粘膜組織への著明な好酸球浸潤と多発性の鼻茸形成を特徴とし、難治性・再発性であることが注目されています。
- これは慢性副鼻腔炎の重要な表現型(フェノタイプ)の一つであり、JESRECスコアなどを用いて診断されます。
- 好酸球性鼻副鼻腔炎は喘息合併率が高く、喘息の合併は鼻副鼻腔炎の難治化や術後再発に関与します。
- 治療への反応性(難治性・再燃性): 薬物療法(特にマクロライド療法)で効果が不十分な場合や、再燃を繰り返す症例は、より重症であると判断され、手術療法が考慮されます。
成人の慢性副鼻腔炎に対する治療
慢性鼻副鼻腔炎の治療は、局所処置、薬物療法、手術療法を組み合わせて行われます。
- 局所処置と局所療法
- 鼻内処置・副鼻腔自然口開大処置: 腫脹した鼻粘膜を収縮させ、副鼻腔内に停滞する病的貯留液を吸引・除去する上で非常に重要です。これにより副鼻腔の換気改善が期待されます。
- 鼻洗浄: 生理食塩水による鼻洗浄は、粘液や痂疲(かさぶた)を洗い流し、アレルゲン、バイオフィルム、炎症性メディエーターを除去し、粘液線毛輸送機能を改善する効果が期待できます。特に内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)後の鼻症状改善に有用です。
- ネブライザー療法: 薬液を霧化し、鼻副鼻腔病変部に到達させることを目的とします。鼻処置や副鼻腔自然口開大処置の後に行うと効果的とされています。
- 上顎洞穿刺・洗浄: 急性鼻副鼻腔炎では早期寛解に有効ですが、慢性鼻副鼻腔炎では侵襲的であるため、頬部痛などの強い症状がなければ用いられることは少ないです。
- 薬物療法
- マクロライド療法(少量長期投与):
- 14員環マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、エリスロマイシン)を通常量の半量で約12週間投与します。これは、好中球性炎症が主体である1型・3型炎症の慢性鼻副鼻腔炎に有効とされます。
- 長期投与の際には、QT延長などの心疾患、他の薬剤との相互作用(特にCYP3A4代謝薬物との併用禁忌や注意)に十分注意が必要です。
- 気道粘液溶解薬:
- カルボシステインが用いられます。重篤な副作用が少なく、長期間安全に使用できるとされています。マクロライド療法との併用有効性が多施設共同試験で確認されています。
- ステロイド薬:
- 好酸球性鼻副鼻腔炎に有効です。中等症以上では短期間の経口ステロイド薬が考慮されます。(具体的な投与量と期間は明記されていませんでした。)
- 軽症例や術後再発予防には点鼻・噴霧ステロイド薬が有効ですが、慢性副鼻腔炎への保険適用に注意が必要です。
- 喘息を合併している場合には、経口吸入ステロイド薬を鼻から呼出する経鼻呼出法も有効です。
- 生物学的製剤:
- 特に鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎で、経口ステロイド薬や手術でコントロールが不十分な場合に、デュピルマブ(抗IL-4受容体α鎖抗体)(デュピクセント®)が使用できます。
- 抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ)、抗IL-5受容体抗体(ベンラリズマブ)なども有効性が報告されています。
- 漢方薬: 辛夷清肺湯、荊芥連翹湯などが用いられますが、エビデンスは乏しいとされています。
- マクロライド療法(少量長期投与):
筆者補足)当院ではこれらの漢方薬を使用しますが、好酸球性副鼻腔炎ではない慢性副鼻腔炎では効果が期待されますし、治療が奏功した経験例があります。
- 急性増悪時の抗菌薬: 慢性鼻副鼻腔炎自体には通常の抗菌薬は使用されません(重要)。
- 細菌感染による急性増悪時には、細菌検査に基づき、急性鼻副鼻腔炎に準じた抗菌薬治療を行います。
- 手術療法
- 内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)
- 適応: 大きな鼻茸や中鼻道の高度閉塞がある症例、マクロライド療法で効果が期待できない症例、完治に至らない症例、再燃を繰り返す症例に適用されます。
- 目的: 副鼻腔の換気・交通路を確保し、病変を除去することで、副鼻腔の空洞性治癒と粘膜病変の改善を目指します。特に篩骨蜂巣の隔壁を除去し、副鼻腔の自然口を拡大して単洞化します。
- 術後治療: 術後も局所処置が非常に重要で、鼻洗浄を継続し、鼻噴霧用ステロイド薬を併用します。術後にマクロライド療法を継続することで、手術効果が増強されるとされています(最大3ヵ月を目安)。
- 再発時: 再発傾向が認められた場合は、鼻茸を鉗除(かんじょ)し、短期間の経口ステロイド薬で対応します。
- 内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)
成人の慢性副鼻腔炎に対する14員環マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、エリスロマイシン)の少量長期投与について
「鼻副鼻腔炎診療の手引き2024」によると、慢性鼻副鼻腔炎の薬物療法において、マクロライド系抗菌薬の少量長期投与(マクロライド療法)が中心的な治療法の一つとされています。
投与対象と目的:
- この療法は、1型・3型炎症による好中球性炎症が主体の慢性鼻副鼻腔炎に有効とされています。
- 14員環マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、エリスロマイシン)が用いられます。
- その作用は、サイトカインやケモカインの産生抑制、粘液分泌抑制、炎症細胞機能の制御、バイオフィルム産生やクオラムセンシングといった細菌機能の抑制など、さまざまな免疫調節作用によるものと考えられています。
- 特に粘液分泌抑制作用により、鼻漏・後鼻漏や鼻のかみやすさといった鼻汁関連症状に対する有効性が高いとされています。
- ただし、好酸球性鼻副鼻腔炎には効果が乏しいとされています。
投与量と期間:
- これらの抗菌薬は、通常量の半量で約12週間程度投与されます。
- 臨床効果は2~4週間で現れ、1~3か月でプラトーに達します。
- もし効果が見られない場合は、速やかに他の治療法に切り替えるべきです。
- 効果があった症例でも、治療は3~6か月で終了を目安とし、症状が再燃した場合には同様の再投与で効果が得られるとされています。
- 効果判定は、鼻漏・後鼻漏などの自覚症状の改善を指標とします。副鼻腔陰影の改善には時間を要するため、単純X線検査やCT検査は臨床効果の判定には不適当とされています。
注意点:
- 長期投与にあたっては、QT延長などの心疾患の有無や、抗不整脈薬などの併用薬との相互作用(特にCYP3A4代謝薬物との併用禁忌や注意)に十分注意が必要です。
- マクロライド療法の効果が期待できない病態として、大きな鼻茸や中鼻道の高度閉塞がある症例、急性増悪時、急性鼻副鼻腔炎、好酸球性鼻副鼻腔炎が挙げられています。
- 経過中に急性増悪が起きた場合、肺炎球菌やインフルエンザ菌が14員環マクロライド系抗菌薬に高率に耐性化しているため、急性鼻副鼻腔炎に準じた抗菌薬(アモキシシリンなど)の投与が必要です。
【補足】 クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、エリスロマイシンの「通常量」およびその「半量」にあたる具体的なミリグラム(mg)表記の投与量については、資料内には明記されていません。資料では一貫して「常用量の半量」と示されています。
