Year review in assembly 4 びまん性肺疾患学術部会

2025年4月11日(金曜日)~13日(日曜日)に
第65回日本呼吸器学会学術講演会が開催されました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

●Year review in assembly 4 びまん性肺疾患学術部会
宮崎泰成先生

間質性肺炎急性増悪(AE)の病態理解と治療戦略の進展

1. PPFおよび分類不能型IIPsにおける急性増悪のリスクと予後
 進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PPF)の急性増悪は、特発性肺線維症(IPF)のそれと類似した様相を呈することが、INBUILD試験の追加解析で示された(ERJ Open Research)。
IPF以外のPPF患者における急性増悪率は8.7%であり、リスク因子として努力肺活量(FVC)や一酸化炭素拡散能(DLCO)の低値が挙げられ、特にDLCOが低いほどリスクは増加した。
ニンテダニブ治療はリスクを低下させる傾向が見られたものの、統計的な有意差は認められなかった。一方で、急性増悪後の死亡率は30日時点で19%、90日時点で32%と、過去の報告よりも低下傾向にあり、近年の治療の進歩が示唆された。
 分類不能型間質性肺炎(IIPs)においても、PPFの表現型を示す症例は予後不良であることが、河野先生らによる研究で報告された(Respiratory Investigation 2025)。
分類不能型IIPsは急性増悪の頻度が極めて高く(3年間で約40%)、予後不良であった。この群では血清サーファクタントプロテインD(SPD)が高値を示す傾向があり、SPDが予後予測マーカーとなりうる可能性が示された。

2. 間質性肺炎急性増悪の新たなバイオマーカーと病理学的特徴
病理学的な観点からは、肺組織に扁平上皮化生を有する症例では急性増悪のリスクが高いことが報告された。
これは、肺胞上皮の修復過程の異常が急性増悪の病態に関与している可能性を示唆する。
バイオマーカー探索においては、アラキドン酸代謝産物の一つである5-HETEが、IPF急性増悪の有望な候補として報告された(Respirology)。急性増悪群では、安定期IPF群と比較して血清5-HETE値が有意に高値であり、病態の活動性を非侵襲的に評価するツールとしての期待が高まる。

3. 間質性肺炎急性増悪後の合併症と治療
急性増悪後の経過における合併症として、院内肺炎(HAP)が高率(32.2%)に発生することが山崎先生らにより報告された。注目すべきは、原因菌としてコリネバクテリウムが最多であった点であり、原因不明例に対するエンピリック治療のターゲットとして考慮すべきであると提言された。また、ステロイドパルス療法後のサイトメガロウイルス(CMV)再活性化も10%に見られ、治療中の定期的なアンチゲネミア測定の重要性が改めて強調された。

4. 間質性肺炎急性増悪に対する治療法の再評価
急性増悪の標準治療とされるステロイドパルス療法について、その有効性を疑問視する報告が中国からなされた。
IPF患者238例を対象とした傾向スコアマッチング解析では、パルス療法群と低用量ステロイド群との間で3ヶ月および12ヶ月死亡率に有意差は認められなかった。
一方で、新たな治療選択肢として、ポリミキシンB固定化線維カラム(PMX)を用いた血液浄化療法の有効性が示唆された(Respir Investig. 2025)。
安部信二先生らの報告によると、PMX治療群の28日生存率は65%と、従来の治療群(40%)に比べて有意に良好であった。特に、治療回数が多いほど(3回>2回)、また治療開始が早期(2日以内)であるほど予後が良い傾向が見られ、今後の治療戦略におけるPMXの位置づけが注目される。

間質性肺炎合併肺癌の包括的マネジメント

1. リスク因子:遺伝的背景と環境要因
まず、「間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント 2025年」が改訂され、最新の知見が反映されたことが報告された。
遺伝的要因としては、サーファクタント関連遺伝子(SFTPC, SFTPA1/A2など)の異常が肺癌合併リスクを高めることが知られているが、特にSFTPA変異は発癌性が高く、肺癌合併率の高さと生存期間の短縮に関連することが示された。
環境要因としては、韓国からの大規模コホート研究で、居住地の二酸化窒素(NO2)濃度が高いほどIPF患者の肺癌累積発症率が増加することが示された。高濃度群(21ppb以上)ではリスクが2倍に増加し、大気汚染が肺癌発症に寄与する可能性が示唆された。

2. 薬物療法:免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と抗線維化薬
間質性肺炎合併肺癌に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の使用は、依然として大きな課題である。
磯部先生らによる後方視的研究では、ICI関連間質性肺炎(ICI-ILD)の発症率が30%と高率で、致死的なグレード5も4.5%に認められた。
特にDADパターンのICI-ILDは予後不良であった。
しかしその一方で、何らかの免疫関連有害事象(irAE)を発症した患者は、発症しなかった患者よりも生存期間が有意に良好であるという興味深い結果も示された。これは、ICIが効果を発揮していることの裏返しとも解釈でき、ICIの恩恵とリスクのバランスをいかに取るかが今後の課題となる。
さらに、ICIの効果予測因子として、肺腺癌などで発現する転写因子TTF-1が注目される。TTF-1陰性の非小細胞肺癌(NSCLC)患者では、陽性患者に比べてPD-1阻害薬投与後の無増悪生存期間および全生存期間が短い傾向にあり、治療効果の層別化マーカーとなる可能性が示唆された。
他方、抗線維化薬であるニンテダニブは、間質性肺炎の進行抑制のみならず、肺癌治療における役割も期待されている。IPF合併小細胞肺癌(SCLC)を対象とした第II相試験では、化学療法(カルボプラチン+エトポシド)にニンテダニブを併用することで、治療後28日以内の急性増悪発症率が3%と低く抑えられた。これは、ニンテダニブが化学療法に伴う肺障害を抑制し、安全な治療遂行と生存期間の延長に寄与する可能性を示すポジティブな結果である。

間質性肺炎に伴う肺高血圧症(PH-ILD)の診断と治療

PH-ILDは生命予後を著しく悪化させる合併症であり、その診断と治療における新たな展開が報告された。

1. PH-ILD治療の新時代:トレプロスチニル吸入薬の登場
2023年9月、トレプロスチニル吸入薬(トレプロスト吸入薬®)がPH-ILDに対して本邦で保険適用となり、治療の選択肢が大きく広がった。
欧州の臨床調査では、これまで右心カテーテルによる確定診断が十分に行われず、適応外でPDE-5阻害薬などが使用されるケースが多かった実態が明らかにされており、適応を持つ治療薬の登場は意義深い。
*筆者補足)トレプロスチニル吸入薬:プロスタサイクリン経路を活性化することで肺血管拡張作用を発揮し、PH-ILD患者の肺血管抵抗を低下させ、運動耐容能の改善を目的として使用される。

2. 診断・病態評価の新たなアプローチ
診断においては、CT画像から肺末梢の微小血管(断面積5mm²以下)の体積を定量化する試みが報告された(Blue Journal)。
PH合併群では非合併群に比べて微小血管の割合が有意に少なく、この手法がPHの非侵襲的な評価に応用できる可能性が示された。
病態理解の面では、IPF患者におけるPHの進行様式は一様ではないことが明らかにされた。一部の患者では、比較的短期間に肺血管抵抗(PVR)が急速に悪化する「アクセレレイテッド群」が存在し、ベースラインのPVRが正常範囲内の患者からも約36%がこの急速悪化を示した。これは、PHの進行が非常に不均一(ヘテロジェナイティ)であり、軽症例でも慎重な経過観察が必要であることを示唆している。

3. トレプロスチニル吸入薬の有効性と限界
日本人ILD-PH患者を対象としたSakaoらの試験では、トレプロスチニル吸入は16週間の投与でPVRを有意に改善させただけでなく、6分間歩行距離(6MWD)、KL-6、FVCも改善させ、多面的な有効性が示された。
しかし、その有効性は疾患背景によって異なる可能性も示された。
COPDに伴うPHを対象としたPERFECTスタディでは、トレプロスチニル吸入群で死亡例が多く、試験が早期中止となるネガティブな結果に終わった(ERJ 2024)。
治療効果を予測する試みとして、一酸化窒素(NO)吸入試験の有用性が報告された。NOと酸素の併用吸入に対する急性肺血管反応性が、6ヶ月後のトレプロスチニル吸入治療の効果(PVR改善)を良好に予測できる可能性が示された。

緩和医療とTreatable Traits:QOL向上を目指す全人的アプローチ

最後に、ILD診療における緩和医療と「Treatable Traits(治療可能な形質)」という概念の重要性が強調された。

ILD治療の進歩により生命予後が改善する一方で、患者が抱える呼吸困難などの症状を緩和し、QOLを維持・向上させることが新たな目標となっている。
坂東先生らの論文(RI掲載)では、MDD(集学的検討)を含めた早期診断が、薬物療法だけでなく、呼吸リハビリテーション、酸素療法、そして併存症に対する「Treatable Traits」アプローチや緩和ケアを統合的に提供する上で極めて重要であると論じられた。
日本のIPF治療ガイドラインにおいても、これらの非薬物療法や緩和的ケアの重要性は明記されている。
ただし、そのエビデンスレベルは、労作時酸素療法や呼吸リハビリテーションで「Low」、オピオイド使用に至ってはエビデンスレベルでの評価はできず「エキスパートオピニオン」に留まるなど、今後の研究によるエビデンス構築が求められる領域でもある。

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