2025年4月11日(金曜日)~13日(日曜日)に
第65回日本呼吸器学会学術講演会が開催されました。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
●教育講演9
気道分泌の病態生理と治療
原 悠先生 横浜市立大学呼吸器病学
喀痰調整薬の考え方
気道分泌の病態を考慮する上で、喀痰調整薬は重要な役割を担う。
分泌抑制や分泌・輸送促進といった作用機序に基づき分類され、薬効が定められている。
単剤でコントロール困難な場合は、作用機序の異なる薬剤の併用が必要となる。
ガイドラインと粘液の基礎
「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2025」では喀痰に関する部分が注目される。気道粘液の主成分はムチンであり、過分泌病態下ではMUC5ACとMUC5B産生が増加する。特にMUC5AC増加は、喘息やCOPDにおける重篤な気流制限の要因となる。粘液調整薬は4種類に分類され、病態に応じた使い分けが求められる。
COPDにおけるコホート研究と初期治療
COPD Gene study(4062名、5年追跡)やSPIROMICSといった大規模コホート研究が行われた。
COPD Gene studyでは、喫煙歴、CT所見、症状、スパイロメトリー所見を組み合わせ、全死亡率への影響を検討した。
症状の存在(喀痰・呼吸困難)が死亡率に大きく関与することが示されたので、COPDでは粘液分泌抑制が重要となる。
基礎研究ではLAMAがエラスターゼ誘導性MUC5AC産生を抑制しやすく、臨床研究でもチオトロピウムが咳嗽・喀痰症状を改善させることが示されている。 但し喘息の粘液分泌には効果は少ない。なぜならIL-13誘導MUCACは抑制しないので、IL-13が杯細胞過形成に重要な役割を持つ喘息においてLAMAの粘液分泌抑制効果は、COPDにおける効果より劣る可能性。
LAMAは粘液分泌予防に重要だが、形成された粘液栓の除去はCOPDでは依然として困難である。
COPDにおける粘液栓の臨床的意義
COPDやACOでは、胸部CTで中枢気道を含む粘液栓形成が確認される。
ガイドライン2025で導入されたミューカススコアにより、粘液栓のエビデンス評価が容易になった。大規模コホート研究から以下のことが判明した。
気道内粘液栓の臨床的意義
– GOLD病期進行とともに増加。
– 喀痰・呼吸困難症状と関連。
– 労作時SPO2低下と関連。気腫性変化とは必ずしも相関せず。軽症でも低下する症例あり。
– 長期に停滞し、QOL低下、増悪頻度増加、経年的な呼吸機能低下に関与。
– 全死亡に影響(JAMA 2023)。
– 下葉に多い傾向。
– 但し気腫性変化とは変化とは関連しない。
粘液栓が存在しても症状がない例「Silent Mucus Plugs」も存在するが、6分間歩行距離低下など病態の重症度を反映する可能性がある。既喫煙者で頻度が高いとの報告もあり、注意深い観察が必要となる。
粘液栓の存在は生命予後に影響する重要因子であり、喫煙の既往がある患者ほど胸部CTを撮影して粘液栓の評価が必要であろう。
またGOLD分類と組み合わせることで死亡率予測精度が向上する。
粘液栓を有する患者は喀痰や呼吸困難が多く、5年後に調べても同様に粘液栓を有する。
粘液栓を有する症例ほど一秒率が低下しSGRQスコアが上昇(悪い)。
粘液栓スコアが高い症例は、死亡率が高い。(JAMA 2023;329:1832)
粘液栓はCOPDの重要な治療ターゲットであり、デュピクセントなど生物学的製剤の効果が期待される。
喘息における気道リモデリングと粘液栓
喘息では気道リモデリングが重要病態である。
リモデリングは上皮機能障害、粘液栓形成、平滑筋増生、線維芽細胞活性化などから成るが、一様には進行しない。
粘液栓形成は気道炎症に伴う早期変化と考えられ、進行抑制には早期の治療介入が重要となりうる。
SARPコホート研究などが重要である。
喘息病態では、IL-13がMUC5ACリッチなムチン産生に、IL-5が好酸球を介したEPO産生(粘稠度の高い粘液栓形成)に関与する。
喘息における粘液栓は、
– 重症喘息、気流制限、頻回増悪と関連。
– 慢性湿性咳嗽の有無とは関連なく存在する。
– 難治性好酸球性炎症。
– 長期に停滞する傾向。
– 鼻茸合併例、下葉に多い。
喘息における粘液栓とステロイド抵抗性
喘息でも粘液栓は長期追跡で停滞傾向があり、増悪を起こしやすい表現型と関連する。
重要な点として、粘液栓が多いほどIL-13による杯細胞化生、MUC5AC産生をステロイドは抑制できない(ステロイド抵抗性)であり、IL-4/STAT6経路もステロイド制御を受けにくい。
→ ステロイド抵抗性喘息における抗IL-4/13受容体抗体(デュピルマブ)などの生物学的製剤の有効性の根拠となる。
VENTURE試験でもデュピルマブ投与で呼吸機能改善が示された。
粘液栓の形態と治療効果予測
粘液栓の形態も重要で、喘息ではずんぐりした形状(stubby)と線状(stringy)がある。線状(stringy)の方が停滞しやすく除去されにくい。
この形態差は治療効果予測に有用となりうる。
喘息で粘液栓は重要な治療可能特性(Treatable Trait)だが、近年は生物学的製剤の治療効果予測バイオマーカーとしての可能性も示唆される。
ベースラインのミューカススコアが高いほど、治療による呼吸機能(FEV1)や喘息コントロール(ACT)の改善度が大きい。
ミューカススコアは治療ターゲットであると同時に、臨床効果の予測バイオマーカーとなりうる。(J Allergy Clin Immunol Pract 2025:52213-2198(25)00053-4)
生物学的製剤による粘液栓除去効果
JGLガイドライン2024でも気道粘液制御効果が言及され、生物学的製剤の役割が注目される。
強固な粘液栓には抗IL-4/13受容体抗体(デュピルマブ)などが有効である。
デュピルマブは粘液栓除去効果が強力と考えられるが、抗IL-5/5Rα抗体(メポリズマブ、ベンラリズマブ)や抗TSLP抗体(テゼペルマブ)にも効果を示すエビデンスが集積し、治療選択肢が増えている。
VESTIGE試験(デュピルマブ)では、投与後1ヶ月の早期からミューカススコアの有意な減少が確認され、効果は24週後も持続した。粘液栓除去は4週時点でも確認可能である。
生物学的製剤は粘液栓除去に加え、気道壁肥厚改善、気道内腔拡張、気道樹開通にも寄与する可能性が示唆されている。ベースラインのミューカススコアはメポリズマブの治療効果とも関連する。
症例提示と早期介入の意義
症例1:70代男性、重症喘息。
デュピルマブ投与4ヶ月後、粘液栓は著明改善、気道樹途絶も開通したが、スコアは完全消失せず(5点)、気道壁肥厚などリモデリングは残存した。粘液栓除去だけでは根本的なリモデリング改善が不十分な可能性を示唆する。
デュピクセント投与後速やかに粘液栓は除去されたが、気道壁肥厚は肥厚は残存している。
症例2:60代女性、罹病期間5年未満の喘息。
デュピルマブ投与6ヶ月後、ACTは23点に上昇、呼吸機能も著名改善、ミューカススコアは0点となり、気道樹描出も正常化した。
粘液栓形成はリモデリングの早期現象(Early Effect)であり、介入が遅れると線維化など後期変化(Late Effect)が進行する可能性がある。
→ 罹病期間が短い段階での早期の生物学的製剤導入が、リモデリング進行抑制につながる可能性を示唆している。
*筆者注釈)医療費の問題が解決されないと早期導入は難しいのではないか。
