2025年4月11日(金曜日)~13日(日曜日)に
第65回日本呼吸器学会学術講演会が開催されました。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
●コーヒーブレイクセミナー16
気管支拡張症
〜病態、診断、治療、そして併存疾患〜
3講演を以下にまとめました。
講演① 気管支拡張症における病態と診断・治療の新展開
朝倉崇徳先生 北里大学薬学部臨床医学(生体制御学)講師、慶應義塾大学医学部呼吸器内科助教
講演② 気管支拡張症合併喘息の適切な管理にむけて
松本久子 先生 近畿大学内科学教室 呼吸器・アレルギー内科主任教授
講演③ COPD と気管支拡張症の併存:病態理解と臨床的意義
山田充啓先生 東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座呼吸器内科学分野 准教授
1. 気管支拡張症(BE)の概念と診断
気管支拡張症(BE)は、画像上での気管支の拡張と、慢性的な咳嗽や喀痰といった症状を特徴とする疾患であり、多様な背景因子を持つ。近年は慢性炎症性疾患としての再定義が進んでいる。世界的に高齢女性を中心に有病率が増加しており、日本では15〜20万人と推計される。
診断にはCTによる「気管支径 > 肺動脈径」の所見と、臨床症状(慢性咳嗽、喀痰、増悪歴など)が必要である。無症候性病変もCTの普及により検出されることがある。
2. BEの原因と重症度評価
BEは特発性、感染後(例:結核)、免疫不全、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)、気管支喘息、COPD、リウマチ性疾患、さらには原発性線毛機能不全症候群(PCD)など、さまざまな基礎疾患を背景に発症する。
日本では非結核性抗酸菌(NTM)感染との合併が際立って多い。
重症度評価にはBSI(Bronchiectasis Severity Index)やFACEDスコア、BACI(合併症スコア)が用いられ、緑膿菌定着、FEV1低値、過去の増悪歴が予後因子として重要視される。
3. 治療の基本と個別化への展開
治療の基本は以下の通りである:
原因疾患への介入
気道クリアランス(リハビリ、吸引)
マクロライド長期療法(年2回以上増悪のある例など)
近年は炎症制御を軸とした個別化治療が重視されており、特に好中球性炎症、NETs、IL-1βの過剰といった病態が注目されている。
吸入抗菌薬も有効性が示されつつあるが、継続中止により効果が途切れること、長期使用に関するエビデンスが不十分であることが課題である。
4. 喘息との合併:Asthma + BE
喘息とBEはしばしば合併し、BE患者の7〜46%、重症喘息患者の最大68%に併存がみられる。副鼻腔炎、鼻茸、末梢血好酸球増加がリスク因子となる。
呼気NOが20.5ppb未満で、喀痰症状がある難治性喘息ではBE合併を強く疑うべきである。
特に、NOPSスコア(N: NO低値、O: 肺炎既往、P: 喀痰、S: 重症喘息)の4項目すべてを満たす症例では、BE合併率が100%に達するとの報告もある。
5. 喘息BE合併例における管理
ICSは喘息BE合併例にも一定の有効性があるが、高用量使用では局所免疫低下と感染リスク増加が懸念される。生物学的製剤(抗IL-5抗体、抗IL-4Rα抗体など)は有用性が示されているが、喘息単独に比してBE合併例では効果が限定的である。
また、呼気NO低値は緑膿菌などのグラム陰性桿菌検出と相関し、CT所見(粘液栓スコア、Reidスコア)も重要なリスク評価指標となる。
治療には気道クリアランス療法の併用が不可欠であり、アカペラ®やエアロビカ®などのデバイスを用いた排痰訓練が推奨される。
6. COPDとの併存:COPD + BE
COPDとBEの併存(COPD-BE)は、BE患者の30〜35%、COPD患者の4〜57%に認められる。併存例では増悪頻度、入院率、死亡率が高く、予後は不良である。
Traversiらによる欧州大規模レジストリ研究(EMBARC)では、ROSE基準を用いた客観的診断指標が導入され、4項目を評価する。
*筆者補足)ROSE基準(BEにおけるCOPD併存の指標)
R:Radiology – CTでびまん性肺気腫または気道壁肥厚あり
O:Obstruction – スパイロメトリーでFEV1/FVC < 0.7
S:Smoking – 喫煙歴あり(10 pack-years以上)
E:Emphysema – CTで肺気腫の明瞭な存在
各項目1点、計4点満点で、2点以上でCOPD併存の可能性が高いと判断される(臨床的確定診断には更なる検討が必要)。
7. 日本の実態とICONコホート
東北地方のICON(Ishinomaki COPD Network)コホートによる研究では、COPD患者の14%がBEを併存、うち3.3%は重症BEであった。COPD-BE群は年齢高値、FEV1低値、緑膿菌定着などの傾向があったが、症状や死亡率には有意差が見られなかった。
この結果は、画像所見が臨床的に意味を持たないBE症例も存在することを示唆している。
8. COPD-BEの治療戦略とICSの使い方
COPD-BEの治療には両疾患のガイドラインを併用したアプローチが求められる。
ICSは有用であるが、BEを併存する場合、緑膿菌定着による感染悪化リスクが問題となる。
一方、英国のCHEST誌(2023)の報告では、ICS使用による感染リスク増加は認められず、特に末梢血好酸球数が高い症例では安全性が高いことが示された。ICSの使用に際しては、炎症パターンに応じた個別化が必要である。
9. 今後の展望:炎症制御と分子標的治療
BEの治療は従来の感染制御から、炎症や粘液クリアランス異常に対する制御へと進展している。
新たな治療戦略として以下が挙げられる:
好中球性炎症抑制(DPP-1阻害、エラスターゼ阻害など)
粘液産生(MUC5B)抑制とIL-1β経路制御
バイオマーカー(NETs、末梢血好酸球、CRP、喀痰の膿性度)の活用
Treatable Traits(治療可能な特性)に基づく個別化治療
結語
気管支拡張症は炎症性疾患として再定義されつつあり、喘息やCOPDとの合併例では、診断・治療ともに高度な個別化が求められる時代となった。呼気NO、画像所見、バイオマーカーを駆使した総合的評価とともに、炎症の制御とクリアランスの最適化が今後の鍵を握る。
