2026年2月26日に開催された
高齢者のプライマリ・ケ ア Forum in 福山 2026に於いて
講演1の座長をいたしました。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
高齢者のプライマリ・ケアForum in 福山
Respiratory Infection Session
高齢者肺炎治療における新たな潮流
~新しい肺炎診療ガイドラインを踏まえて~
座長:高尾 和志
演者
宮下 修行 先生
関西医科大学附属病院 呼吸器感染症・アレルギー科 教授
【重要事項リスト】
- オミクロン株感染後において最も多く見られる症状は咳嗽(せき)である。
- コロナ感染による遷延性咳嗽に対し、エンシトレルビルなどの抗ウイルス薬が有効な場合がある。
- マクロライド耐性の百日咳やマイコプラズマ肺炎が急増しているため、かつての第一選択薬は使用できない。
- 肺炎診療ガイドラインは薬剤耐性(AMR)対策を最優先とし、PK/PD理論に基づく抗菌薬選択を推奨している。
- 高齢者の市中肺炎では、口腔内常在菌(連鎖球菌)や嫌気性菌をカバーする抗菌薬の選択が重要である。
- 院内肺炎や医療・介護関連肺炎において、緑膿菌を想定した広域抗菌薬をルーチンで投与することは推奨されない。
新型コロナ感染後の咳嗽対応
オミクロン株では病変の主座が気道領域に変化したため、咳嗽を訴える患者が急増しました。ウイルス感染後にはC線維が刺激されて咳が遷延することがあり、これを抑制する薬理的アプローチや、タイプ2炎症(喘息などのアレルギー性炎症)に対する治療が有効な場合があります。エンシトレルビル(ゾコーバ)が咳嗽スコアの改善に有効であることが示されています。
マクロライド耐性菌の急増と治療薬の選択
現在、国内でマクロライド耐性百日咳が急増しており、耐性率は約8割に達しています。マイコプラズマにおいても耐性化が著しく進行しており、これまで第一選択であったマクロライド系抗菌薬は推奨から外れました。マイコプラズマ肺炎に対しては、ミノサイクリンや一部のレスピラトリーキノロン(ラスクフロキサシンなど)の使用が有効です。
薬剤耐性(AMR)対策とPK/PD理論
新しいガイドラインの根幹は薬剤耐性菌対策です。単に抗菌薬の使用量を減らすのではなく、「PK/PD理論」に基づき、耐性菌を生み出さないよう十分な血中濃度を保つ使い方が求められています。
【補足コラム:MPC(変異株発現阻止濃度)とは】
- MPC(変異株発現阻止濃度): 突然変異した耐性菌も含め、菌の発育を完全に抑え込むために必要な濃度。
- MIC(最小発育阻止濃度): 普通の菌の発育を抑える最低限の濃度。
- MSW(耐性菌選択域): MICとMPCの間の危険な濃度帯。
抗菌薬の血中濃度がこの「MSW」に留まると、普通の菌は死にますが、薬に強い耐性菌だけが生き残り増殖してしまいます。これを防ぐためには、血中濃度をグンと上げてMPCを一気に超えることが重要です。ラスビック(ラスクフロキサシン)やガレノキサシンは、このMPCを上回る能力を持つため、耐性菌を生み出しにくい薬剤として推奨されています。
高齢者肺炎における起炎菌と緑膿菌カバー
高齢者の肺炎では、これまで常在菌と軽視されがちだった口腔内の連鎖球菌や嫌気性菌が起炎菌となる割合が高いため、これらに有効な抗菌薬の選択が重要です。一方で、院内肺炎において、ルーチンで緑膿菌をカバーするような広域抗菌薬を投与することは、かえって死亡率を上昇させるデータがあるため推奨されません。
臨床的応用(日常診療への活かし方)
患者の背景から適切な起炎菌を予測し、ガイドラインに沿った抗菌薬治療をチームでサポートすることが求められます。高齢者に多い腎機能低下例に対しても、用量調節が不要な薬剤(ラスビックやモキシフロキサシンなど)の選択肢が増えたため、処方箋を確認する際は、腎機能のチェックとあわせて薬剤ごとの特性を把握しておくことが有用です。
