2025年6月28日29日に広島において開催された日本睡眠学会第49回定期学術集会に出席しました。
さらにオンデマンドで何度も聴講し最新の知見を学びましたので報告します。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
睡眠中のダイナミックな体の変化
睡眠は、単に脳や体が休んでいるだけの時間だと思っていませんか?実は、私たちが眠っている間、体内では血圧、心拍数、呼吸、そして自律神経(無意識に体の働きを調整する神経)などが、驚くほどダイナミックに変動しています。最近の睡眠科学の研究から、睡眠中の私たちの体には「起きている時とは全く異なる独自のルール」が存在することが分かってきました。
本日は、睡眠の生理学に関する最新の知見をもとに、睡眠中に私たちの体に何が起きているのか、そしてそれが皆さんの健康や病気(特に睡眠時無呼吸症候群など)とどのように関わっているのかを分かりやすく解説します。
2つの睡眠:ノンレム睡眠とレム睡眠
私たちの睡眠は、大きく「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の2つの種類に分けられ、これらが一晩のうちに交互に繰り返されています。
ノンレム睡眠:大脳を深く休ませるための睡眠です。この時、体は「休息モード」に入り、心拍数は1分間に55回から75回程度、呼吸数は1分間に14回から26回程度の間で安定し、規則正しい状態を保ちます。
レム睡眠:体は深く眠って脱力しているのに、脳は起きている時に近い状態にある不思議な睡眠です。この時、眼球がピクピクと素早く動く「急速眼球運動」が起こり、夢をよく見ると言われています。
この2つの睡眠状態では、血圧や心拍数、呼吸のパターンが全く異なる動きを見せます。
睡眠中の自律神経と血圧・心拍数の不思議な関係
私たちが起きている時、活動量に応じて自律神経の働きが変わり、血圧や心拍数が調節されています。ラットなどの動物を用いた精密な実験によると、体を動かしている状態から、静かに休んでいる状態、そして「ノンレム睡眠」へと移行するにつれて、体を活発にする「交感神経」の働きは全身で均等に低下していきます。これに伴い、心拍数と血圧も見事な右肩下がりの一直線に沿って低下していくことが確認されています。統計学的にも、この関連性は相関係数「r=0.97(P<0.05)」という極めて強い数値で証明されています。
ところが、「レム睡眠」に入ると、この規則正しいルールが完全に崩れてしまいます。ノンレム睡眠時に例えば1分間に約425回だった動物(Rat)の心拍数は、レム睡眠に入ると約415回へとさらに低下します。それにもかかわらず、血圧は約104mmHgから約110mmHgへと逆に上昇してしまうのです。
さらに驚くべきことに、全身で一斉に休んでいたはずの交感神経が、レム睡眠中には「体の部位によって全く違う動き」を始めます。例えば、腎臓周辺の交感神経の活動は約60%にまで大きく低下する一方で、腰周辺の交感神経の活動は約115%にまで急上昇します(相関係数 r=0.99、P<0.05)。つまり、レム睡眠中の体は、一部は深くリラックスしているのに、別の一部は興奮状態にあるという、非常にアンバランスで特殊な状態になっているのです。
レム睡眠中に起こる突発的な体の変化
レム睡眠中の血圧は、全体的に高めになるだけでなく、「突発的な急上昇(スパイク)」を頻繁に起こすことが分かっています。
実験データを詳細に分析すると、眼球が素早く動く「急速眼球運動(REM)」が発生するのとほぼ同時に、血圧が突然最大で約12mmHgも跳ね上がり、それに少し遅れて心拍数も最大で約15回/分ほど急上昇することが確認されました。また、これらの変化に先立って、脳波の特定の周波数(シータ波)が最大約1.5Hz上昇していることも分かりました。これは、血圧の乱高下や心拍数の急上昇が、単なる偶然ではなく、脳からの指令によって引き起こされていることを示しています。
さらに、最新の特殊な顕微鏡(2光子顕微鏡)を用いた研究では、レム睡眠中の大脳の毛細血管に流れ込む「赤血球(酸素を運ぶ細胞)」の数と速度が、覚醒時やノンレム睡眠時よりも明らかに増加していることが観察されました。これは、レム睡眠中の脳が一時的に大量の酸素を必要としており、血管がそれに即座に反応している証拠と考えられています。
レム睡眠と睡眠時無呼吸症候群の深い関わり
睡眠中の「呼吸」の変化も、私たちの健康に直結する重要なテーマです。
ノンレム睡眠中の呼吸は、メトロノームのように極めて規則正しく、一定の換気量を保ちます。しかし、レム睡眠に入ると、呼吸は突然浅くなり、回数が増え、ペースが速くなったり遅くなったりと、非常に不安定になります。
この不安定な状態は、時として呼吸が完全に止まってしまう「無呼吸」を引き起こします。実際の睡眠時無呼吸症候群の患者さんの検査データ(睡眠ポリグラフ検査)を見ると、レム睡眠の時期に一致して長時間の無呼吸が頻発するケースが多く見られます。重症な例では、血液中の酸素の割合を示す「SpO2(動脈血酸素飽和度)」が、健康な状態(通常96%以上)から約70%台にまで急激に低下してしまうことが確認されています。
ただでさえ血圧が急上昇しやすいレム睡眠中に、このような激しい酸素不足が重なると、心臓や血管には想像を絶する負担がかかります。睡眠時無呼吸症候群が、夜間の高血圧、心房細動、心筋梗塞、脳卒中といった命に関わる病気の引き金になると言われているのは、まさにこうしたレム睡眠中の過酷な体の変化が背景にあるためです。
質の良い睡眠と健康を守るために
「しっかり寝ているはずなのに疲れがとれない」「夜中に何度も目が覚める」「家族にいびきや呼吸の停止を指摘された」といった症状がある場合、あなたの体は睡眠中に十分な酸素を取り込めず、心臓や血管に危険な負担がかかり続けているサインかもしれません。
睡眠は毎日のことだからこそ、その質が将来の健康を大きく左右します。睡眠中の呼吸の乱れや血圧の変動は、専用の検査で正確に把握し、適切な治療を行うことで改善できます。ご自身の睡眠に少しでも不安を感じたら、決して放置せず、ご相談くださればと思います。
本稿は以下の講演を参考にしています。
日本睡眠学会第49回定期学術集会
睡眠学基礎セミナー4 睡眠の生理学
勢井宏義先生(徳島大学)
